セイラという少女

第1話

小さな黄色い薔薇の花が咲くアーチと、小規模だが装飾の多い邸。

庭のガゼボから少女の声が聞こえてくる。



「それでね。サラ様が言うにはね。旦那様と食事会に呼ばれたのだけど、そこの女主人に旦那様が媚薬を盛られてしまったのですって、商談の話を女主人としていると旦那様の様子がおかしくなって……」


セイラは令嬢らしからぬ非常によくしゃべる女の子だ。


「それで? それで?」


友人のマルチナが次を待つ。


「こらっ! セイラ、またベラベラとはしたない」

「婆や、面白いのはここからなのよ。ここから閉じ込められた旦那様を女主人から救うためにサラ様が斧でドアを壊すところのあたりから……」

「そんなのいいから、もっと令嬢らしい振る舞いを覚えたらどうだい」

「へいへい」

「はい、だろが! セイラ!」

「はーい、マルチナまたね」


セイラは庭から自室へ走って逃げた。


セイラの見た目は銀の髪に青灰色の瞳で儚い印象だが、かけっこが速く、泥んこ遊びしたり、木に登ったり、少々おてんば。

黙っていればそれは妖精のように可憐で、美人と言われればその部類だ。

もったいないと婆やによく言われていた。

よく笑い元気いっぱいに育った。



それからセイラは十六歳の初夏、事故に遭う。パーティーの帰り道だった。

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