第31話 【MOVIE X】o72iより$X

……飛行機の中で見た夢は”サイアク”なもんだった。


だから、決めた。誓った。


正夢にはしないって。




<ガシャガシャ>


ちっ、やっぱ傘鍵じゃ無理か。


よかったよ、こんなこともあろうかと部屋取っといて。


しかも、隣。


これならパイプつたったり、しなくて済む。


もう、これしか方法が無いからな。


マジで、ハリウッド映画かよ。


<バリン>


ベランダをよじ登って、間切のいる部屋のガラスを思い切り、ぶん殴った。


破片が刺さって、痛い。とかじゃ形容出来ないレベルで痛かった。


けど……こんなのは、あいつの蹴りに比べたら、あいつが苦しみ比べたら、俺がすることになる後悔に比べたら、大したことはない。




中に入るとベットに寝転がる下着姿の間切と、その上に覆い被さる男が見えた


「……はっ……あんた何しに来たのよ!」


「そんなの決まってんだろ!」


ここで……


『むかえに来たんだよ、お前を!』なんて言えたらかっこいいんだろうな


「むか……ついたからぶっ壊しに来たんだよ、てめえらの愛の巣を!」


「そいつに触わんじゃねえよ、このクズ野郎!」


俺はライダーキックばりの飛び蹴りを間切の上に覆い被さる男に食らわせてやった。


「あ゛?」


そうか……てめえだったか


それなら俺の家を特定できたのも合点がいく。


「久方ぶりだな……店長」




「ガキィ……。てめえさえ、てめえらさえ居なければ!」


「俺様はっ……貧乏で、底辺でも、渋谷に1k買って、渋谷住みってステータスを手に入れて、それなりの人生を送るつもりだったのに……!」


「あ? 何わけのわけんねーこと言ってんだ?」


<ゴッ>


店長の右ストレート。


「てめえらのせいで、俺様は借金まみれなんだよ!!」


<ゴッ>


左ジャブ。


「けど、まぁそのおかげでよぉ、この女とヤって、大物ユーチューバーになれる機会ができた!」


「はぁ?」


<ゴッ>


「店長だから頂点で、性交して成功だぁ? 寒いんだよテメーは!」


思いっきり右ストレート返ししてやった。


「んなこと言ってねえだろうが。」


「るっせえよ、さっさと逝け、このクズ野郎!」


「お前だって同類じゃねえかよ」


<ゴッ><ゴッ>




「ああそうだよ。」


「だけど、そんな俺にこいつは一緒に夢の国に行こうって言ってくれた!」


「だから……てめえをぶっ倒して行く!」




「そんなに行きたきゃ今すぐ送ってやるよ!夢の国までな!」


俺の左ストレート。


<G―>


<ゴッ>


カウンターで、店長の裏拳ボディーブローをおもいっきしもらった。


「オメェは相変わらず、よえーままだ。分かるかァ? ガキじゃ大人には勝てねーんだよ!」


「……かもな」


<バンッ>


「こ、これは煙花火!?」


――バヂヂ


良かったよ、てめえが素っ裸で。


これなら一撃で葬れる。


<ドッ>


――バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ


「あああああああいでぇ“ぇ”あfぇ“がァえ”がggあgア“げshへ」


店長の身体にスタンガンがクリティカルヒットした。


<バタン>


「きったねえぞ…………武器使うなんt……。」


……汚い?


