第30話:東京最後のダンジョン。其の6
「『
箱をクナイに変化し自身を起点とした三点結界なる技を放つ。それは外部との接触を完全に否定する最強の盾。だがまぁ魔力の関係上、後二回しか使用できない。
『
「オイ鉄が蒸発するってなんだよ!?」
結界の外では鉄がグツグツと沸騰し、ジュッと溶けると言う意味不明極まりない光景が広がっていた。そしてタクトが床から手を離すと、すぐ冷え固まる鉄と床。
「……全員!あの右腕にあるヒーターを最優先で壊せ!」
「「了解!!!」」
アレはダメだ。今は排熱しているせいか使用できない様子だが、あんなものをポンポン通常技でも出すかのような勢いで出されてしまってはこの世の終わりみたいな光景になる事この上なし。
「ロータスの残弾数は三発……ひとつ残らずアレにブチこんでくれる!」
残っている腕は七つ。なら残弾数的にちょうどいいと、六つの手をタクトの右腕に近付けていく。その間にもタクトは防御魔法を見て最優先処理が必要だと左腕の高圧洗浄弾を時に向けて放つ。
「オイオイバカバカホントバカなんだこの火力バカバッカオイオイオイ!!!!!!」
顔を掠めただけで頬肉がえぐり取られる威力。……が、毎秒十連射される。左腕に向けて設置式『
「クソが!……だが今だ右腕にブラックロータスって奴ブチこんでやれ!」
しかしタクトは一人、碑矩たちは三人。つまり一人だけに集中していると隙が生まれる。碑矩の背に乗って射程圏内に入ったコンは、ロータスをヒーターに撃ちこむ。
「おぉっ一応ヒビは入った!」
これなら確かに三発ブチこめれば破壊できる……はずだが、一回撃って完全警戒態勢になったのか今度はコンと碑矩を狙いだす。ロータスを拾いまずは逃げる。
『
と。何と直線の水弾丸ではなくカーブするように水圧を捻じるとか言うバカ極まりない行為をしてきたタクト。避けた先に水圧弾が目の前に現れた瞬間は流石の碑矩とコンも死を完全に覚悟した。
「大丈夫か碑矩!?」「銀が削られた!もう一発食らったら終わる!」
「右腕がクソなのはまぁ知ってたけど……左腕も中々アホじゃねぇか?!」
このままでは……と思っていると水切れを起こしたのか右腕で使っていた冷却水を左腕に集めていく。それがチャンスだと三人は一斉に畳みかける。
「今だッやれやれッ二人ともッ!!!!腹の武器はどうにかする!」
「うおぉっブラックロータス二発目ッ!」
隙だらけのように見えて、いつでも腹の迎撃態勢は整っていると言わんばかりに腹部を開いたタクト。だが時はそれを見計らい『
「魔力的に一発しか投げられねぇからよ!とっておきじゃぁ!お前に食らわせてやる!」
腹の中に投げ込まれたその球体は、わき腹に命中すると肉どころか空間を捻じ曲げながら回転する。完全に体制が崩れたところで、テイルズ込みで右腕に銃弾を叩き込もうとする。
「!?」「水流で防がれた!アレは回収出来ない!」
だがなんと、シンキュウを食らい捻じ曲げられた左腕でタクトは銃弾を防いでのけた。軌道はほんの少しそれ、頭部に命中するがコンと音を立てて弾丸は落ちる。
「ハァ!?」
そして満を持して地面に右手を付ける。時と場所が離れすぎているこの状況では防御魔法も間に合わない。
(……防御魔法は使えない、右手を地面に付けさせないのが一番だが……それも出来ない!だったらどうする!?今この状況での最善手……考えろ僕!)
