しばらく歩きながら考え事をしていた

遠藤ビーム

トンボの極妻性

歩きながら、考え事をしている。右側に川が流れている。少し、上り坂。古びた街灯。錆びたガードレール。元々は白なのだろう。「ぽさ」は残っているが、今となっては赤茶色である。川の上を、糸蜻蛉が往復している。細い体。緑の体。久しぶりに見た。懐かしい。トンボを捕まえる時、背後からそっと近づき、羽を摘む。それか、お腹を摘む。皆んな平気そうにやってのけるが、僕には出来なかった。捕獲されないように、葉っぱにしがみつき、必死に抵抗するトンボ。それを「お構いなし」といった具合に、羽や腹を掴み、引き剥がす。これは、人間で言うところ、髪の毛を思いっきり引っ張っている状態のように感じる。痛そう。任侠映画で嫌がる極妻が、窓辺の枠にしがみつき、必死に抵抗しているところを、強引に髪を引っ張り「大概にせぇよ」とキレる関西弁の男が思い浮かぶ。泣きじゃくる極妻。床に投げ飛ばされる。怒りを滲ませ、打たれた頬を抑えながら睨みつける。可哀想。トンボを掴みとる友人の顔は、強姦しているような、ニヒルな笑顔に見えてくる。トンボを見ると、極妻性を感じる。


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