6-2:邂逅




 まぁおじさんは過去を見れないから、直接知っているわけじゃないけどね。

 『幸運』なんてあからさまなチート能力、多分そういうことなんじゃないかな。


 おじさんたちみたいな万能チート系は意識的無意識的問わず、自分の魔力核に干渉してそういうことができるからね。

 だから、代償の確率の小ささに対して、発生した時の規模が大きい。まぁ『幸運』にも範囲は狭かったみたいだけど。


 『幸運』ちゃんとおじさんの違いは、最期のその瞬間を知っているか否かぐらいだ。


 いやまぁ他にも『幸運』ちゃんとおじさんの違いはいっぱいあるんだけどね。人格的にとか。

 おじさんはぶっちゃけただのエゴでやってるだけから、彼女みたいな聖人君子にはなれないよ。




(……あなたの……場合は)




 いや、なんか悲惨な死に方するとか思われてるかもだけど、別に死なないよ?


 人は別に未来が無くたって、死にはしないんだからさ。


 大丈夫だって安心しろよー。ヘーキヘーキ、ヘーキだから!




(……)




 信じてもらえないって辛いね……悲しいなぁ……(諸行無常)


 しょうがないにゃぁ。いいよ。

 じゃあ『伝達』ちゃんには特別に、ネタ晴らしをしよう。






 このチャートの最終目標。について。





 何をやりたいかってのは、前あったときも言っただろうけど。

 それをどうやるかまでは言ってなかったもんね。教えてあげるよ。


 とりあえず、魔物の殲滅は過程であって目的じゃないんだよね。


 そもそもの話、おじさんの『未来』の魔法ってどういうものだと思う?


 この魔法の本質はね、観測と決定なんだ。すなわち選別。

 じゃあ、この観測できる『未来』とは、何だろうか。


 これは単純に、これから先に起こりうるものすべて。


 ここでいったん、代償の話に戻るよ。『未来』の代償とは何かという話。


 代償とは属性を失うことと、属性によって起きた結果を失うこと。


 結果を失うのは『比重』属性だと分かりやすいね。

 魔法によって変化させた物の重さが元に戻る。


 じゃあ『未来』は?




 そう、




 一つの真実として、この世界と魔力とは本来相容れないもの同士だ。

 当然、魔力現象が世界を書き換えるのと実際の現実世界の現象には齟齬があるから、上手く元通りとはいかないところはある。

 不確定要素、どうなるかわからない部分も多くて、そのままではきっと歪な形で世界が書き換わってしまうんだろうね。


 ところで、魔力現象にはタイムラグがあるって話をしたか覚えてないけどさ。

 それぞれの消失って実は同時には起こらないわけなのよね。


 具体的には、結果の消失、属性の消失の順に起きる。

 属性が結果を起こすのだから、それを戻すためには結果が先に消えなければならない。


 つまり、属性が結果を消して、最後に属性自身が消える。

 まぁ実際は消えるわけじゃなくて、属性を生み出せなくなるってことなんだけど。

 魔力核が魔力変換を暴走させた結果、属性が起こした結果をも属性と見なして魔力を生成しようとしてるってことだね。

 魔力核が代償を起こすのだから、代償の結果消失は魔力核を持つ本人を中心に起こる。といっても、この国の範囲くらいならさほどタイムラグは無いくらい爆発的に広がるんだけど。

 ちなみにこの過剰な変換で発生した魔力は留めることはできない。量があまりにも過剰すぎて、魔力を貯める機能も一瞬でパンクして、大気に霧散しちゃう。

 このメルトダウンじみた魔力漏れが、実質的にコアブレイクの本質と言っていいんじゃないかな。属性の消失も、大体このタイミングで起こるし。

 だからある意味、役目を終えた魔法少女は特異点の目的の一部を果たしてるって言えるのかもしれない。まぁ魔物の移住は絶対に果たされないから、マジで意味ないけどね。



 ちょっと話がズレちゃった。


 まとめると、代償発生による属性の消失と、結果の消失は同時には起きてない。

 それはほとんど同時だから普通は誰も気づかないほどだけども。要するに何が言いたいかっていうと。




 そのほんの僅かな時間だけは、使


 代償発生を起点に起こる、を選択できてしまう。




 これがどういうことか分かる?

