第37話 三年の差
アドモスが召喚者を手に入れたという話を聞いてから数日後、アイバーンがまた新たな情報を入手してきた。
「どうやら、今回の召喚者は二人いるらしい」
「二人?」
どういうことだ?
俺も一人だったし、過去の召喚者も一人だったと記録にあった。
これは……。
「巻き込まれ系? ってことは、巻き込まれた方が実は最強だったり?」
「……そういうもんなのか?」
「知らん」
「おまえ……」
俺が何気なく呟いた言葉を拾ったアイバーンに率直な感想を言うと、ガックリと項垂れた。
「元の世界の創作物で、よくそういう設定があったんだよ。不運にも召喚に巻き込まれた主人公が、無能だのなんだの言われるんだけど、努力で逆境を跳ね返して最強になるみたいな話が」
「へえ。確かに、逆境からの逆転劇は熱いな」
「ただ、この世界の召喚ってそういうモノじゃねえだろ? ステータスもないしな」
「すてーたす?」
アイバーンには分かんないよな。
「力がいくつ、とか、魔力がいくつ、とか、そういうのが数値化されたもの」
「へえ、便利だな」
「本当にあればな」
まあ、あれはゲームの引用だよな。
実際の筋力や魔力は数値では表せない。
「この世界の召喚は、魔法陣の力か次元を渡る際の影響か、召喚された人間は身体能力も魔力も高い状態で召喚される。要は、人族と魔族を足して何倍かにした存在になる。だから、この世界では強い」
「それが二人か……流石にちょっと厳しいか?」
アイバーンが懸念しているけど、俺は特に心配はしていなかった。
「……んー。まあ、そうなったらそうなったときか」
「おい、それでいいのかよ?」
「別にいいさ。それでも負ける気はしねえ」
俺がそう言うと、アイバーンは小さく息を吐いた。
「同じ召喚者だろ。それって自信満々というより自信過剰なんじゃねえの?」
自信過剰? なに言ってやがる。
「客観的な事実だな。メイリーンにも言ったけど、俺と奴らじゃあ召喚されてからの年月が違う。俺はすでに三年、この世界で生きてきた」
「それはまあ、そうかだろうけど。でも、二人だぜ? 単純に戦力倍だろ」
ああ、これは、アイバーンの方の常識が認識を歪めているな。
「数の問題じゃねえ。いいか。俺も含めて過去の召喚者も同じ世界から召喚されてる。今回もそうだとしたら、ここ百何十年かで召喚された奴らは戦闘……殺し合いなんてしたこと無いはずだ」
「あ、そういうことか」
ようやく理解できたみたいだな。
「俺は魔族国という明確な敵を示された。魔族国の王を倒せば元の世界に返してやると、嘘の餌をチラつかせられてな」
「何回聞いても酷い話だな」
「まあな。そのせいで、俺の意思に関わらず戦闘は強制的だった。今でも覚えてるよ、初めて魔族を手にかけたときのことは」
今はすっかりやさぐれてしまった俺だけど、召喚された当初は喧嘩もしたことのないピュアボーイだった。
そんな俺が初めて魔族と命掛けの戦いをして殺されそうになったとき、あまりの恐ろしさに失禁した。
そして、なんとか止めを刺し俺が勝ったとき、人を殺した罪悪感で盛大に吐いた。
本当ならしばらく戦闘は勘弁して欲しかったんだが、リンドアの奴らはそれを許さなかった。
まあ、無理矢理戦わされたとかじゃなくて、例の嘘を使って誘導された感じ。
魔族を倒さないと元の世界には戻れませんぞ。ってな。
ピュアボーイだった俺はそれを信じて魔族を倒して回ったわけだ。
最初は抱いていた殺人に対する罪悪感も、回数を重ねる毎に薄まっていき、最終的には人を殺すことに心が動かなくなった。
そんな俺が、召喚されたばかりの奴に負ける?
「断言してやる。今ここに来たって、まともな戦闘にすらなりゃしねえよ」
俺がそう言うと、アイバーンはようやく納得した。
そして、その上で聞いてきた。
「それでも攻め込んで来たら?」
「この世界の為政者ならそれもあり得るのか……」
なんせ、自分たちが一番強くて賢いと思ってる連中だからな。
召喚者二人が周りより強かったらそういう決断をする可能性もあるのか。
なら……。
「もしそうなったら……」
俺はアイバーンを見てニヤッと笑った。
「ソイツら、仲間に引き入れるか?」
俺がそう言うと、アイバーンの顔が引き攣った。
「お前……マジで世界征服狙ってると思われるぞ?」
「それはそれで抑止力になりそうじゃね?」
アイバーンの言葉を否定しなかったせいか、アイバーンは顔に手を当てて天を仰いでしまった。
いいアイデアじゃん?
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