二日目:

2-1:疑義

・・・




 実のところ、この国の魔法少女は100人にも満たない。

 これは、少女が魔法に目覚めるまでの過程も影響している。


 元々魔力を持つ生き物がいないこの世界で、魔力を扱えるようになるには魔力を大量に浴びる必要がある。

 それはつまり、魔力という対抗手段が無い状態で魔物と相対するということ。運良く他の魔法少女に助けられない限りはほぼ確実に死ぬ。

 そもそも魔力を持たなければ魔力に関することを記憶できないので、襲われる直前までそれを認識することすらできない。

 いや、襲われた後だってすぐにはそれを認識できないのだから、抵抗することは実質不可能だ。

 こうして生まれる謎の死は、認識できないなりに人々の脳が状況を勝手に補完して自然現象や事故として片付けられることとなる。

 そんな不幸な事故は大抵は数人程度の犠牲であったりするのだが、稀に大規模な魔物災害が発生し数百人の犠牲がでることもある。

 この中の運良く生き残った魔物の食べ残しのうち、不運にも魔力が定着してしまったものが魔法少女となるのだ。


 ほとんどの魔法少女がこのようなケースで目覚めることとなる。



 そんな中、『浦島うらしま 萌香もえか』という少女はそれ以外のケースで魔法少女に目覚めた数少ない例外ともいえる。




・・・




「暇だなー」


 私たち魔法少女はみんなを魔物から守るために日夜戦っている。

 魔物の出現は学校の授業中だってお構いなしだ。魔力を纏えばなんか上手い具合に不在を解釈してもらえるので成績にはそこまで影響しないけど。

 うん……そこまで影響は……授業全然受けてないけどもうすぐテストなんだよなぁ……。まあいいや。


 とにかく、魔物は毎日どころか日に何度も現れるから私たちは大忙しなんだよね。

 早朝深夜時間関係なく、ひどい時にはその日だけで5回も6回も出てくる。

 もちろんこれが一箇所にまとめて出るなんてことはほとんどなくて全国の何処かしかで戦う魔法少女たちからの情報によると、だけど。

 ていうか1回の出現でもまあまあ大変なのに連続おかわりはできれば勘弁願いたいかな……。


 ともかく、魔物が出てこない日なんて聞いたこともないくらいで、実際私が魔法少女になってからは一度もなかったんだ。魔物が毎日出ることが、私たちにとって普通の日常ということ。






 だから、






「暇なのはいいんだけどさ、逆に不安になるよね」

「? 平和なのは良いことなんじゃない?」


 となりの少女……この子も魔法少女なんだけど、それとなく水を向けてみたものの反応は芳しくない。

 まぁ確かにこんな日があってもおかしくはないのかもしれない。実際、起こっていることだけ見れば平和そのものなのだから。

 でもつい先日まで普通だった魔物の出現が急に無くなる、ということはやっぱり気になる。


 現れた魔物はほとんど必ずと言っていいほど、とりあえず叫ぶ。

 なぜ叫ぶかはわからないけど、威嚇みたいなものなのかな?


