衝撃

2-1

 アマチュアの総合格闘技の大会。ヘビー級トーナメントには4人の選手がエントリーされており、その日のうちに優勝者を決める。メインは別の階級で、そちらにはプロ経験もある選手が出場する。

 クレメンスに注目する者は、大会前にはいなかった。

 だが、会場に現れた彼を見て、視線を奪われる者たちはいた。出場者や、目の肥えた観客たちは彼がただ者ではないことをすぐに見抜いた。

 体が大きい、というのは一つの才能である。どれだけ頑張ってもヘビー級の体になれない者がたくさんいる。ヘビー級の体に慣れない者も、である。しかしクレメンスは、自然なヘビー級の体をしていた。骨格から太いのが見て取れた。背も高く、肩幅も広い。手足は長く、太すぎない。

 もちろん、鍛えて手に入れた体でもある。しかし何人かはこう思うのだ。「ああ、俺ならもっと素晴らしい体に仕上げられるのに!」

 クレメンスは会場をきょろきょろと見回した。この前に比べて、観客は少ない。それでも、いくつもの目がリングに向いている。

 クレメンスは一度目を瞑り、大きく息を吐いた。

 彼の出番は第一試合である。相手も初出場で、クレメンスよりさらに一回り大きかった。ただし、筋肉質ではなくおなかが大きく突き出ている。

「あの体で押し込んでくる。気を付けろ」

 スラン会長が、対戦相手に視線を向けながら言う。クレメンスは一瞥もせずに答えた。

「問題はない」



 リングの上に、大男が二人いる。

 ジムは、客席にいた。そこからクレメンスの試合を見届ける。この前とは逆である。小さな会場であり、リングが近い。それを抜きにしても、ヘビー級の二人は大きく見えた。

 体重は、クレメンスの対戦相手、マゼンダの方が15キロ重い。ヘビー級でなければ考えられない差である。ただ、クレメンスのほうが背が高く、強靭に見える。牡牛のようだな、とジムは思った。

 マゼンダは、ボクシング出身ということ以外情報がない。キックがどれほど出せるのか。寝技はどうなのか。そういうことが全くの未知なのだ。

 それは相手にとっても同じ、と信じたい。

 試合が始まる。二人がリングの中央に進み、ゴングが鳴らされた。

 マゼンダの右ストレートが、クレメンスの右頬を打ち抜いた。

「ああっ?!」

 ジムは、素っ頓狂な声を出してしまった。

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