第39話

周りから見たら、満員電車でいちゃつくカップルに見えていたりしないだろうか。なんて、浮ついた心配。


後追いで「カップルに見えていたとしても同性カップルだろうけど」と現実的な思考で自分を落ち着かせようとしたが、それでもまだ浮ついた妄想だ。


私と響の関係において恋心なんて邪魔なのに、どうしたって消えてくれないから困る。うまく付き合って生きていこうと決めたって、期待と煩悩が事あるごとに顔を出す。



「涼、次降りるぞ」


「え?」



目的の駅まで3駅を残して、声をかけられた。意味も分からず戸惑っている間に手を引かれ、開いたドアから降車する。


「なんで?まだ3駅もあるのに」と問えば、こちらも向かずに「今日のお前、俺以外に見せんのイヤ」と子供っぽく返ってきた。


口には出さず心の中で再び唱える。「……なんで?」って。


慣れない格好をした私が大学のみんなに馬鹿にされないようにとかそういうことだろうか?そんなにスカート姿、変?


彼の発言の意図をぐるぐる考えていれば、私の歩みに迷いがあるのに勘づいたらしい。



「真面目だなぁ。どうせ今から行ったって一コマ目遅刻決定じゃん」


「まあ、そうだけど……」



どうやら、私が授業をサボることに対して躊躇っていると思っている彼は飄々とした顔でこちらを向く。



「ならもう潔く今日は遊ぼ。別に今日の授業必修じゃねーし、こういう日もたまにはいいじゃん」


「……」



私の手を引いたまま、人の波を流れるようにまた前を向いて歩く響。斜め後ろから形のいい耳を眺めながら、こういうさっぱりした性格も人として好きだと改めて思う。


無邪気で自由なところに幾度となく振り回されてきたけれど、慎重派でその上すぐに気負ってしまう私はこの楽観主義に救われることも多かった。


例えば、中学時代。100メートルハードルで県下の強化指定選手に選ばれていたにも関わらず、肉離れで夏の選手権への出場チャンスを逃した時。


『俺と遊べるからいいじゃん』って。『俺のこと放っておいたからバチが当たったんじゃねー?』って。


一見、配慮の足りない言葉のように感じるが、響は言葉のとおり私の怪我が治るまでずっと一緒にいてくれた。

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