第18話 殿下とイモダンゴ
コンコンコンコン。
エヴァン殿下の部屋の扉をノックしました。
「殿下、失礼します。マリスです」
「どうぞ」
許可されて入ると、殿下は勉強机に向かっていました。講義の休憩時間ですが、どうやら自習学習をしているようです。
生意気な子どもですが、こういう真面目なところもあるんですよね。
「殿下、お疲れさまです。よかったらこれを」
コトリッ。目の前に
殿下が顔をしかめます。
「なに、この丸いのは」
「
「イモダンゴ……?」
初めて聞いたといわんばかりの反応です。
当然です。この料理は私の前世の料理なのですから。
久しぶりに作りましたがなかなか上手にできました。
でも殿下は興味がないようで自主学習に戻ります。
「……いらない。ぼくは必要ないので」
きっぱり断られてしまいました。
もうちらりとも芋団子を見てくれません。
でも、どうしても殿下に食べてほしいのです。
「そうですか、残念です。この芋団子の材料になった芋は殿下が守ってくれたのに」
「……? どういう意味?」
不思議そうに顔をあげてくれました。
いい反応ですね。やはりこれには食いついてくれました。
「殿下が今日は昼頃から雨がふると教えてくれたので、私は雨傘を持って市場に行ったんです。おかげで芋を売っていた子どもは売り物の芋を濡らさずにすみました。私は濡れていない芋を買うことができて、芋を売っていた子どもは収入を得ることができたのです。収入は子どもの生活を支えます。殿下、あなたがあなたの知識で雨が降ると教えてくれたからですよ」
「そんなことで……」
「そんなことではありません。もし私が傘を持っていなかったら、子どもは売り物の芋を濡らして収入を得ることができませんでした。収入を得ることができなければ、あの子どもは空腹で悲しい思いをしていたかもしれません。巡り巡って知識は人を救うのです。殿下のおかげです」
「…………」
殿下が黙り込みました。
でも、じっと芋団子を見つめます。
「どうぞ。今日のお礼です」
「…………」
しばらく殿下は黙って芋団子を見ていましたが、おずおずと手を伸ばしました。
そして一つつまむと……パクリッ。
真顔でもぐもぐする殿下。
「芋の味がする……」
「ふふふ、芋団子ですから。ミルクと一緒にどうぞ。芋の甘さが引き立ちますよ?」
そう言ってミルクも差しだします。
今度は素直に受け取って、ミルクを飲んでから芋団子をパクリッ。
「あまい……」
「ふふふ、たくさんありますからね」
私は笑いかけると、一緒に芋団子をパクリッと食べました。
ああやっぱり大成功です。とてもおいしくできています。
殿下は相変わらず素直ではありませんが、今はこれで良しとしましょう。
不思議ですね、前世で食べたのと同じはずなのに、なぜか殿下と食べる芋団子のほうがおいしく思えました。
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