第19話:足りぬモノ


「いや浮浪者の身体能力かよお前ら!?」


 現在、時は浮浪者共と戦っていた。一応殺さないように手加減しつつ魔法を使っている。

 魔力も無いのにどうやって……と思うだろうが、一応魔法陣を描けば魔法を使うことはできるのだ。ただミリ単位でも書き損じると魔法は出ないため、物凄く集中している。


「ヘッヘッヘこちとら死ぬことだけが生きる事だって信じ切ってるんだからよぉ!」


「くそっ話が通じねぇバカ共だったか……!」


 しかしどいつもこいつも命知らずばかりである。氷魔法で足を止めて近寄らせないようにしているのだが、中には凍傷になるのも構わず時に切りかかってくるヤツもいた。


「ムカつくぜ、魔力さえあれば……!」


 そう怒る時。だが終わりの時はあっという間に訪れる。


「おい」


 ドスのきいた低い声。それが時と浮浪者達の耳に入った瞬間、浮浪者たちは一斉に武器を持った手を下げて無抵抗のポーズを取る。


「何を……している?」


 そこにはナイフとワイヤーを装備して、ダサ文字T(ニャッキ!って書かれてる)を着ている少年がいた。時より若いがその殺意は段違い。まるで生まれた頃から人を殺しているような殺気に、時は一瞬意識を失いそうになる。


「へ、ヘヘヘ。し、新入りが……」

「おいしゃべるんじゃ」


「黙れ」


 その瞬間、その浮浪者二人の首が飛ぶ。圧倒的な殺しの速さに息をのみ固唾を飲むしか出来ない一行。そしてゴミのように浮浪者だった物を蹴とばすと、時に話しかける。


「ウチのボスが及びだ。来い」


「……はい」


 時は今まで味わった事のない殺意に、完全に心が折れていた。逆らえば死ぬ。それだけが理解できた。


「ボス。連れてきた」


「おー『ミナツ』。連れてきたか。おい白桃しろもも!俺の客だ、もてなせ」


「かしこまりました。ご主人様」


 連れてこられた先は、スラムには似合わないような厳かな建物。巨大な邸。玄関から入るとここのボスだと言う男が出迎える。そして客間に通された時はそこでイライラしながら茶をしばいている師匠と出会う。


「あ、師匠だ。来てたんだ?」


「フン、東京からここまで本気で走れば半日でたどり着くわ。……それより『食我しょくが』。貴様何の目的でここに碑矩を呼び寄せた?」


「まーちゃんと理由はあるけどね……。っと、茶が来たし飲みながら話そうか?」


 フルーツティーなのか良い匂いのするそれをチビチビ飲んでいく時。師匠は味わう気などないのかザッと一気飲みする。


「おいおいもうちょっと落ち着いて飲めよなぁ~。俺みたいにブーッ!?」


「?!」


 一口飲んだだけでえげつない噴き出し方をする食我。何事だと思っていると白桃を呼びつける食我。


「え、ちょ……。これ……何?」


「フルーツティーです」


「何で煮だしたん?」


「醤油です」


「自分の主人を塩分過多で殺す気か?」


 妙に量が少ない訳である。仕方ないので白桃は普通のセンブリ茶を出す。


「……まぁいいけどよ。見ての通りコイツは俺のメイド、そしてちょいといたずらっ子だ」


「醤油で茶を入れる奴はいたずらっ子とは言わんだろ」


「まぁそれはともかく……。三日間で良い、時間をくれ。お前の目的をかなえられるくらいに……アイツを強くしてやる」


「……出来ると思うか?」


「アイツは天才だ。だが天才は一人で育つものじゃねぇ」


 しばらくのにらみ合いの後、先に手を引いたのは師匠の方だった。


「いいだろう。……ワシは三日間だけ手を引いてやる。じゃが……。もしその間に何も得れないようならば……。ワシは貴様を殺す」


「やってみなよ」


 そう言って東京に戻っていった師匠。それはそうと時は今の自分に足りないものを考えていた。魔法は強い。だが魔力が無くなれば本当にビックリするくらい弱い。


「はぁ……」


「で、お前はどうした?」


「いや……。武器欲しいなーって思ってさ。……俺だけ魔力が無くなったら足手まといにしかならないからさ」


「へー。お前魔法使えるんだ」


「いや、コーヒー飲めば回復するけどさ?流石に飲みながら戦うって訳にもいかないんじゃんよ」


 ため息を吐く時。実際問題、以前のメルト戦において最後の方は回復しか出来なかった事を気に病んでいる様子。しかも足は直せなかった。これじゃあダメだと頭を抱えていると、『じゃあいい奴を教えてやるよ』とミナツに案内させる。


