第45話 詩が広げる未来の扉

「希望のリレー」が多くの人に受け入れられたことで、千草と香織は、詩がもつ力を改めて実感していた。詩が人々の心をつなぎ、未来への希望や夢を共有する道を作り上げていることが、二人にとって何よりも大きな喜びだった。


ある日、香織がふと新しい提案を持ちかけた。


「千草ちゃん、これから『詩の輪』を地域の学校や施設に広げて、もっと多くの人と詩を共有できたらいいなと思ってるんだ」


「それ、素敵なアイデアだね!」

千草は目を輝かせた。「特に学校で詩を通じて、子どもたちが自分の気持ちを自由に表現できる場があれば、詩がもっと身近なものになるよね」


彼女たちはさっそく、地元の小学校や福祉施設と連携して、詩のワークショップを企画し始めた。子どもからお年寄りまで、様々な年代の人が詩を通じて自分の気持ちを表現できるようにしたい、という思いが込められていた。


ワークショップの日、千草と香織は最初の会場である小学校の教室に足を踏み入れた。教室には興味津々の表情をした子どもたちが待っており、二人を見つめていた。


「今日は、みんなと一緒に詩を書いてみようと思います。詩って、心の中の気持ちを自由に表現するための方法なんだよ。どんなことでもいいから、自分の感じたことを言葉にしてみてね」

千草がそう話しかけると、子どもたちは興味深そうに頷いた。


香織も続けた。「例えば、好きなことや好きな景色、嬉しかったことや不思議に思ったこと、どんなことでもいいの。詩を書くと、心が少しずつ軽くなるんだよ」


子どもたちはワークショップを楽しみながら、自分なりの詩を書き始めた。ある子は家族と行った海の思い出を、またある子は夜空の星に感じた夢を詩にしていた。千草と香織は、それぞれの詩が持つ純粋な輝きに感動しながら、子どもたちの言葉を大切に受け止めた。


ある男の子が書いた詩は、特に二人の心に響いた。


「星の友だち」


夜空に輝く星を見ていると

いつもそばにいてくれる気がする


星が話しかけてくれるような気がして

ぼくも星に「ありがとう」って言いたくなる


星はぼくの友だちで

暗い夜も怖くなくなるんだ


その詩を読みながら、千草は思わず目頭が熱くなった。星を友だちと感じ、夜を怖がらないその男の子の純粋な気持ちが、詩を通じてまっすぐに伝わってきた。


「素敵な詩だね。星が友だちだなんて、とっても素晴らしい考え方だよ。きっと星も、君のことを大切な友だちだと思ってるんじゃないかな」

千草は心からそう言い、男の子に微笑みかけた。


「ありがとう…詩って、心の中をすっきりさせてくれるんだね」

男の子は照れくさそうに答えたが、その目は輝いていた。


その日のワークショップは大成功に終わり、子どもたちはそれぞれの詩を楽しそうに発表し合い、心を通わせる時間を共有した。詩を書くことで、彼らが自分の気持ちをより素直に表現できるようになり、その姿を見守ることで千草と香織も新たな喜びを感じていた。


次のワークショップでは、二人は地域の福祉施設を訪れた。参加者はお年寄りが中心で、彼らは千草と香織の案内を受けて、昔の思い出や今の気持ちを詩にしていった。


ある女性が、遠い昔の風景を懐かしむように書いた詩は、静かで美しいものだった。


「故郷の風」


あの頃の風は、今も心に吹いている

田んぼの中を走り抜ける、あの香り


懐かしい景色が目を閉じれば見えてくる

この場所にいなくても、心の中で生きている


私の中で、いつまでも

故郷の風がそっと私を包んでくれる


その詩を聞いた参加者たちは、しばらくの間言葉を失っていた。まるで詩が彼らを一瞬で過去に連れて行き、懐かしい思い出に触れさせてくれたかのようだった。


「詩って、本当に不思議ですね。こうして昔のことを思い出すと、まるで昨日のことのように鮮やかになります」

女性は静かに語り、目に涙を浮かべていた。


千草は、その詩に込められた思いを大切に受け止め、「詩はいつまでも心に残るものですから、故郷の風もきっとあなたの心と共に生き続けますよ」と優しく声をかけた。


詩が持つ力は、世代や環境を越えて、さまざまな人々の心に深く響いていた。それぞれが異なる人生を歩みながらも、詩を通じて自分自身や他者と繋がる瞬間に、千草と香織は詩の可能性をさらに強く感じた。


彼女たちは、詩が人々の心の中に永遠に生き続けることを信じ、これからも詩を広める活動を続けていく決意を新たにした。


夜、千草は自宅に戻ると、その日の体験を振り返りながら一つの詩を書いた。詩が人々の心を繋ぎ、希望を広げていく姿を、言葉にして残しておきたいと感じたのだ。


「詩の灯火」


言葉は静かに、心の奥で光る

小さな灯火が、人と人を繋げていく


喜びも、悲しみも、すべてが詩となり

心にそっと息づく


時が流れても、詩は消えずに残り

未来へと続く希望を照らし続ける


この灯火が、誰かの心に届くことを願い

私は詩を書き続ける


千草はその詩を静かに閉じながら、詩がもつ力に改めて感謝の気持ちを抱いた。詩が広げる未来の扉、その先には無数のつながりと希望が待っていることを信じて、彼女は新たな一歩を踏み出した。

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