第5話:東京23ダンジョン『やっぱ首都圏はヤバダンジョン多いね……』


「これから東京に行く」


 凄い唐突に師匠はそう言いだした。おら東京さ行くだだってもうちょい理由を付けてんだろって思った子猫だが問答無用。師匠は既に新幹線のチケットを購入していた。


「それにしても、やはり時代は変わったのぉ。仙台から東京まで日を跨ぐことなく行けるようになるとは……。ワシも全盛期であればギリできん事は無かったが」


「……化け物?」


「僕でも日を跨ぐなら精々北関東がギリですかね……」


「こっちも?」


 二時間ほど新幹線に乗り、たどり着いた東京駅。

 日本の首都、ご存じ東京都だ。ダンジョン関係なく常に人が多く、どこに行っても人だらけ。


「ここにはめっちゃすごい有名なダンジョンがね、23個あるんだって」


「東京23区全部にか?」


「まぁそんなところ。中でも東京タワーの真下に出来たって言うダンジョンはすごいらしいよ。主に強いモンスターがウヨウヨしてるって……」

「ホントか!?行くぞ碑矩!今すぐ行くぞ!すぐ行くぞ!」


「あぁ待ってください師匠!まだホテルとか予約してないんですよ!?それに今何時だと思ってるんですか?!」


「たかが夜の7時だろう!行くぞーッ!」


 全力で走り出した師匠。もうあぁなると一切合切止まらない。トホホと思いながらもついていこうとしだす碑矩だが、子猫は朝っぱらから色々あって流石に眠い様子。


「……。ごめんね子猫さん。宿予約してて泊ってていいよ」


「あ、うん。先に寝てるね?」


「ごめんね、師匠はあぁなると止まらないから……」


 と言う訳で子猫一人ホテルに泊まり、二人は東京タワーの真下にあるダンジョンにやってきたのだった。夜の7時だと言うのにまだ若者たちでにぎわっているが、ダンジョンに入るわけでもなくウロウロしている。


「なんじゃこいつ等は」


「はぁ……。まぁ入りましょうか?」


 二人が入ろうとすると、それを囲むようになにやら配信者の集団がやってくる。ジロジロと品定めをするように二人を見て、カメラが付いていないということを確認すると一人を残して帰っていく。


「なんだ配信者じゃねぇなこいつら」


「ワシらは純粋にモンスターをブチのめしたいだけじゃ!」


「じゃ良いけどよ。ここは俺らの縄張りだからな。勝手に配信するのも許可なく入るのも禁止されてるんだからよ」


 それを聞き、はてそんなルールがあったか?と首を傾げる碑矩。


「……そんなルールがあるんですか?」


「ここのボスはもう弱すぎて何時でも倒せる状況にあるんだよ、そのくせ良いアイテムや武器装備がてんこ盛りのダンジョンだぜ?その生存権をうちのリーダーが仕切ってるって訳さ」


「……そうか。ちなみに会うことはできるのか?」


「いつでも。じゃ案内してやるよ!」


 ちなみにこの男の配信ネームは『ツルミ』というらしい。確かに強そうなモンスターはいたが、それと闘わなくて済むルートがあるらしくそこを案内される。


「んで。こいつらが俺に会いたいって?」


 そして最奥。そこにこのダンジョンを仕切っているリーダー『アイン』とボスモンスターの姿があった。リーダーの方はスーツを着ているのにイスに胡坐をかいて座っているという変な奴で、ボスの方はというと弱そうなゴブリンだった。名前は『ガラキ』と言うようだ。


「配信者じゃねぇただの戦闘狂だよ」


「知ってんよ。今有名人だぜこいつらは。……そんなお二人さんに悲しいお知らせ。見ろよ、これがボスだぜ?いつでも殺せる」


 既にそのボスは鎖でがんじがらめにされ柱に括り付けられており、今にも簡単に倒せそうな気配すらした。そしてアインはこのダンジョンで手に入れたらしい装備をガチガチに着ている。


「なぜ倒さんのだ?」


「ビジネスだよビジネス。ダンジョンで手に入るアイテムってのはよぉ、基本ダンジョン内でしか使えねぇ。けど高値でな、売れるんだよ。危険なダンジョンにわざわざ潜らなくてもな」


 その言葉に師匠は少しだけ眉をひそめる。


「つまりアレか?強い装備を手に入れるために、お前らなんぞに金を渡して武器買ってるバカがいるということか?」


 このアインという男は、ダンジョンで手に入るアイテムや武器をダンジョン内で取引している。それは別に脱法でも違法でもない。ただ師匠たちからすれば気に食わないだけ。


「ずいぶんしゃべるガキだな……。まぁおおむねそう思ってくれて構わねぇよ。ホントバカだよなぁ!自分でダンジョンに潜れっつーの。ま、そんなバカ相手をカモにしてるビジネスなんだよ」


