*Grow Impatient*
episode1~名前~
episode1~名前~
気持ちのよい風が吹く河川敷。
少し肌寒くなってきた季節。
だけど、今はお昼時間帯の太陽のおかげで上着を必要とさせないポカポカな秋晴れ。
上には電車が通る鉄橋があり、日陰となっている場所は私の定位置で、いつものようにそこに腰をかけた。
「…何してんですか?」
少年に声をかけられた。
大学をサボってコンビニで買った酒とツマミを広げ、昼間っから気持ちよく一人宴会をしているところで声をかけられた。
知らない少年だ。
少年といっても、高校生ぐらいかな。
ともかく平日の昼間でここにいるには不自然な年齢。
黒の短髪。
色白の薄い顔立ち。
同じく学校をサボって…にしてはそれに違和感を覚える素朴な印象を与える子だ。
私はあたりめを咥えたまま、胡座をかき、繁々と上下黒ジャージの少年を見つめた。
ジャージの上からでもわかるくらいにガリガリだ。
特に見るのも飽きたので流れる川へと視線を戻した。
「何…してるんですか?」
なおも動こうとしない少年は同じ質問をしてきた。
仕方がないのであたりめを差し出す。
「…食べる?」
「…いただきます。」
差し出した一本のあたりめをつまみ、少年は隣に腰かけた。
「何してんですか?」
「別に…ここが気持ちいいから。」
「いつも…この時間に?」
「いや…バラバラ。来たい時に適当に。」
「…そっすか。」
当たり障りのない質問が終わってそれきり黙ってしまい、胡座をかく少年は渡したあたりめをガリガリと噛み始めた。
この子は一体何がしたいのだ。
…というよりこの状況が何なんだと不思議にしか感じない。
「…いくつ?」
しかし好奇心に負けてこちらから質問を投げてしまった。
「え?え?自分っすか?」
逆に質問されるなんて思ってなかったようで、驚いた少年は考えればわかる当たり前のことを聞いてきた。
黙って頷いてから残っていたチューハイを喉に流しこんだ。
「自分は18です。」
「…高校生?」
「いえ、卒業して今年19になります。」
思ってよりも年が近いことに若干驚いた。
でもまぁやっぱり年下か。
「え…と、あなたは?」
「ん?」
「何歳?」
「あぁ、何歳に見える?」
体勢を胡座から体育座りに直して悪戯っぽい笑顔で聞いてみた。
少年はわかりやすく困ったように俯いた。
「同い年…ぐらいと思ったんですけど。」
そう言って私の手に持っていたチューハイをチラっと見た。
当てになるもんでもないが、まぁそれで年上(成人)と判断するのは普通だろう。
「うん。今21。」
「え……あぁ。…えっと」
「…何?」
「…思ってたより年上だったな…って。」
童顔はお互い様だろと思ったけど黙っておいた。
食べ終わったようである少年にもう一本あたりめを渡したら、受け取り小さく「どうも。」と答えられた。
「あの…」
「ん?」
「なんて名前なんですか?」
いよいよこの少年は不思議を通り越して怪しくなってきた。
一体さっきからなんでこんなにグイグイと突っ込んでくるんだ?
「ナベ。」
「…え?」
「…ってみんなには呼ばれてる。」
怪しいから何となくフルネームは避けた。
「…ワタナベさんですか?」
「あぁ、よくそう間違われるけど違う。」
「俺はシミズです!!」
唐突に始まるシミズ君による自己紹介。
掴めない子だ。
「……下の名前は?」
「キョウイチです。」
「キョウイチくん…ね。」
「キョウでいいですよ!!」
その時初めて彼の笑顔を見た。
細めの瞳が更に細まり、目尻が垂れた。
なんだか可愛い…かも。
「…タエ。」
「え?」
「タエって呼ぶ友達もいる。」
「…えっとー、タエコさん…ですか?」
その時、私も初めて笑った。
「ん。正解。」
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