14.探魔(3/3)
いつもより早くに目覚め一階に降りるとヴァイトもまだ起きていなかった。
ご飯を二人分用意して机に並べていた時、服を捲り上げ筋骨隆々な腹筋を晒しながら眠たげな様子でお腹を掻くヴァイトが部屋から出て来た。
「こんなに早く起きてるなんて珍しいなアル、てか飯作ってくれたのか!」
「寝る前に読んだ本に書いてあった事を試してみたくなって早く起きちまっただけだよ」
「可愛げもあんじゃねぇか、ワハハハ」
「寝起きからうるせぇな、俺は食べたら先家出るからな」
「了解、飯ありがとな」
実戦したい気持ちがはやり、あっという間に食べ終わると駆け足で家を後にした。
訓練場に着くと改めてルルの言葉と本の内容を整理して坐禅を組み思考の海に潜り出す。
本には「無理に深く泳ごうとせずに落ちる感覚を持て」と書いてあり、今回はそれに従いゆっくりと海の中を落ちていく。
初めのうちはいつもよりゆっくりと深度を下げていくが段々と加速していき三時間程経つと泳ぐより早く潜れていることに気づく。
そして4時間程経った頃ついに海底にぶつかった。
初めて出会う海底に喜ぶのも束の間まだ魔力の源を見つけた訳ではないと慢心を殺し、気合いを入れ直して真っ暗な海の底を手探りで進む。
時刻が刻一刻と過ぎていき、集中力の限界が迫ってくるのが分かる。
焦る気持ちが、ただでさえ残り僅かな集中力を削っていくがその時、ルルの言葉が脳内に蘇ってきた。
―自分の得意な魔法のイメージ……―
得意魔法である毒属性のイメージを拡張していく。強く煮えたぎる酸の様でどんどん広がっていく細菌ような魔力を想像する。
すると右手が僅かにヒリヒリする感覚を感じる。その原因を探す様に進みだすと次第に身体全体にヒリヒリとした痛みが広がっていき、痛みに耐えるとともに着実に近づいてる実感で鼓動が加速する。
集中力はもうすでに限界近く、今にも浮上してしまいそうだったが何とか気合いで暗い海底を一歩ずつ踏み締めながら進んでいく。
苦しさや痛みがピークに達した時ついに海底から湧き出る魔力の源を発見した。
―ついに見つけた―
興奮に駆られ手を伸ばす。
指先が海底を掠めたその時、集中力途切れた。
現実に浮上すると息をすることも忘れていた事を実感する。
時刻は初めてから7時間経っていた。
乱れる息を整えながら魔力の源を感じられる様になっているか恐る恐る確かめる。
再び目を瞑り身体の中に目を向ける。すると鳩尾あたりで僅かであるが確かに今まで感じたことのない魔力の発生を感じた。
「よし!!!!」
思わずガッツポーズが飛び出し、訓練場に俺の喜びが響き渡る。
「ようやく見つけたか」
振り返るとそこには前の様な憎たらしい笑顔を浮かべたヴァイトが立っていた。
いつもならこの顔を見ると苛立ちの感情が浮かんでくるが今日に限って何故か嬉しく感じた。
「待たせて悪かったな、遂に見つけてやったぞ」
興奮が冷めやまないためいつもより少し高いトーンで応える。
「そしたら明日からは早速魔術の修行に移行できるな」
「いや今日からだって大丈夫だ!」
立ちあがろうとするも足が痺れているのとひどく疲れているためかうまく立てない。
「バカ言え、そんなふらふらな状態じゃ意味ねーよ。今日はさっさと帰って明日に備えて早く休め」
仕方なくヴァイトの指示に従い訓練場を後にする。
疲れてふらふらの状態ではあるが足はいつにも増して軽く思えた。
「悪いヴァイトちょっと図書館寄ってから帰る」
適当な相槌をもらったのち、日課になっていた図書館に訪れる。
「こんにちはアル今日はどんな本を…、心なしか嬉しそうな顔してるけどもしかして…」
「察しの通りルルのおかげで遂に探魔ができた!色々とアドバイスありがとな!」
「うんうん私は何も、、それよりおめでとう!!」
いつもと変わらない表情をしていたつもりが、ルルには喜びが筒抜けだったことに恥ずかしさを感じるも、ルルの顔に笑顔が咲き、恥ずかしさだなどどうでも良くなって二人で喜び合った。
その後は帰っても良かったが毎日寝る前に読書する習慣ができていたため今日も本を借りることにした。
「ルルはいつもここで本を読んでるけど何を読んでるんだ?」
ルルの表情がさらに明るくなる
「このマゼラン大陸史のこと!これはヴァンパイアの祖先が大昔にこの大陸中を旅した時に書いていた日記をまとめたもので、全部で10以上のシリーズが出てるんです!それで・・・・・」
ルルの口から予想を超えて矢継ぎ早に本の詳細が飛んできたため思わずたじろいでしまう。
「・・ってすいません、少し話し過ぎました…」
話している途中で冷静さを取り戻したのか急激にしおらしくなっていき、その反応が面白くついつい笑ってしまう。
「そんなに笑わないでくださいよ!」
「ごめんごめん、そんなに楽しそうに話すルルを見てると楽しくなっちゃって。それに敬語に戻ってるよ」
「あ!本当だ、でも村の人で本に興味がある人があんまりいなくてついつい話し過ぎちゃった」
「謝らないで大丈夫だよ、それにルルがあまりにも楽しそうだから俺も読みたくなっちゃった。そのマゼラン大陸史の一巻ってどこに置いてあるの?」
再び満面の笑みに変わったルルに案内され一巻を貸してもらい、その後もう一度魅力をたっぷりと聞かされ、いつもより1時間程遅くに帰宅する。
家ではヴァイトが豪勢な料理を作って待ってくれていた。
「悪い遅れた」
「待ちくたびれて食べちまうところだったぞ」
「それよりこんな豪華なご飯どうしたんだよ」
「そりゃ一番弟子が探魔に成功したんだから祝いの席も必要だろ!」
「そんな大袈裟な、ただそれを口実に酒が飲みたいだけだろ」
「それもあるかもな!ワハハ」
ヴァイトの笑い声が家中を包み込む。
「まあ何にしても修行をつけてくれてありがとな、改めてこれからもビシバシ指導頼む」
「ああまかせろ!それじゃあ冷めないうちに食べるか」
こうして楽しいヴァイトとの食事を終えると、部屋に戻り明日の修行に備えて寝た。
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