第50話 帝国軍

ダンジョン48階攻略に名乗りを上げていたのは、「金の木漏れ日」の他に「はがねの獅子」というパーティーがあった。


合同で討伐しても構わいのだが、報酬や功績の分配で、揉め事や争いが起きやすく、パーティー単独での攻略が推奨されていた。

迷宮都市では、階層突破に6か月の挑戦権があり、6か月経っても討伐できない場合は、次のパーティーに譲らなければならないというルールがあった。




シリルが48層を目指していた時、灰色の服装を纏った一団が迷宮都市にやってきた。

彼らは路地裏にある寂びれた宿へ入っていった。


帝国軍の作戦参謀、バルナルトが彼らを迎え入れた。


「お待ちしていました。ヴァレンツ隊長」

「ああ、よろしく頼む。状況はどうなっている」


バルナルトが淡々と状況を説明する間、ヴァレンツは無言で顎鬚を撫で続けていた。

その表情に、不安の影は一切見られなかった。


「あと2か月で我々『鋼の獅子』に挑戦権が移りますが、どうします?」

「48階の対策は準備万端だ。いまから様子見がてら潜るとしよう」

「新設の魔道部隊はまだですか?」

「一度に来ては怪しまれるから、後から小隊毎に分かれて来る」

「なら今から冒険者ギルドに行って登録と手続きをしましょう」


そこに大司教が面会を求めて来たという知らせが届いた。

二人の顔に緊張が走り、バルナルトが立ち上がった。


「大司教とは面識がありますので、私が対応します。ヴァレンツ隊長はしばしお待ちください」


バルナルトが部屋を出ていき、隣の部屋で大司教と話をしだし、やがて大司教は帰っていった。


「大司教の話はなんだったんだ?」

「例の漆黒の魔女を捕らえて、秘宝とやらを取り戻して欲しい……という依頼です」

「当然断っただろうな」

「当たり前ですよ。漆黒の魔女には手出し無用と厳命されていますからね」

「では冒険者ギルドへ行こう。案内を頼む」

「承知しました」


大司教はゼノアから秘宝を奪いたいと考え、「金の竜爪」のリーダー、ベルハルトに頼んだがけんもほろろに断られた。


「たかが女ひとりに腰が引けるなど、金等級が聞いて呆れる。しかし困ったぞ。どうしたものか」


そして今「鋼の獅子」にも断られ、怒りと失意の中にいた。



バルナルトとヴァレンツ隊が冒険者ギルドの門を開けようとした時、中からゼノアと四人の子供たちが出てきた。

ゼノアはバルナルトとヴァレンツを一瞥し、何食わぬ顔で通り過ぎていった。


「バルナルト、あれが例の女か?」

「はい、そうです」


他の隊員が小さな声で呟いた。


「凄い雰囲気の美女だな。あれが漆黒の魔女?」

「こら、聞こえたらどうする」

「でも魔力は普通の人間並みですよ」


ヴァレンツ隊長は、その隊員を諫めるように睨んだ。


「底が見えないから怖いのだ。おまえはワイバーンの大群にひとりで勝てる自信はあるか?」

「あるわけないでしょ」

「そういうことだ。手出しはするなよ」

「でもドナシェル隊長のように罠に嵌めるこはできるでしょ。やりようはあると思いますよ」

「今はダンジョンに集中しろ。いいな」

「はい、隊長殿」


ギルドで登録をすませた彼らは、そのままダンジョンへと向かった。


そして大量の物資を運ぶ補給部隊と共にダンジョンを進んでいった。

彼らは金等級相当の実力者だったので、近づく魔物を楽々と倒していった。




三週間が過ぎた時、帰還中の「金の木漏れ日」に出会った。

案内係の者が、話を聞きに行って帰ってきた。


「あれは「金の木漏れ日」で、48階を踏破したそうです」

「やるね~!なら49階に行っていいんだよね?」

「はい、49階の挑戦権は我々にありますから、問題ないはずです」

「ならば49階の調査を開始しよう。行くぞ!」


この頃、迷宮都市には次々と新しい冒険者たちがやってきた。

帝国の部隊だと分からないように、小隊毎に異なる街で冒険者登録を済ませ、迷宮都市で異なるパーティー名を登録しダンジョン入場許可印を得た。

その数は100名にも及んだ。


参謀のバルナルトは100名もの隊員の宿屋やら世話で多忙を極めた。


「戦争は量が大事ですが、ダンジョンは質の方が大事なのに……そろそろ49階に着いた頃ですかね」





「金の木漏れ日」とすれ違ってから一週間後、ヴァレンツ隊は49階に到着した。


「レッサードレイクか、ならボスはドレイクだな。よし、帰還するぞ」

「ええ、隊長、一戦もせずに撤退ですか?」

「本国からドレイク対策の物資を送ってもらい、一気に蹴りをつけよう」

「わかりました。隊長」


こうしてヴァレンツ隊は、急ぎ引き返していった。

「金の木漏れ日」が帰還した3日後、彼らは50年振りの階層踏破のお祭り騒ぎの只中に帰ってきた。

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