その思考時間、0.1秒にも満たないわずかな時間。碑矩は地面に落ちたブラックロータスがどこにあるかを思い出す。足元に転がっている。両手を銀で覆うと片目を黒く変化させる。
「撃つ」
銃を持つのは初めてだが、撃つ光景は二回見ている。見ていると言う事は、完全に再現する事が出来る。それが碑矩の生まれた直後から使えた技、『
「ッ!」
ビヂィ゛ッ゛と。銀アリの腕ですらヒビが入る反動。その威力はタクトの右腕に命中し粉々にヒーターを砕いた。
ヒーターを砕かれた事により、タクトは酷くうろたえる。ダメージになったと言うよりかは、精神的な物が多そうだ。
「碑矩!飲め骸が持ってきた回復薬だ、治るかは確かじゃねぇが治らなかったらアイツをぶっ殺す!」
「うぅ……。治った!」
「それ後何本あるんだ?」「三つ!」
うろたえているタクトを無視して、箱に残しておいた回復薬の入った瓶を碑矩に投げつける。腕に当たると即座に腕は回復したが、その部位以外は回復しない。
「名付けるなら『
「……。お前ネーミングセンス、低いな」
そんなアホみたいな事を言っていると、タクトの顔の右半分が砕けだす。中からは確かにタクトの顔が見えたが、その顔は憎悪と悲しみに満ち溢れていた。
「……。来るよ!」
今度は左腕の圧力を更に上げると、まるでウォーターカッターのように切りかかってくる。ダイヤモンドも真っ二つに出来るような火力だが、そこはもう対策済み。時だってただ逃げていただけではない。
「『
左腕に集めていた水が完全に凍り付いた。だが水圧は止まらない。バギンと音を立て砕け散る左腕の水圧洗浄機。これにより顔の左側も砕け散り、口が露わになった。そこから漏れ出るのはただ一言。
「思い出なんだ……。壊さないで……。お願いだから……」
再度開いた腹。三人まとめて砕くつもりだ。しかし既に碑矩は殴る準備を済ませていた。そして音が出るよりも先に、碑矩は殴っていた。
「表我流其の五……『
腹の中で反響を繰り返す衝撃、それは次第にスピーカーを砕くまでの威力へ変化し、遂に完全にバラバラに砕け散った。顔が完全に露出され、目からドロドロとした黒い液体があふれ出す。
それは涙のようにも見えた。
「私はもう、もう、……どうでもいいのだ」
「おっ喋り出したぞ気を付けろ二人とも!」
「何もかも、壊したい。何もかも。……目に映る全て」
そう言い終えると、タクトは急に三人に背を向ける。何をするのだと思っていると、大声で響かせるように言う。
「『終焉界《トザサレタセカイ》』
碑矩は既に、ミミの配信でそれを見ていた。だから何をするかは分からなかったが、ヤバイと言うのは知っている。即逃げようとするが既にタクトの世界の中に入っていた。
更に問題な事に、時の箱は入れていなかったしコンの銃もどこかへ行っていた。武器の類は持ち込めないようだ。本は持ち込める様子だが大して違いはない。
「何が来るんだ!?」
「……悪い!」
コンはもう間に合わないと残った一つのナインテイルズを使い碑矩を時の場所までぶっ飛ばすと、一人その技を受け止める体制へ入った。
『
箱が無いので完全には作れなかったが、逆に結界を二点で作れる事に気が付いた時はギリ二人だけ守れる防御魔法を使うと、コンに何が起きているのかちゃんと確認する。
「こ、コンーーーッ!」
耳から血を吐き、力なく崩れ落ちるコン。何が起きたかなど一目瞭然。あり得ない音量を間近で食らい、鼓膜も脳も破壊されただけの話。そしてコンの身体は粒子状になってダンジョン外に飛んでいく。
「死ぬとあぁなるのか」「オイ時今はそういうことを言ってる場合じゃないだろ!」
「おっとそうだった見たことなかったもんでな!それより……どうすりゃこの空間から出られるんだ?!」
閉ざされた世界に隔離されてしまった二人。定期的に即死攻撃が飛んでくるこの状況で、勝ち目などあるのだろうか……?
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