 この一瞬に限り、『未来』の力で過去を改変できるんだ。


 もちろん、単なる代償ではそこまで大したことはできない。

 世界を改変するほどの反動を起こすには、普通の代償の規模では不十分すぎる。


 だから、全ての魔物を殲滅する。その4万体分の経験値で魔力核を成長させて『未来』を育てる。

 魔法と魔力を使いまくって、魔力変換の代償を本当の最大の限界まで、溜め込めるだけ溜め込む。


 そうして、魔物という一つの種族のすべてを犠牲にして。

 最後の最後、こんな最悪の現実世界に、思いっきりどかんと一発、叩きつけてやるんだ。


 さっきも言ったように、魔力と現実は本来相容れないシステム。

 そんな異常なレベルの魔力現象を世界がいっぺんに許容することなんかできっこない。

 結果的にオーバーフローのバグのようなものが発生して、本来選択していなかったことまでうっかり書き換わってしまう。

 無理やり、起こった出来事に現実を合わせようと世界が変化を余儀なくされる。

 どういうことが起こるかというと、起こってもいないことが起こり得るわけだ。

 逆もまた然りで、起きたことが起こっていないことにもなったりする。


 はっきりいって、特異点の魔力過剰流入とおんなじで、下手しなくても普通なら世界が滅ぶよね。

 でもまぁそれはちゃんと選別して大丈夫なようにするから安心していいよ。



 おじさんがこれからやろうとしてるのはね。

 過去を、魔物がいない世界にすること。


 これから、ではなく、これまで、だ。



 魔物が絶滅したという記録を残したまま過去の書き換えが行われるように、上手く選別する。

 そして魔物がいないという結果に基づいて、また世界が書き換わっていくのも上手く選別する。


 この世界に魔物がいないということは。

 魔力が直接的にばら撒かれないということだから魔法少女も生まれるわけない。

 


 更にね、過代償で思いっきりオーバーフローさせて、おじさんが魔法に目覚める前の過去にも干渉してくよ。


 頑張れば大体、おじさんの今の年齢分くらいまでは遡れるかな。15年前までいけるね。

 本当は特異点誕生まで遡って干渉して消し去りたかったけど、これだけやっても足りなかったからね。仕方ないね。


 まぁでも、これで君との約束はこれで果たせるんじゃないかな。


 おじさん嘘はつかないよ。




(それは……、質問の答えになってません……!)




 有耶無耶に出来るかと思ったけど出来なかった件。

 うーん、これも選別しとけばよかったかな。なんてね。


 えー、おじさんのその後、言わなきゃだめかな。

 まぁいいか。どうせ最後だし。


 そのあと『未来』を失ったおじさんは、生きてる。

 ただ、何もできなくなるだけ。


 『未来』は観測と決定って言ったよね?

 つまりそれは、魔力を使って何かに干渉した結果を視て、選別するというわけなんだけどさ。


 『未来』を失うとあらゆる干渉ができなくなる。何も未来に残せなくなる。

 そして、干渉した結果も消えるということは、



 触れられない。話しかけられない。

 これまでを忘れられて消え去り、これから何も成すことはない。

 ただ今ここにいるだけの存在。


 そういう、幽霊みたいなものに、おじさんはなるんだよ。



 まあ魔法少女は魔力の影響も多少残ってるからしばらくの間は覚えててくれてるかもね。

 出来れば忘れてくれた方が綺麗な終わりになるけど、『未来』が消えたあとの未来はほとんど視えないし選別もできないから。

 もしも結構長く覚えたままだったりしたら、ごめんね。



 それでもおじさんは生きてる。

 ただ草葉の陰から、みんなの幸せを覗けたら、それで満足なんだ。




(……っ)




 あ……、通信切れた。


 というかようやくキャパオーバーかな。

 いやはや、最近忙しくさせてごめんねぇ。主におじさんのせいなんだけどね。


 おじさん、年だからうっかり情報の痕跡をポロポロ落としちゃってるんよー。



 

 情報が今の一瞬に一斉集中しちゃったんだろうなぁ。不思議だね。


 まぁこの子がちゃんと無事なのは知っている。大丈夫だよ。

 君は頑張りすぎだからね。ゆっくり眠ってるといい。

 起きた時には


 ……おやすみなさい。




 さて、さて、今日の残りを何とか今日中に終わらすぞ!




 イクゾー! (例のBGM)












・・・








「やっと、見つけた」


 やあ、ようやくだね『察知』ちゃん。








・・・

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