第2話 囚われの幼馴染

奴隷どれいとして市場いちばさらされていたレオは

ある商人しょうにんに買われていった。





手足をしばられたまま

レオは無言むごん商人しょうにんに乗せられた。





馬車はガタガタと音を立てながら王国の街並まちなみを

次第しだいに遠ざかっていく。





しかし

王国の領土りょうどを出てしばらくすると馬車が止まった。





商人しょうにんは馬車から降りて

レオに近づいてきた。



そして

レオのしばられたなわほどき始めた。





レオはふるえる手で

なわかれた自分のうでを見つめた。





森の中

冷たい風が木々をらし

周囲は静まり返っている。





商人しょうにんはにっこりと微笑ほほえみながら

レオの目をっすぐて語りかけた。





「レオ殿どの

あなたがこうして奴隷どれいとして売られることになったのは

私たちヴァレンティア王国にとって非常に残念なことです」




「え?」


レオは驚愕きょうがくして商人しょうにんの方を見た。





商人しょうにんは続けた。



「どうか誤解ごかいしないでください



私はあなたを奴隷として

買ったのではありません



あなたを助けるために

私ができる最善さいぜんの方法でおれしたのです」




レオはその言葉におどろきと困惑こんわくかくせなかった。



自分がこれまで受けてきたあつかいからは到底とうていしんじがたい言葉だった。





商人しょうにんは続けた。



「ヴァレンティア王国は

勇者アレクシア様の故郷こきょうです



アレクシア様は幼馴染おさななじみであるレオ殿どのつねたたえておりました。



王国のたみもまた

あなたの偉業いぎょうを知っており

尊敬そんけいしています



だからこそ

あなたが奴隷の立場で苦しむことを

我々われわれ見過みすごせなかったのです」




レオは思わず顔を

なみだが静かにこぼれ落ちた。




はじめて感じるこのやさしさに

レオのむねに閉じめていた痛みと

絶望ぜつぼう一気いっきけ出したのだ。





「ありがとう…ありがとう…」




商人しょうにん真剣しんけん表情ひょうじょうでレオに向き直り

静かに語り始めた。





「レオ殿

実はアレクシア様が行方不明ゆくえふめいというのは

完全かんぜんには真実しんじつではありません」




「!」




「アレクシア様は今

魔王まおう直属ちょくぞく配下はいかである

ルシファリアにつかまっているのです」




レオは驚愕きょうがくして



「なんだって!?」




「アレクシア様は勇気ゆうきを持って

ダンジョンにられた人々ひとびとを助けるため

単身たんしんでその危険きけんな場所へと足をみ入れました



そして人々を無事ぶじ救い出すことに成功しましたが…

アレクシア様ご自身じしんがルシファリアにつかまってしまったのです」





レオはいきんだ。




アレクシアが命をけて他人を救おうとしたことにおどろきつつ

彼女かのじょつかまったという現実げんじつ

打ちひしがれるような感覚かんかくおそわれた。





「アレクシア様はとても強かったのです



しかし

あとからあらわれたルシファリアは

それ以上の実力者じつりょくしゃでした




やつは魔王の配下の中でも屈指くっし

戦士せんしであり勇者であるアレクシア様ですら

つかまってしまったのです



アレクシア様は今も

そのダンジョンの奥深おくふかくで

監禁かんきんされていると聞いています



レオ殿

あなたの助けが必要なのです」




商人しょうにんの言葉を聞き

レオの心にふたたほのおともった。





レオは言った。



「もちろんです!


アレクシア様にはどれほどおん

受けたか分かりません



アレクシア様が危険きけんだというなら

それを救い出すのもおれ使命しめいです」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る