「テメェにだけは言われたくねえな、そのセリフ。」


それに……俺の手はどんなに汚れても構わない。自分の大切な人たちを守れるなら。


ダサくて、みっともないけど、それでもいい。




「ハァ……ハァ……。」


やべぇ疲れた。視線を感じて、横を見る。


やべぇ格好でベットの上に座り込む間切を見て、同じセリフを繰り返しそうになってくる。俺はそれを必死に堪えた。


可能な限り目線を逸らすことを善処して、俺は言う。


「とりあ、上着着ろよ……。」


「……うっさい、今着るし」


瞳をうるうるさせながら、ポツリと呟く間切。


よっぽど怖かったのだろうか、ヤケに素直だ。いっつもこの間切だったらいいのに、だなんて思った。




シャツを着終わった間切がくるんと、振り返ってこちらを向いた。


「武器使うなんてダサすぎ。」


「ダサくて悪かったな……。」


って…… そんなん今はどうでもいい。


「なんで、てめえはこんなことしたんだ!」


「なんでって……。」


「こんなことして、俺が喜ぶとでも思ったのかよ!?」


「……思ったわよ。……あたしみたいに勝手であまのじゃくな傲慢女、キライでしょ!?」


「……キライだったよ、その言葉通りのお前をな。」


「だったら、どうして……!」


「今の俺は……その言葉通りの以外のお前を、知ってる。勝手で、あまのじゃくで、傲慢で、うざくて、わがままで、暴力的で、最低d――――」


「はぁ? わざわざ悪口言いにこんなとこまで来たわけ?」


間切に途中で遮られる俺。


「待てよ、最後まで聞いてくれ。それでも……笑顔がかわいくて、一緒に居て楽しくて、なんだかんだ心優しくて、いつも俺の心に光を射してくれる、そんなお前が、間切が、間切こももが大切なんだ。」


「……は、なっ、何言ってんのよ……」


「だから喜びなんかしないし、こういうことされんのはすごく胸が痛いんだ。だから、もうこういうのはもうやめてくれ。」


「……なら。どうしてあの時」


「あの時……?」


「土下座なんてしたのよ!」


「土下座とパコじゃ次元が違うだろ」


「次元とかそんなの知らない! あたしはイヤだったもん……。」


「お前の言いたいこともなんとなく分かる。けど正直、あん時はさ、お前のことよく知らなかったし。割とお前がどう思ってようと関係無かったんだ。」


「……は?」


「あんときは、ただ、俺の理念つーか、そんな感じでイヤで……」


「けど、今は違う。お前がイヤってんならやめる。だから……もう、こういうのは、俺がイヤだから、やめてくれ。」




「やめられない……よ。」


「は????」


「だって……あんたが傷つくとこ見たくないから。」


「じゃあ、また、同じことが、起きたら、お前はまた行くってんのか!?」


「うん。」


「イヤだ、やめてくれよ、きついんだ。」


「あたしもやだ。きついから。」


…………………………。


「じゃあ、もうユーチューバーやめてくれ。」


「は? ……なんで!?」




「だって、お前のファンにはいるだろ、店長みたいなやつ。たぶん。」


「お前がユーチューバーやめれば、たぶん落ち着くだろ。この騒ぎは。」




「イヤだ。絶対やめない。あたしにとって、YOUTUBEは全てだから。あんたが何言っても続けるから。」




「……は。じゃあもう。また、次同じことが起きたら止めらんないじゃんか。」


また同じことが起きて、またこんな胸を傷めるのか……?


もっと、こんなもんじゃ済まない、傷みに苛まれることにだって……。


……いや。ある。一つだけ、方法が。




「じゃあ、俺と一緒に炎上してくれ!!」


「は? あんた何言って?」


「俺も、お前も、同じチャンネルをつくって、やるんだ。」




「そんで……お前を傷つけようとするやつは、リアルでも、ネットでも、ぶっ倒す。


お前のことを守れるようになるから、お前のヒーローになるから。」


「だからお前は、俺を傷づけようとするやつを全員蹴り飛ばしでも暴言でも、なんでもいい。やっつけてくれ。」




「はぁ……? 意味わかんない! そんなの無理に決まってんじゃん!」


「失敗を恐れて何も行動をしない人に、成功なんてあるわけない。そうだろ?」


「そうだけど……。」


「必要なのは出来る自信じゃない。やってやる!ってお前自身だろ。」


「あんたは何も分かってない! 偉そうに言うな!」


「言う権利は誰にもあるんじゃなかったのかよ!?」


「たしかに、ある、あるけど……説得力があるかは別の話でしょ! あたしと同じ言葉使ったって! あんたには! 何の説得力も無いのよ!」


「んなこと! ね…………。」


『んなことねえよ』って言える俺自身が見つからなくて途中で端折ってしまった。


そりゃ……そうかもしんない。俺は間切ほどすごくない。名は少し通ったけど、全て自分の力で勝ち取ったものじゃない。間切がキレるのも無理もない。


「じゃあ……俺の言葉で話す、それならいいだろ。」


「聞いてみてから……じゃない、それは。」


<スゥー>


俺は深く深呼吸をする。


「俺さ、お前に出会う前はさ、お前の言う通り、マジで同じことの繰り返しで、クソつまんなかったよ。」


……そう。あんなのはオナニーと同レベルだ。


「けど、お前と出会ってから変わった。お前と出会ってから、ずっと楽しいんだ。」




「だから……」




「俺はお前とセックスしたい!」


「はぁ?? へっ!? はぁ?」


間切頬がポツっと茜色に染まった。


……。


…………。


……………………。


「……責任、とってよね。」

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