第6話 転移の理由
社長の「世界征服ってできると思うか?」の言葉。
前マネージャーのメモに残されていた「世界征服」の文字。
なんだか思考が誘導されているようで、気持ちが落ち着かなくなってきた。
前世にいた最後の日、私も考えていたのだ…
“世界征服だって、きっと夢じゃない…”
ふと、自分が転移した理由について考えてみる。そもそも理由なんてないかもしれない。偶然の産物なのかもしれない。
でも、もし、“世界征服”が目的だったとしたら…?
こんな普通の女に、一体どうやって世界征服などできるというのだろう。「カリスマ性があれば」なんて社長に言ったけど、そんなものは生まれてこのかた持ち合わせていない。カリスマ性がなくても世界征服ってできるのかな…?
…違う。前世で私が思っていたのは、“私”ではなく、“彼ら”の世界征服だ。ステージ上で輝く、アイドルたち。
私が彼らのマネージャーになったのは、プラネット・ファイブを世界征服に導くため…?
自分が非現実的なことを考えているというのは、頭の中で理解していた。でも、実際に非現実的なことがすでに起きている。私が違う顔と体になって、違う世界にきたこと。それ自体が信じられないことだ。
であれば、世界征服なんて夢物語も、夢で終わらないのかもしれない。
でも、仮に、もし、それが転移の理由だったとして、世界征服した先に何があるのだろう。そもそも私は、この世界を支配したいなんて野望は持っていない。世界中の人に注目されたいなんてことも一度も考えたことがない。征服をしたところで、何をする気にもならない。
何かの間違いで転移してしまったのだろうか。そう思うと、誰に対してというわけでもなく、なんだか申し訳ない気持ちになった。
*
翌朝、インタビュー立ち合い準備のために早めに出勤をした。某有名雑誌の特集ページに「プラネット・ファイブの日常」という企画が掲載されるため、そのためのインタビューが行われる。
雑誌の記者には我々の事務所まで来てもらって、打ち合わせ室でインタビューをしてもらう予定である。そのための机や椅子のセッティングもマネージャーの仕事のため、誰よりも早く来たのだった。
朝6時の事務所の中は誰もおらず静かで、空気が澄んでいるような気がして、なんだか居心地がよかった。前世では夜遅くまで残業していたから、朝もギリギリだった。早く出勤するのも悪くないな。
そういえば、忙しさは前世と変わらないはずなのに、不思議と苦にはなっていない。もしかすると、これが私の天職だったのかも。世界征服とかはたまたま社長と前のマネージャーが言っていただけで、ただ天職に就くために転移したのかもしれない。
そう思うと、俄然やる気が出てきた。早くインタビューの準備を片付けてしまって、「プラネット・ファイブ」プロモーション案の企画を考えてみよう。マネージャーとしてできることはたくさんあるはずだ。
打ち合わせ室に向かおうと立ち上がったその時、今では耳に馴染んだ音楽が聞こえてきた。これは、プラネット・ファイブの新曲「輝く君のまわりで」だ。
音楽の聞こえるほうに向かうと、アイドルたちがダンスや歌の練習をするスタジオ室に、人影が見えた。人影は、曲に合わせてダンスの練習をしている。
「プラネット・ファイブ」の最年長メンバーである、三浦蓮だった。
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