「ずいぶん性格が悪いのぉ」


「だが悪く思うなよ!俺が悪いんじゃねぇ、買う方がバカなのさ。まーお前ら二人は強いみたいだから別に構わねぇだろうが……。お前らと一緒についてきてるミミって女はどうだ?」

「帰りましょう師匠。コレに使ってる時間がもったいない」


「じゃな。邪魔したの」


 子猫の名前を出され一気に不機嫌になった碑矩。それは師匠も同様で、八つ当たり気味に道中にいるモンスターをぶっ殺しながら地上へ戻っていった。


「……あいつら強すぎじゃない?」


「そりゃあいつらはな。だがあいつらと一緒に行動してるミミって配信者はお世辞にも強いわけじゃねぇ。いずれ俺の商品を買いにやってくるだろうよ……!」


 そして二人が帰ってアインも寝に行って。ダンジョンにはボスを監視する奴たちだけになった。


「しかしこのダンジョン夜になると暗くなるよな」


「ずっと暗いダンジョンもあれば、逆に明るすぎて不気味ーってダンジョンもあるらしいぜ?」


「ハハハ、そりゃ面白いな。……ところで、後ろのアレはいつまで監視すればいいんだ?」


「大丈夫だって、いざとなれば俺らでも余裕で殺せるんだしよ」


「……そうだな。トイレ行ってくるわ俺」


「さっさと帰って来いよー」


 そして一人になった時。ガラキは大きく口を開けた。


「うーっす帰ってきたぞー……って誰もいねぇじゃねぇか。サボりか~?」


 そんなことを言っていると、足元に転がる武器。それは隣にいたやつが持っていた物。一体なぜ……と思ったつかの間、彼は自分の腹に舌が突き刺さっていることに気が付いた。


「え」


 身動きも叫びもあげられぬまま、彼はガラキに食われた。


「うめっ、うめっ」


 何度か咀嚼したのち、いらない装備だけを吐き捨ててまた人畜無害っぽい雰囲気を醸し出す。明らかに何かがヤバいが……悲しいことに、誰もそれを見ていなかったのであった。


 ◇


「……あたまいたい」


 その夜。子猫は謎の片頭痛に襲われていた。ガンガン内側に声が響いてくるような痛みである。


「あーいたいー……。頭痛薬ほしいー」


「大丈夫ですか?」


 ベッドの上でバタバタやっていると、隣の部屋にチェックインしていた碑矩が窓から入ってくる。


「……え?なんでいるの?」


「いえ、隣の部屋に声が駄々洩れと言いますか……。頭痛薬なら買ってきますよ?」


「あー、マジかー。……じゃいっしょにいく」


 二人は部屋を出ると近くのドラッグストアへやってきた。とりあえず頭痛薬と食料品とその他諸々を購入し、さっさと部屋に戻る。碑矩は心配なので一旦子猫を安静にさせながら薬を飲ませる。


「どう?」


「ん-……。ちょっとマシになったかも。あんがとね」


「そうですか。では僕はこれで……」

「……ねぇ、碑矩」


 部屋に戻ろうとする碑矩だが、子猫は服の裾をつかんでそれを止める。


「何ですか?」


「……ウチさ、足手まといかな」


 か細い声で、そう呟いた。


「え?」


「……ウチ、いっつも助けられてばっかりじゃん。……いない方が良いんじゃないの?ウチがいなくても全国は回れるし……」


 ネガティブになっている子猫。碑矩はそんな子猫の手を掴む。


「そんなことないですよ!子猫さんがいなかったら、多分全国は回ってません!」


「そ、そうかな?」


「それに僕はあなたの事を足手まといだと思ったことはありません。もしそれが嫌なら……あ、一緒に鍛えますか?」


「ん-……。考えとく」


「わかりました!それでは明日もよろしくお願いしますね!」


 そういって帰っていく碑矩を見ている子猫。その後ベッドでゴロゴロとし始める。


「……ウチ、なんでこんな気持ちになってるんだろ……」


 そして眠ってしまった子猫だが、変な夢を見た。なんというか……メジェドに囲まれている夢だった。しかもその上から何というかすごく高圧的な奴が話しかけてくる夢。色々言われた気がするが、最後の一言だけが彼女の中で妙に反響し続けた。


『力が欲しいか?』


 ……と。

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