小説のラテンアメリカ
「小説のラテンアメリカ」
2024年に世界的人気を誇る小説家のガブリエル・ガルシア・マルケスの代表作『百年の孤独』が新潮社により初めて文庫化し、本の虫の間では大きな話題となったであろう。(マウントを取るつもりは毛頭ないが)私自身は文庫化される以前に和訳版を読んだことがあるのだが、当時としての印象は、あまりにも壮大で一本の物語として飲み込みにくかったものだった。そして、正直なところ、かなり前の話であるだけに、内容は殆ど覚えていない。
ただ、言えることとして、ラテンアメリカ文学は、他のどの地域にも見られない、異彩を放つ存在感がある。その異彩は、端的に言えば「マジック・リアリズム」と呼ばれる、写実性と幻想性を絶妙なバランスで取り入れた想像力豊かな作品群から来るものであろう。また、先住民、アフリカ、イベリアの文化が交差するミックスカルチャーが、異国情緒を演出し、西洋人が東洋に対して抱くオリエンタリズムの眼差しと同様の感覚を味わえるのも個性として認められる。そして、19世紀の早い段階で次々と自立していき、他世界とは隔たりを持つ歴史を歩んだラテンアメリカは、アウトサイダー的な存在であり、それが文学に反映しているとも言える。
しかし、こうした、まるで異世界のような住人たちによる世界観が、日本を含め、世界的に広く享受されるのは、個性が際立っているためだけではないのだと、私は睨んでいる。というのも、彼らが扱う言語はスペイン語か、ブラジルであればポルトガル語である。文学に於いて最も権威を揮っているのは英語に違いあるまい。その次にフランス語がくるであろう。このふたつの言語は非常にスペイン語と近しい性質を有しており、比較的容易に紹介されるわけだ。一方で、例えば東南アジアの諸言語は、権威的な言語とは幾許か隔たりがあり、また比較的話者が少ないが故に、世界広く一般に紹介されにくい性質がある。要するにラテンアメリカは言語的に「恵まれていた」。勿論、どれほど少数の人間しか話さない言語であっても、文学的評価がそれによって左右されるというわけではない。
他に模倣されない個性と、言語的アドバンテージがこうして、ラテンアメリカ文学が世界を席巻することを可能にしたわけだ。アカデミックな観点からも、ラテンアメリカ文学は1945年のガブリエラ・ミストラル、1967年のミゲル・アンヘル・アストゥリアス、1971年のパブロ・ネルーダ、1982年のガブリエル・ガルシア・マルケス、1990年のオクタビオ・パス、2010年のマリオ・バルガス・リョサと、計6人のノーベル文学賞を受賞している。これはアジア全体のノーベル文学賞受賞者と同数である(受賞時の国籍を反映)。
さて、ラテンアメリカ文学、特にブーム世代の代表者たちの作品は現在に至るまで、根強い人気を誇り、日本でも多くの出版社が挙って翻訳を出している。ということで、「名作の館」では、「小説のシュルレアリスム」に続き、新たなテーマとして「小説のラテンアメリカ」に焦点を当てたいと思う。
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