番外編

番外編 episode Lilia


 私はリリア。


 この村に生まれ育って、ずっとここで暮らしてきた。でも、村の外に広がる世界に、私はいつも憧れていた。


 ――父も母も、冒険者だった。

 村を守るために、外の世界でモンスターを倒して、時には遠い街まで行くこともある。


「いつか、私も……」


 そう思いながら、私は村の外を見つめる毎日を過ごしていた。


 村では、私は少し浮いていた。

金色の髪、大きな青い瞳――それが、他の子たちとは違って見えたのかもしれない。


「リリアは綺麗だけど、なんだか別の世界の人みたいだよね。」


 そんな言葉を何度も聞いた。悪意はないんだろうけど、そのたびに胸が少し痛んだ。


 だから、私はいつも一人だった。村の子たちと一緒に遊ぶこともあったけど、どこか距離を感じてしまう。


 でも、寂しくはなかった。

 私は家に帰れば、冒険者だった両親の話を聞くことができたから。


「今日は森の奥で大きな狼を倒してきたんだよ。」

「次は街道を守る護衛の仕事があるんだ。」


 父と母の話を聞くたびに、胸が高鳴る。


 私も、いつか。

 強くなって、村を守る冒険者になるんだって。


 そして、私はついに決心した。

「私も、自分でモンスターを倒してみたい。」


 まだ8歳だけど、もうじっとしていられなかった。

 冒険者になるためには、少しでも早く戦い方を覚えないといけない。


 父が家にいない日に、私はこっそり森に入った。

 もちろん、弱そうなモンスターを探してだ。


 最初は怖かったけど、森の中を歩くうちにだんだん慣れてきた。


「大丈夫、私はできる。」


 そう自分に言い聞かせながら進んでいく。


でも――


 その日は違った。


 目の前に現れたのは、思っていたよりもずっと大きな狼。

 頭には鋭い角が生えていて、目が赤く光っていた。


 どうしよう……!


 逃げなきゃいけない。わかってる。でも、足が動かない。

 狼は低い唸り声をあげながら、ゆっくりと私に近づいてくる。


「だ、誰か……!」


 その時だった。


「テレポート!」


 突然、目の前に少年が現れた。

 私と同じくらいの年の男の子。でも、堂々と狼の前に立ちはだかっていた。


「大丈夫か?」


 彼は振り向かずに、私に声をかけてくれた。


「う、ん……」


 かすれた声しか出なかったけど、私は安心した。


 少年は狼を睨みつけながら、呪文を唱えた。


「マナバレット!」


 空から飛び出した魔法の弾丸が、狼の眉間に命中する。

 狼は悲鳴をあげて、森の奥へと逃げていった。


 すごい……!


 私は呆然とその背中を見つめた。

 この少年、私と同じくらいなのに、こんなに強いなんて。


「ありがとう……助けてくれて……」


 思わず頭を下げた。


 彼は「ヨウマ・ヤモト」と名乗った。

 私と同い年で、しかも――なんと、家が隣だった。


「こんな近くに住んでたなんて……」


 そう言うと、ヨウマは少し恥ずかしそうに笑った。


 家に招いて、一緒にお茶を飲みながら話をするうちに、私は気付いた。


 彼も、私と同じだ。

 もっと強くなりたい。もっとこの世界で何かを成し遂げたい――そう思っているんだって。


「一緒に、冒険者を目指そうよ。」


 彼がそう言った時、私は心の底から嬉しかった。


 一人じゃない。

 私には、同じ夢を持つ仲間ができたんだ。


 これが、私とヨウマの出会いの始まりだった。

 スキルを授かる10歳の儀式まで、あと少し。


 その時までに、もっともっと強くなるんだ。

 私も、ヨウマも。


――そして、私たちは必ず夢を叶える。

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