第2話 路地

 狭い路地をゆっくりと進んでいく。

 両脇には民家や安宿などの無機質な建物が路地の道を延々と引いている。日が傾いていることもあってか、路地の奥先はもうすっかり暗闇になっていた。

 

 面接指定の場所はこの暗闇の先にある。無論カフェなんてものはありそうになかったが、ありそうにない雰囲気がいっそう良いような気がした。ひょっとしたら、本当にカフェがあるかもしれないし、何か面白そうな建物があるのかもしれない。


 思えば、こんな好奇心に任せた行動は今日に始まったものではなく、最近の私の中で流行っているものといえた。職場までの道を少し変えて路地に入り、変な店がないか探したり、用もなく骨董品店に入り浸っては、妙なものを買っては捨てるを繰り返す。それらの無駄な行動は不思議と充実感のようなものを与えてくれるのだ。

 

 が、指定された番地に来たところで私は目を細めた。


 そこにカフェなんてものは無く、薄汚い小さい倉庫のような小さい建物があるだけだった。

 

「やっぱり、悪戯か」

 

 まあ、そんなものだろうと、今まで高揚していた気分が急激に冷めていくと同時に、理性が戻った。

  

「何してるんだろう私……」


 ただ、最後の足掻きとして、倉庫の中だけ確認して帰ることにした。ひょっとすると『残念でした』と書かれた張り紙くらいはあるかもしれないという期待を込めて、古びた取っ手に手を掛けて勢いよく開けた。


 チリン 


 その瞬間、予想とは違う感覚を覚えた。


 踏み出した足は古い床板による軋みではなく、しっかりと堅い床を踏む甲高い音を鳴らし。埃っぽいと思われた空気の代わりに、珈琲の匂いが混じる澄んだ空気が鼻を抜けた。


 数種の豆が満たされた瓶が並ぶ黒樫色のカウンター。棚に綺麗に並べられたコーヒーカップ。それらを淡く灯すオレンジ色の照明。


 そこは確かに、大きな『カフェ』と言える内装であった。


「あら? ひょっとして面接希望の方でしょうか?」

 

 反射的に返事と共にその声の方に顔を向けると、一人の女性が立っている。


 その第一印象は『貴族の令嬢』であった。

 

 黄金で染めたような長い髪の毛に、遠目でも分かるようなきめが細かそうな肌。身に着ける白いドレスの様な服は艶やかな光沢を含み、オレンジの照明光を微かに反射して輝いているように見えた。


「では、あちらの方で面接を始めましょうか」

 


  


 


 






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