ふりかけご飯アンソロジー

橘 詩音

第1話 新しい靴





何十年も前から

沢山いる子供たちの靴を

買い続けた母

経済的な厳しさのなかでも

子供たちだけには

古い靴を履かせずに

真新しいものを用意した母


物を大事にしないとしっかり叱る

食器を箸で鳴らして遊んだり、

食べ物を粗末にすると

鬼のような表情でたしなめる母

靴を脱いだら揃えるんだよ

神様が見ているからね

と笑っていた母


いまはもう

母から靴を買ってもらう子供はいない

大人に成長した子供たちは

いまは自分の子供のために

靴を買う


母は自分自身にやっと

靴を買えるようになった

新品の靴は

誇らしげに母の足元で光る


やがて、少しずつ

身の回りのことができなくなった母

今はもう

自分で靴を買いに行くことさえできない

けれど母は笑って言う

「かわいい靴が欲しい」

いつしか母はおねだり上手になり

それさえも

チャームポイントに変化させる


徐々に歩きづらくなっても

小さな一歩をわすれない母

転びそうになっても

ゆっくりゆっくり

弱った足を前に踏み出す


母の魂の輝きが

明るい表情となって

周囲に降り注ぎみなを元気づける

悲しみの人を笑顔に変える

それは

母の長い人生の

生き様そのものだ


母の足元の光が

いつまでも

続くようにと願いながら

店で一番、かわいい靴を

私は用意して

母に贈ろう






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