第14話 王家の誠意に期待……したけど
ワイマールの王都から戻った俺は、帰る前に使った魔法で姉王女サマの動向を『見て』いた。
転移魔法を使う前に俺が使った魔法は俺が独自に開発した魔法で、要は遠隔で映像が見れる監視カメラだ。
音声も聞こえる。
俺は敢えて『処刑しろ』とは言わず『処分しろ』と言った。
その言葉を受けた王家がどういう対応をするかによって、俺に対する誠意を見るつもりで。
その結果、あの時俺に縋り付いてきた女……やっぱり娼館の女だったらしいが、その女が妹王女サマに、俺に女がいるはずだからその女を人質に取ったらどうか? と吹き込んだようで、その女については国家騒乱罪での処刑が決まった。
っていうか、てっきりアイバーンの住んでいる町から漏れたと思っていたけど、あのとき来た女の推理だったとは……。
ちょっとアイバーンを疑ってしまったわ。
国庫騒乱罪についてメイリーンに訊ねたところ、国家を転覆させようと企んだ者に適用される罪で、魔族国では例外なく死罪なんだそうだ。
へぇ、と思う一方で、妹王女サマについては王位継承権剥奪の上北の塔での幽閉に決まった。
娼館の女は処刑なのに、妹王女サマは幽閉なのか? とその処分の甘さにイラついたのだが、メイリーンから、王位継承権を持っていた王族が継承権を剥奪されたうえに幽閉されるのは、王族に課せられる刑としてはかなり重いと教えられた。
今までの人生を否定されたうえ表舞台にも立てなくなるのは、王族としては死と同等の辛さがあるとのこと。
そういうもんなのかと、一応は納得した。
そして、驚いたことが起こった。
王家は妹王女サマのことを、罪を犯しての幽閉ではなく事故死として発表した。
これも、王族が罪を犯したことを庶民に知られたくないときによく使う手だと教えられた。
なんか癪全としない気持ちだったが、魔族国の元王族だったメイリーンが、王族に対してかなり厳しい処分だと言って妹王女サマにちょっと同情気味だったので、俺はこれで矛を収めた。
そんなある日、俺がメイリーンの定期健診のためにベネットさんを町に迎えに行くと、ベネットさんの部屋にアイバーンとユリアがいた。
「あれ? なんでお前らがここに?」
俺がそう聞くと、アイバーンはムスッとした顔で俺に文句を言ってきた。
「森に入れなかったんだよ」
「なんで? お前らには許可証を渡してただろ」
俺がそう言うと、ユリアもムスッとした顔で文句を言ってきた。
「ケンタの結界じゃなくて、森そのものに入れなかったの! もー、なんなのあの兵士! 森は立ち入り禁止だ! とか言って私たちを通してくれなかったんだよ!!」
プリプリ怒っているユリアの話を聞いて、俺は事情を察した。
「へえ、そういう対策に出たのか」
俺が姉王女サマの対策に感心していると、アイバーンが「説明しろ」と睨んできた。
なので、先日あった手配書の件についての顛末を三人に話した。
すると、アイバーンとベネットさんは頭を抱えてしまった。
「王家に喧嘩を売りに行くとか……無茶苦茶だ……」
「やっぱり、メイリーンには考え直すように言った方がいいのかねえ」
アイバーンとベネットさんがそんなことを言っている側で、ユリアは物凄く怒っていた。
「メイリーンを危険に晒すような触れを出すなんて! ワイマール王国はなに考えてんの!?」
ユリアは、一番の友人であるメイリーンに危害が及ぶ手配書の存在に、もの凄く憤慨していた。
「それをなんとかしろって言ってきたからな。なんとかしようとして森に賞金稼ぎが入らないように警備兵を配置したんだろ」
「ああ、そういうことか」
俺の説明で、アイバーンはようやく納得した。
「あ、ってことは、あの兵士たちはメイリーンを守ってたのか。なら奴らは許そう」
と、ユリアは謎の上から目線で兵士たちを許していた。
「それにしても、アイバーンたちが来ねえなとは思ってたんだ。わざわざ俺が迎えに行くのも面倒だし、兵士たちと話をしておくか」
こうして、俺はアイバーンたちを連れて、直接家に転移するのではなく森の入口に転移した。
「やあ、お勤めご苦労さん」
俺が兵士たちに労いの言葉を投げかけると、兵士たちは一斉に警戒した顔を向けてきた。
「なんだ貴様!? この森は今、立ち入り禁止だ!!」
おーおー、職務に忠実なことで、感心感心。
「それって、この森の奥に住んでる奴の所に賞金稼ぎを近付けさせないため、だろ?」
俺がそう言うと、警備の兵士たちは驚いた顔になった。
「な、なぜ、それを……」
「あー、俺、その森の奥に住んでる張本人」
俺が正体をカミングアウトすると、慌てて懐から手配書を取り出し、そこに描かれている似顔絵と俺の顔を見比べ始めた。
「……どうやら本人のようだな。で、賞金首である貴様が、我々になんの用だ?」
あ、そっか。俺、賞金首だから兵士たちからしたら敵になるのか。
兵士たちの顔にも、なんで自分たちが賞金首の安全を守らないといけないのだ、という不満が現れていた。
「王女サマからの命令なんだろ? 黙って従っとけよ」
「……ふん。それで? なんのようだ」
「あ、そうそう。こいつら、賞金稼ぎじゃなくて俺の知り合いだから、こいつらが来たときは通してやって」
「……その者たちは?」
「あ、俺たちは……「誰でもいいだろ? お前らになんか関係あんのか?」って、ケンタ!」
アイバーンが馬鹿正直に答えようとしていたから、俺はそれを遮った。
「っく! ヴィクトリア殿下の御命令でなければ、貴様など一太刀で切ってやるのに……!」
「くく、できもしねえこと口走ってんじゃねえよ」
あ、ちなみに、今のは王女サマの命令に背けないだろ? ってことと、そもそも俺を切るなんて出来ないだろ? って二重の意味で言ったんだよ?
