二十三の甲 楚人沐猴而冠
張良が
しかし、張良の
もともと張良は線が細く、色白で、どこか
項伯は、張良を心配して言った。
「張良、これからどうするつもりだ?」
張良は薄く笑った。
「
これからは老子の
(いずれも道教の
雲や水が流れ行くように各地を
名声や利益を追い求め、
これを聞いて、項伯は深く、うなだれた。
惜しい。あまりに惜しい。張良ほどの人材が、
だが項伯は、はっきりと悟ってもいた。
あの張良がここまで言う以上、彼にはもう、再び仕官する気が全く無いのだ。
これ以後、項伯は二度と張良に仕官を勧めなかった。
ただ自分の邸宅に張良を
*
それからしばらく時が過ぎた。
ある日、項伯が覇王項羽に呼び出されて朝廷へ出仕したので、張良は一人で
その色と香りを
張良は
「
そういえば、このところ読書もしていなかったな。少し、のぞいてみようか」
張良は静かに階段を登り、
『
左の方には古い書物が何万巻も積まれ、右の方には諸国から届いた文書や、官僚たちからの
項伯は
これは天子の秘書とでも言うべき役目で、あちこちから届いた報告、
項伯は、そうした
張良は、なにげなく文書を手に取り、一つ一つ開いてみて……鼻で笑った。
「たいした文書ではないな」
ある物は
ことごとく、取るに
だが、ある
その文書の内容は、こうだ。
『臣は、次のように聞いております。
天下を治める道は、天下の
そうでなければ、どんなに力が強くとも、勝利は
そして
そうでなければ、
陛下は関中において
民衆はただ、陛下の強さを恐れ、威勢を恐れ、
しかし、強さは、いつか弱まる。威勢は、いつか
強さと威勢と表向きの服従は、まさに陛下が
長く統治することを望んでも、望み通りにはいかなくなります。
これこそ、臣が陛下のために
劉邦は、
しかし関中に入った後は、政治に力を注ぎ、仁愛の心で民に
それゆえ、
一方、覇王陛下は関中に入ってからというもの、善政を行ったという話ひとつ無く、それどころか
家臣からの邪悪な
臣が思いますに、覇王陛下は知らないのでしょう。
天下は陛下に服従しているわけではありません。まだ反逆を行動にうつさず潜伏しているだけなのです。
劉邦が
そうなれば劉邦は、強くなろうとせずとも自然に強くなり、勝とうとせずとも自然に勝って、覇王陛下が
先日、劉邦が
その後で
こういうことを見抜くのが、『天下の
この私は、劉邦の考えなど自分のことのように見抜いています。
しかし覇王陛下はボンヤリして、こういうことに気づいておられない。
陛下の左右の将や兵士も、ただ武器を振り回すことしか頭になく、陛下の威風に
ここまでの戦いで覇王陛下はひたすら勝ち続けました。ご自分を天下無敵だと思っておられるでしょう。
しかし、敗北と滅亡の
だからこそ、臣は人々から無礼だと
以上をふまえまして、今は、次のような計を
まず兵員を増強する。
戦備を厳重に整える。
国境の
代わりに知恵と武勇に
さらに、劉邦の家族を連れてきて覇王陛下の手元に
仁義をもって政治に取り組み、兵馬を整え、兵卒たちには行進の仕方や隊列の組み方を訓練させ、内政のためには宰相を務める賢人を探し求め、外政のためには有能な将軍の元を
これが最も良いことです。
このように正しく国を運営していれば、劉邦も
しかも、
以上。
臣、まことに
張良は、この
一つには驚きのため、一つには喜びのためである。
驚きとは、危機感からである。
この
もし項羽がこの人物を採用し、この
もともと勢力の大きさや強さでは、項羽の方が格段に
一方、喜びとは期待からである。
この
どうにかして漢の臣として引き入れ、
どこの誰かも分からないが、この人物は大将軍の才を持つ者に違いない。
張良は足早に
(つづく)
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