「後を一歩も間違わずについて来い」


「……ちな間違えるとどうなるん?」


「それは」

 ドカーン

「……あぁなる」


 向こうの方で爆発音が聞こえ、あぁまたろくでもない奴がいるよぉ……と思ったがとりあえずついて行く。するとガラクタの山の中心にあるドアにたどり着いた。


「ここだ」


 通された先には幼女がいた。タマと同年代だろう。


「お?どちらさま?」


「客人だ」


「そーなんだ!みあは『みあ』っていうよ!」


 時は部屋に入って早々、明らかにこの場所がヤバい事に気が付いた。既にこの場所だけで人類の五百年分の人知を超えた機械が勢ぞろいしているのだ。

 投げ捨てられていようなところに永久機関があり、どこぞのマーベルで社長が着てそうなパワードスーツまで普通に何機も勢ぞろいされている。どれもこれも……今の世界の化学力では再現不可の物ばかり。


「それで、何が欲しいんだ?」


「あー……。なんかこう、俺魔法使いなんだよね」


「まほうつかい!じゃあそらとかじゆうにとべるの?!」


「やろうと思えばな……。まぁそれはそうとして、欲しいのは」

「まほうおしえて!まほうおしえてくれたらつくるから!」


「……何の為に魔法を使いたいんだ?」


「おっきなジェットコースターをつくるの!そらとんでじゆうにとぶやつ!あとそらとぶくるまも!」


「……まぁ良いか」


 簡単な魔力の使い方と魔法を教えると、あっさり浮遊魔法から攻撃に使えるものまで使えるようになった。とは言え本人は浮遊以外使うつもりはない様子であるが。


「じゃーつくってあげるね!なにがほしい?」


「魔力を溜められる物がいいな、無くなったら武器になる奴とか」


「ん-……。よし!かんたんにつくっちゃうよー!」


 そう言うと形状記憶合金と3Dプリンターを使い簡単に箱状の機械を作り上げる。経過時間はなんとわずか五分。作り終えるとドヤ顔である。


「どやぁ~……」


「……天才かよ」

「天才だぞ。まぁ本人は武器とか兵器とか大嫌いだが」


「じゅうとかみさいるとかきらい!あそぶのすき!だからいつかゆうえんちつくるの!」


 何とも子供らしい考えだが、それが出来る程度の力と強さを持っている。なぜ作れないんだ?と思った時に対しミナツは説明する。


「……お前今作れるだろって思ったろ?コイツが作りたい遊園地ってのはな、宙に浮かぶ遊園地だ」


「まほうのおかげでできそう!……でも、おちたらたいへん」


「そうだな。まぁまた今度って事で。ところでコレはどういう物なんだ?」


 しょんぼりしているみあをよそに、今回作った武器の説明をして貰う。見た目は黒い長方形の箱と言う感じだが、時が手をかざすと一気に形が変化していく。


「ふふん!まほうとかがくのちからですごーいきかいができたよ!」


「うおっ!?変形したぞ!?」


「まりょく?にはんのうするけいじょうきおくごうきんをつくったからね!」


「おぉ……!パワードスーツみたいになったぞ!」


 変形した箱は時の身体にまとわりつき、パワードスーツのような形状へと変化する。黒を基盤としたスタイリッシュな見た目の物だ。


「それはね!まほうのちからがあるかぎりつかえるパワードスーツなのです!きかいでぞうふくしたまりょくをうちだすことができるのです!」


「成程……。でも魔力がなくなったらどうするんだ?」


「そこはまりょくをためるそうちがあるので、なくなったらそこからつかいます。あとまほうじん?をないぞうしているので、ていきてきにまほうじんをいれてあげればまりょくがなくなってもつかいほうだいです!」


 そう言って次なる形態に変化する箱。今度は銃のような見た目になると、魔法陣の紙で出来た弾丸を発射する形態になった。これで魔力が無くなっても最低限仕事は出来る。


「そりゃ強い……。あ、そうだコンと碑矩にもなんか作って欲しいんだけどよ、頼めるか?」


「いいですけど……。おふたりはなにがほしいですか?」


「あー。そうだな、じゃあまた明日来るからな」


「はいです!あ、そうだこれをもっていってください!」


 また明日と言うと、みあは一枚のカードを手渡してくる。


「何コレ?」


「そとのばくだんをもってるだけでむこうかするものです!またきてまほうおしえてくださいね!」


 こうして新たな武装を手に入れた時。試し打ちするのは後にとっておいて、ひとまずコンと碑矩に欲しい物は無いかとレインを飛ばすのであった。

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