この兵士は、どうやら後者の意味で取ったようで、咄嗟に剣の柄に手を当てた。
それを上官と思われる兵士が慌てて止める。
「おい! ヴィクトリア殿下の御命令に背くつもりか!?」
「し、しかし!」
「殿下の御命令は絶対だ! 例えこの男が極悪人であろうと、殿下が危害を及ぼさぬようにと命令されればそれに従うしかない! それを自分で破ってどうする!!」
「ぬっ……くぅ……」
兵士たちはなんか熱いドラマを演じているけど、そもそもこんなことになっているのは妹王女サマのせいなんだから、文句は妹王女サマに言ってくれ。
まあ、妹王女サマは死んだことにされているから、文句を言っていく先はないんだけどね。
「じゃあ、次から頼んだよ」
俺はそう言うと、兵士たちの恨みがましい視線を受けながら森に入って行った。
そして、兵士たちの姿が見えなくなったので転移魔法で家に行こうとしたところ、アイバーンに背中をド突かれた。
「痛った! なにすんだテメエ!?」
「なにすんだはコッチの台詞だ! なんであんな煽んだよ!? 次から俺があの人らと顔合わせなきゃいけないんだぞ! 分かってんの!?」
……あー、次からあの兵士たちに嫌味とか言われちゃうのかぁ。
「……ドンマイ」
「テメエ!!」
俺がにこやかに慰めてあげると、アイバーンは気に入らなかったのか俺を追いかけてきた。
「ほれ! 仲が良いのは分かったから、さっさと行くよ!」
「そうだよ! 妊婦を待たせちゃ駄目!!」
いや、妊婦は病人じゃないし、今すぐ産まれそうってわけじゃないから一刻を争うわけではないんだけど……。
そう思ったが、友人を思うユリアにそんなこと言えるはずもなく、俺たちはすぐに家に向かうのだった。
そして、その日から数日後。
俺は、一応妹王女サマの様子を見ようと、まだ魔法を解除せずに王城に放置していた監視カメラ魔法の映像を確認した。
北の塔って言ってたから、この辺の塔か?
王城は無駄に広いので、妹王女サマの幽閉されている塔を見つけるのに少し苦労したが、なんとか探り当てた。
そして、その様子を見た。
「……なあ、メイリーン」
「はい? どうしました?」
「ちょっと、こっち来てくれる?」
「? 分かったわ」
食事の準備をしていたメイリーンが、俺の呼びかけに応じて側に来てくれた。
「ちょっと、これ見て」
そう言って、俺は監視カメラの映像をメイリーンに見せる。
魔法によって作り出されたディスプレイは空中に画像を映し出しており、側にいれば誰でも見ることができる。
「……え?」
「王族の幽閉刑って、こんな優雅な生活を送れるの?」
俺が見たのは、刑罰とは思えないほど豪華な部屋で、つまらなそうに本を読む、豪華なドレスに身を包んだ妹王女サマの姿。
側には使用人も控えており、テーブルの上には淹れたての紅茶と茶菓子が置いてあった。
どう見ても、普通のお嬢様のお部屋にしか見えません。
「……いえ。魔族国での王族の幽閉刑は、最低限の衣服と食事が与えられるだけで、部屋もベッドと机があるだけの質素なものです。こんな豪華な部屋だったり、ドレスだったり、ましてや使用人なんていませんし、本や、お茶や、お菓子なんて絶対に出ないです」
「つまり……コイツらは、妹王女サマを表から隠しただけで、処分はしてないってこと、だよな?」
「まあ……死んだことにされていますから、表には出れないでしょうけど……年月が経てばそのうち外にも出てくるでしょうね」
そうか、そうか。
そういうつもりなのか。
つまり、俺との約束は守るつもりはない、と。
「夜、ちょっと出てくるわ」
「はい。分かりました」
この日、俺は寝る前にワイマール王都に転移した。
日中だと、誰かに見られるかもしれないからな。
俺は、夜の闇に乗じて王都にある王城の上空に浮かんだ。
そして、妹王女サマのいる北の塔をこの目で視認したあと、塔に向けて魔法を放った。
塔に着弾した魔法は、塔を丸ごと包み込み、大爆発した。
それを確認した俺は、大騒ぎになっている王城を後目に自宅に転移で帰宅した。
「お帰りなさい。どうでした?」
「ああ、見せしめに派手に潰してきた」
「そう。お疲れ様」
帰宅した俺を、メイリーンは優しく抱きしめて慰めてくれた。
やはり、この世界の為政者は信用できないと、改めて実感した。
その後、アイバーンからの報告で、なぜか俺の指名手配がワイマール王国において解除されたことを教えられた。
アイバーンは不思議がっていたが、俺はすぐに分かった。
ビビッて俺の御機嫌を取りに来たな、と。
その後も、俺は敢えて王家に連絡はしなかった。
これから一生、俺の影に怯えて暮らしてろ。
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