それでも、それでも、それでも、

無理だ、もう無理かも、疲れた。左手からは血が出ており、出血は酷かった。けどさ、痛みは感じないんだ。

「大丈夫、大丈夫か?」

 凜先輩が慌てて言う。

 大丈夫だと思うか?本当に思っているのか?偽善か?

 なんだよその目、哀れなものを見ている目。やめてくれよ、俺は可哀そうな奴じゃない、ただ、助けを求めている人を助けた結果がこれだ。

 もう、壊れたんだ。どうしたらいいんだ?助けを求めている人を見捨てるのか?自分の人生に邪魔な人は見捨てるのか、俺は、俺はそんなの嫌だ。だって、みんな幸せでいて欲しい。 

 誰一人俺の隣で泣いて欲しくない。ただ、それだけなのに、そんな理想を叶えることはできない。必ず、必ず邪魔者がいる。

 もう、そんな理想なんて捨てようかな。

「大丈夫だと、思いますか?」

 もう、自分が自分じゃなかった。

「あ、ああ」

 凜先輩は言葉が詰まる。

「生徒会の名誉とか地位とかそんなものが大切なんですか?信じることもしないで何が名誉だよ、何が地位だよ」

「すまない」

 少し泣きそうな顔をする凜先輩。

 あれ、なんで俺が泣かそうとしてるんだよ。最低だ、俺は最低だ。

「ごめんんさい、お世話になりました。さようなら凜先輩」

 俺は、深くお辞儀をして。この場を去る。血だらけの床を歩きながら。

 

 その後、職員室に呼ばれ俺は職員室に向かった。

 俺の左手を見ながら心配をしている、体育の中本先生が言う。

「大丈夫か」

 先生の様子を見る限り俺の噂を知っているだろう。

「はい、なんとか」

「そうか、俺は教師だ、だから、俺は生徒の悩みを聞く、なんでも話してみなさい」

 「はい、でも、もう大丈夫です」

 俺は作り笑いをする。

「そうか、いつでも相談をしに来てもいいからな」

「はい」

 それだけ言い、俺は職員室を出た。

 5時間目の授業を受けるため、教室に向かった。

 教室は俺の話題で持ち切りだった。

 教室に入ると、いかにもスクールカーストの上位に属するような陽キャが声をかけてきた。

「お前って、早百合と琴音を騙してるみたいだな」

 あの噂か、志保が流した噂がまた広まっているようだった。

「騙したって?俺が早百合と琴音に何かしてるのを見たのか?」

 教室内は俺たちを見ていた。成瀬も、早百合も静かに見守る。

「は?お前怒ってるの?コイツおもろ」

 後ろの、仲間たちが笑っている。

「あのーもう終わりでいいですか?」

「ああ、でもよ、俺の早百合に近づくなよ、俺が狙ってるんだからさ、お前みたいな最底辺が近づくと汚れるから」

 俺にだけ聞こえる声で言う。耐えるんだ。

 それだけ言い陽キャグループは自分の席に戻った。

 俺は自分の席に座り、眠りについた。深い、深い、眠りに。

 

 目を開けると放課後になっており、琴音が隣にいた。俺の顔をじっと見つめていた。

「おはよう、他のみんなは、生徒会長を説得に行ってるよ」

「そうなんだ」

「ゆくっりしていいよ」

「ああ」

「ねえ、拓哉」

「?」

「膝枕する?」

「へ?」

「ほら、いいよ」

 膝をポンポンと叩く。

 俺は、ゆっくりと頭を下げる。

 下から見る、琴音は、どこからみても容姿端麗だった。髪も長く綺麗に整っている。

「どんなかな?」

 照れながら言う琴音に、俺もドキッとしてしまう。可愛すぎだろ。

「めっちゃ快適だよ」

「よかったよ」

 ニッコリと笑う琴音の笑顔に俺の心臓が撃たれる。

 なんだよこの、幸せの時間。

「俺ってさ、優しいのかな?」

「逆に優しすぎるよ」

「そうかな」

「そうだよ、だって、みんな平等に優しくして、自分が傷ついも頑張ってるじゃん」

「それっていいことなのかな」

「いいことだよ、あと、私そんな所が好きだもん」

「え?」

「だ~か~ら~、好きだよ」

 ええええええ、これ告白と思ってもいいよな。

 俺は、あまりにも衝撃的な発言に膝から転がり落ちる。

「だ、大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ、そのビックリしてしまって」

 その時、教室の扉が開く。

 直美、凜先輩、成瀬、志保、早百合がいた。

 成瀬が言う。

「どういう状況?」

「いや、なにもなかった。そうだよね琴音」

「え?私が膝枕していたんだよ、そして私が...」

「あああああ、ストップ」

 琴音は天然なのか、本当に。

 咳ばらいをする凜先輩。

「そのだな、拓哉本当にすまなかった。私は本当に馬鹿なことをした。すまない」

「本当に大丈夫です。あの時俺も言い過ぎました。ごめんなさい。理性を失っていました」

「あのようにしたのは私の責任だ、すまない」

「もう、大丈夫ですよ。今は元気です」

「そうか」

「それで、なんでここに?」

「ああ、そうだな、直美が本当のことを話してくれた。あのスマホは直美の物で、告発したのも直美だ」

 直美は俺の方に来て泣きながら言う。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 丸眼鏡が落ちそうなくらい頭を下げる。

「大丈夫だよ。またさ、一緒に勉強してくれないかな?」

 俺は、琴音と話して落ち着いて考えていた。

 俺は、あの時壊れそうになっていた。けど、琴音と話して救われた。誰かが隣にいるだけで、救われることが分かった。あの時怒っていたのが恥ずかしくなった。怒りに身を任せるのはよくないと理解した。誰かが、隣にいるだけで救われる。

「いいの?私が、私が」

「いいよ、だからさ、聞かせてよ、どうしてこんなに苦しそうなのか、どうして、俺を選んだのか。ゆっくりでいいから聞かせてくれないかな?」

「う、うん」

 世間一般的にみると俺は、おかしい人なのかもしれない、自分でもたまにおかしいと思う、けど、やっとわかったんだよ。

 俺は、この世界に平等はないと思っている。

 平等がないなら、作ればいい。俺の周りにいる人たちを幸せでいられるように、楽しくいられるように、悲しむことが無いように、みんなが平等でいられるように、俺が作ればいい。

 俺は、俺の隣にいる人は全員が幸せであって欲しい、悲しんで欲しくない。だから、俺が傷ついて、みんなが幸せでいられる場所を作ればいい。

 俺が、平等を作ればいいんだ。

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