第44話



「んー、んっま」


「響、クリーム口の横ついてる」


「ん」


「……」



あまりの暑さに逃げ込んだ甘味処にて。クリームソーダのグラスに両手を添えたまま顎を突き出す響は甘やかされすぎた犬のようだった。


テーブルの脇に設置されたナフキンを一枚取り出し、「自分でやんなよ」と言いつつ口の端を拭ってやるのはもはや癖みたいなものなんだと思う。



「だって涼がやってくれるじゃん」


「……社会人になったとき困るよ?」


「社会人になっても一緒にいるからいい」


「っ、」



にーっと生意気な笑顔がこの世のものと思えないほど可愛い。180センチ越えの人間でここまで可愛い人そういないと思う。ていうか、いない。断言。


ぎゅううと心臓を掴まれつつ、これ以上甘やかすのも癪なのでコーラフロートのストローを咥えて目を逸らす。



「で、聞きそびれてたけどさ、どういう風の吹き返し?」


「吹き回し」


「どういう風の吹き回し?」


「主語くれ」


「スカートだよ、スカート。何で急にそんなもん履こうと思ったのって。……分かれよ、長年連れ添ってんだから」



……“連れ添う”とか、夫婦に対して使うもんなんだが?


ただの日本語不自由に不覚にもキュン。そんな事実、バレるわけにいかず、「あー、職場でね」とツッコミなしで口を開いた。



「インターン先の先輩にね、勧められたの。きっと似合うよって。前からちょっと興味はあったし……タイトスカートなら挑戦してみてもいいかなと思ったの」


「……」


「な、なによ。なんか言ってよ」

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