2-7
「どうした?」
ジムがリビングに入ると、クレメンスがソファの上で三角座りをしていた。視線は斜め下を向いていたが、目はうつろで何かを見ているようではなかった。
「……格闘技で、人はどれぐらい死ぬ?」
「えっ?」
「試合の映像を見ていた。スランから言われて」
「あ、ああ」
クレメンスはこれまで、他人の戦いを見たという経験が圧倒的に少なかった。プロの試合はもちろん、架空のヒーローが戦う姿すら知らなかったのである。そこでスランが、映像で勉強することを勧めたのだ。
「打撃で倒された選手を、追い打ちするのをたくさん見た。明らかに試合は勝っているのに。あれは……殺しに行くやり方じゃないのか」
「まあ、実際死人は出ている。ただ、あくまで格闘技はルールのもとにやっている。殺すつもりでやっている奴はいないさ」
クレメンスはジムへと視線を向けた。
「俺は殺すつもりで、鍛えてきた。父親が殺されたのを見たからだ。倒されてからも、殴られ続けていた。そして死んだ。だからどうしても、殺すつもりに見えてしまう」
「クレメンス……まさか、お前がこの前腕をとったのって……」
「そうかもしれない。格闘技は殺し合いじゃないと言われたから」
ジムは考えた。殺すつもりで戦えば、クレメンスはどれほど強いのだろうか、と。ただ、冷静さを失って弱くなるのかもしれない。
「怖さがあるなら、それでいい。戦うのは怖いものだ」
「……」
クレメンスは何か言いたげだったが、言葉を紡げずにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます