第24話 秋斗 歓迎会

今日は飲み会、というか歓迎会をしてくれるらしく、本当なら行きたくないが行かないわけにはなぁ…。


はぁ。


男だけならまだしも、部署全員ともなると女性社員も当然参加するわけで。


本当に面倒だ。


ちーちゃんには申しわけないが、今朝ペットホテルに預けてきた。

どう頑張っても7時になんて帰れない。

そんなことを考えながらパソコンに向かう。


上司 「立花君、今日18時からだからね、歓迎会♪」


秋斗「はい、ありがとうございます。」


上司「もう朝から女の子たちが立花君と飲めるって騒いじゃって。顔も良くて仕事もできて、独身とくればねぇ。俺が女なら俺も騒いじゃうよ(笑)」


秋斗「ハードル上げないでください、そんなことありませんから。ただ、お伝えしていませんでしたが、お酒が飲めないので、そこだけご勘弁を。」


上司「え?そうなの?まぁ、今は無理強いしたらアウトな時代だからね、了解。」


それからあっという間に退勤の時間になり、俺は酒が飲めないこともあり上司を車に乗せて店に向かった。


店に入るとすでにみんな揃っていた。


上司「おー、みんな揃ってるね。飲み物揃ったら始めよう。それと、立花君はお酒ダメだからみんな飲ませないように。」


女性社員 「えぇー?そうなんですかー?せっかくお酒飲みながら色々聞きたかったのにぃ。」


上司「酒がなくても聞けるだろうが。今日は歓迎会なんだから、勘違いしないように。」


男性部下・三浦 「あ!じゃあ、僕、立花さんの護衛しますよ!うちの女子社員達、圧が強いんで。」


上司 「ハハハッ。確かに(笑)。じゃあ三浦君、立花君の隣でしっかりガードをするように!」


三浦「承知しました!」


え?

工場の人たちって、何ていうかアットホームなんだな。

東京の飲み会の席とは民度が何か違うというか…

学生の頃も、社会人になってからも、男女関係なく

顔のことを話題にされたり、遠回しに嫌味を言われたり、色々面倒な人達が多かったのに。

もしかして、俺のこと気遣ってくれてる?

こんな風に同性から守ってもらえるのって初めてだ。


三浦「立花さん、隣失礼しますね。冗談じゃなくて、うちの女子達、本当にすごいんで。酒が入ると特に。実は…こんな普通の僕だって、セクハラまがいのことされたことあるんで。僕がしっかり守りますからね。」


三浦君が小声で教えてくれる。

なんて親切なんだ、上司も三浦君も。

有り難い。


女性社員 「ちょっとそれ、失礼じゃないですかぁ?こんなハイスペックな方、うちの工場にはいないじゃないですかぁ。仲良くなりたいなって思って当然ですよ。」


確かに…

酒のんでなくても圧が。


上司「よし、飲み物揃ったし始めよう。では、立花君挨拶を。」


秋斗「はい。あの、今月から1年間お世話になります、立花秋斗です。本社、営業部でずっとやってきました。今回、会社のことをもっとよく知るためにこちらで工場のことを勉強させて頂きたいと思っています。何卒、ご指導のほど、宜しくお願いします。」


上司「というわけなんで、期間限定ではあるが1年一緒に働くんで、みんなよろしく頼む。俺たち労務管理の部署配属ではあるが、現場作業も入ってもらう予定だ。まぁ、何かあったときはみんなでフォローしながらやっていこう。では、乾杯!」


三浦「立花さん、僕、まだまだ下っ端ですけど、困ったことがあればいつでも聞いて下さいね。」


秋斗「ありがとう。」


三浦「僕、立花さんと話してみたいなーって思ってたんです♪本社って東京じゃないですか。なんかそれだけでオシャレっていうか。みんなスーツで洗練されてる感じがして、カッコいいなーって。僕なんて、しょっちゅう現場の欠員対応させられるんで、上司に毎日作業着でいいって言われちゃって。スーツ着てたいのに。」


秋斗「ふっ。三浦君て、面白いんですね。思っているほど本社はキラキラしてないかもしれません。雰囲気も結構殺伐としてて。みんな成績に追われてるから。僕達が頑張らないと、工場に仕事まわせないのもあって結構必死感がある感じですよ。」


三浦「そうだったんですね。すみません、僕、何もわかってなくて。」


秋斗「いえいえ。本社と工場、お互いのことを知る良いきっかけになりますし、興味があることは聞いてください。」


上司「おっ、三浦、今日はしっかり頼むよ。立花君も押しに弱そうだから。ガードしてやらないと。」


秋斗「私は本当にこれは…と思った時は容赦なく相手にハッキリ言えるタイプなんで、大丈夫ですよ。」


上司「そう?そうなの?イケメンって愛想振りまいて適当に撒くイメージあるけど。」


三浦「それ、偏見ですよ。立花さんは大人の男ですから変に気をもたせる態度なんてしないと思いますけど?」


上司「おい、三浦、まだそんなに立花君のこと知らないだろ(笑)まあ、だいぶ前だけど、社内恋愛こじれて大変な目にあった奴を知ってるから…。用心しすぎなくらいでいいと思うぞ。」


秋斗「ご忠告ありがとうございます。今回ここに来た意味をよく理解して来てますので。そういったことにはならないよう、用心します。」


それからしばらくは男でまとまって、楽しい時間が過ぎた。

会社の飲み会が楽しいなんて初めてだ。


上司「ちょっとトイレ」


上司が席を外したのと同時に、隣に人の気配が…

さらに腕に重みが。


…。


女性社員「立花さーん、やっと隣空きましたねっ。おじさん相手に話しててもつまらないですよねー。ちょっと三浦君も隣どきなさいよ。」


三浦「あっ!油断も隙もない!やめてください。僕、今真剣に仕事の話聞いてるんでぇ!」


女性社員「やだぁー。上司戻ってきたら私絶対どかされちゃうもん。いいじゃん、少しくらい。」


秋斗「ちょっと失礼。」


勝手なスキンシップ、俺は生理的に無理だ。

さり気なく彼女の腕を剥がし席を立つ。


女性社員「あっ、逃げた。もうっ、三浦君が邪魔するから。ま、いっか。三浦君でも。隣来てよ。」


三浦「イヤです。どうしてお酒が入るとこう、性格豹変するんですかね。ヤダヤダ。普段も怖いけど。」


俺はトイレに行くふりをして店の外に出ると、

そこで上司がタバコを吸っていた。


上司「おっ、立花君。やっぱりねー。そろそろ外に来る頃かなって。一人厄介な女性社員がいるもんだから。」


秋斗「いや、ハハッ。実はそうなんです。逃げてきました。」


上司「あの子も仕事はきちんとやれる子なんだけど、酒グセがね。すまんね。今ごろ三浦が相手してると思うけど。あら、もうすぐ2時間経つね。解散しようか。」


助かった。

三浦君と、上司のおかげで嫌な気分にならずに終わりそうだ。


席に戻ると三浦君が絡まれていた。


上司「お、ちょっと悪いけどその席俺の。君はあっちに戻りなさい、もうお開きにするんだから。」


女性社員「えー。ぜーんぜん立花さんと話せなかったじゃないですかっ。もう。」


三浦「いやぁー、遅いですよ二人とも。僕限界寸前。立花さんのこと、アレコレ聞かれましたよ。何も知らないから知らないって言い続けてたら、腕何回も叩いてくるんです。痛かったぁー。」


そう言いながら、今度は三浦君が俺に抱きついてきた。


三浦「もぉ~、立花さんが戻ってきてくれないから〜。僕、頑張ったんですよ?褒めてください。」


え?

飲み会だと、だいたい男は俺に嫌味を言うか、あまり話しかけて来ないパターンがほとんどだったのに。

なんだコレ?

てか、三浦君だいぶ酔ってるし。

俺のためにあの女性社員の相手してくれてたんだもんな。


秋斗「三浦君、ありがとう。」


俺は自然と背中を擦ってやった。


上司「こら、三浦、飲み過ぎだ。離れなさい。さぁ、みんなもう時間だ。今日はお疲れさん!立花君もよろしくね。車のメンバーは代行サービスの車がそろそろ来るから準備しなさいよ。」


そういうと、意外とみんな素直に支度してバラバラと外に出始めた。


そういえば、店の予約も、部下の車の手配も上司がやってくれたのか。


秋斗「ありがとうございます、色々手配までしてくださって。」


上司「いや、いいんだ。俺が好きでやってるだけ。何でもかんでも部下にやらせるのはね。給料多く頂いてるんで(笑)このくらい大した事ないよ。それより三浦がすまんね。」


まだ俺にくっついている…。

でも、俺のために頑張ってくれて嬉しかった。

同性の味方がいるって、こういう感覚なのか。


秋斗「あの、三浦君どうします?」


上司「そうだな。三浦は他のやつに乗せてきてもらってるから、よければ送ってもらえるか?俺はもうすぐ嫁がここに来てくれるから。」


秋斗「承知しました。」


俺はそのまま三浦君を抱えて車に乗せた。


秋斗「三浦君、家の住所言えますか?」


三浦「ん~、わかんない(笑)僕眠いの。」


これじゃ話にならない。

ダメだ…

このまま今夜はうちに泊めるか。


隣でいびきをかいて寝ている後輩を乗せて家に向かった。









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