第5話

それと比べて、スポーツ大会や体育祭の場合はすべての教室が空き教室となるので見回りの範囲は当然広がる。


 何より、生徒個人の財布の盗難に注意しなければならないのだ。


 貴重品は自己管理と言ってあるが、それでも一々持ち歩くのが面倒で教室に置きっぱなしにする生徒が少なからずいる。


 本音を言うとそれで盗まれたら自業自得で自分の知ったことではないが、外部者のいない状況で起こる盗難は生徒の間に嫌な空気を作るし、何の対策もしていなければ非難の種になる。


 それを避けるために、生徒からの信頼が厚い生徒会役員が教師と協力して校内巡回を行うのだ。

 そうでないときも、非常時に備えてグラウンド内のテントで待機しなければならない。



 サボる暇がない。



 これが唯一にして最大の不満だった。


 生徒会長をしていて日頃から心の中で“めんどくせぇ”と毒を吐いているが、それでも会長としての仕事に手は抜かない。


 それができるのは、適度に息抜きをしているからだ。本当の自分を理解している奴らとの時間がストレスを消化してくれていた。



 そんな彼にとって一日中“完璧な生徒会長”を演じるのはひどい憂鬱だった。

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