 ともかく、普通の人には認識できないその叫び声は数百キロ先にも届くので、各地の魔法少女のうち誰かが必ず気づいて情報共有してくれる。

 その連絡が何もないということは、今は魔物が現れていないという証拠になるのだけど……。


「もしかして海外とかに現れてるのかなぁ……?」

「萌ちゃんはほんと心配性だよねぇ」


 呆れた視線を感じるけど、心配するに越したことはないはずだ。

 必ず現れていたものが現れない、となった時、まず考えるべきはということだ。

 つまり、本当は現れてるのに気づけていないということ。


 その場合の可能性としては、人が全くいない空白地帯に出現してると考えるのが普通。

 なんだけど、地上では魔法少女たちが頑張って巡回してるから魔物の声を聞き逃すことはないんじゃないかな。

 だとしたら、一番あり得そうなのは私たちが捕捉しえない外国。もしくは海の上か中か。

 私の直感はその発想に反応してくれないから違う気もするけど、一応は調べてみた方がいいかもしれない。



「うーん? いや、萌ちゃん弱いんだからあんまり勝手に動いちゃダメだよ?」



 唐突にディスられて私は傷ついた。なんてこというんだ……訴訟も辞さない。


 なんて冗談はさておいて、実際私が魔法少女として弱いのは事実だから何も言えないんだよね……。

 魔法少女の固有魔法ってみんなそれぞれ違ってて、簡単に分類すると干渉系と内燃系に分けられる。

 干渉系魔法はわかりやすく相手に干渉する魔法で、魔物との戦闘に向いてる魔法も多い。

 例えば隣にいるあかりちゃんは『熱気』の魔法を持っていて、熱を操って敵を燃やしたりできる。

 内燃系魔法は自分の中だけで完結する魔法で、五感の強化とか記憶力が良くなったりとかあんまり戦闘に向いてないことが多い。

 魔法には固有魔法以外にも魔力弾や身体強化、飛行などがあって、固有魔法が戦闘向きじゃなくてもこちらを鍛えて第一線で戦っている人もいる、のだけど……。


 私は戦闘に向いてないタイプの内燃系固有魔法で、魔力弾も上手く出せないし身体強化も無いよりマシ程度。

 空もギリギリ飛べるかどうかってレベル……ちょっと盛りました。ほぼ跳べないです。なので、トータルで見ても多分最弱候補の一人じゃないかな。

 まさにトップレベルのクソザコ女というわけ。自分で言ってて悲しくなるねっ!!!




 そんな私の固有魔法は『察知』の魔法。いろんなことを感じとって事実に気付くことができる。


 それってただの勘の良い人では……?って最初は思ったけど、ちゃんと魔法なんだよねこれ。

 発動中なら目に見えないものにだって確実に、確信を持って気付けるのだから。

 聞き耳目星技能100とかって流石にチートなのでは?


 この魔法は勝手に発動して自分で制御できないのが難点だけど、ほんの些細な違和感から普段と違うことを100パーセント見つけてしまえる。








 そう。これは







 いま感じているのは明らかな、違和感。

 まだ魔力に目覚めたてのころ、特異点の存在に気づけてしまった時に似た、確信的な違和感だ。

 あの時は好奇心に負けて無闇に危険に近づき、危うく命を落とすところだったけど……。

 いま私のとなりにいる魔法少女に助けられなければ確実に死んでいた、かもしれない。


「とりあえずあかりちゃん、ありがとう」

「え、なに唐突に」


 なんか感謝したい気持ちになったからとりあえず感謝してみた。

 唐突すぎて困惑させちゃったけど、キョトン顔が可愛いからヨシ!


 ……えっと、思考が脱線したけど。ともかく、だ。


「それはさておいて……やっぱりおかしいよ」

「うーん。確認だけどそれって……なの?」



「うん。



「そっかー。じゃあ、調べてみよっか」


 彼女のふわふわとした雰囲気が一気に真剣味を帯びた。

 私の確信はこれまでにもさまざまな重大事実を暴いてきた実績がある。

 例えば、『特異点』の存在。魔法少女にも見えないこれを証明するのは大変だったなぁ……。

 ひたすら追いかけつづけて、"ほら! いまからここに魔物出ますよ!"ってみんなに見てもらうまではなかなか信じてもらえなかった。

 何とか信じてもらえたら、次はこれまでの魔物の出現情報を元に他の特異点探しの旅が始まって。

 その成果として、少なくともこの国には特異点が8つあるということと、相互間で魔物の出現を管理してるということも分かった。

 学業がおろそかになったり散発的な戦闘に巻き込まれたり、あの時は色々と大変だったけど、みんなの戦いに結構な間接的な貢献ができたんじゃないかなと思ってる。


 まぁでも分かったところで他の人には分からないから、出待ちみたいな待ち伏せはできないんだけどね。

 唯一特異点を判別できる私は弱っちい魔力弾しか出せないクソザコだからまともに戦えないし、そもそも一人で各地の特異点全部はフォローできない。

 それでも、データとして概ね前回魔物が出現した8箇所のどこか付近に次の魔物が出てきそうってのは分かってたらしいけど、それを確定させただけでも情報としては値千金でしょ。

 さすが私。すごいぞ私。やれる子だよ私。

 もっともっと評価されるべき。





「よし、頑張るよ!」


「あ、萌ちゃんは私の隣から絶対離れちゃダメだからね。本当に弱いから」





 何気ない2度目のディスに私はそのまま崩れ落ちてしまう……。


 たしかに……たしかに弱いけどさっ……!








・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る