第15話 闇の奥に潜む光

洞窟の中は暗く、冷たい空気が肌にまとわりつく。視界の先で、かすかに響く不気味な音が洞窟全体にこだまし、背筋が凍る。暗闇に一歩足を踏み入れたとき、まさかこんなにも危険な状況に直面するとは思わなかったが、ここで引き返すことはできない。奥に潜むアンデッドを倒さなければ、この洞窟を抜けられないのだ。


「くそ!! アンデッドがいるなんて聞いてないぞ。討伐対象は確か、スケルトンだったはず…!」


 頭の中で情報を整理しながら、魔法の準備を進める。自分の息が洞窟に響き渡る中、遠くから奇妙な音が近づいてくるのを感じ、心臓が強く鼓動する。背筋を伸ばし、冷静さを保とうと努めながら、指先に魔力を集中させていく。


 肌が崩れ落ち、骨が剥き出しになったアンデッドがこちらに迫ってくる。腐敗した顔がこちらを見据え、まるで生前の記憶の残滓が宿っているかのようだ。眼窩に浮かぶ薄暗い光が不気味に輝き、静かに見つめてくる。その視線が、ただの亡者でありながらどこか哀しみと憎悪を帯びているようにも見え、嫌な予感で心臓が高鳴る。


「来るか…!」


 アンデッドが歩み寄るたび、洞窟の湿った地面がぐにゃりと音を立て、腐敗した手がこちらに迫る。「マナショット!!」と叫びながら魔力を放つと、青白い光がアンデッドの胴体へ一直線に飛んだ。一撃は確実に命中し、アンデッドがぐらりと揺れ、崩れるように倒れる。しかし、息つく間もなく、その腐敗した体から骨ばった手がさらに伸び、再び立ち上がろうとする。


「終わらせる…!」


 再度マナショットを放つ。その一撃でアンデッドの頭が粉々に砕け、骨と腐敗した肉が音もなく崩れ落ちる。自分の荒い息が洞窟に響く中、ようやく静けさが戻ってきた。しかし、その一瞬の静寂はすぐに不気味な気配に変わる。暗闇の奥からさらに足音が近づいてきて、目を凝らすと、腐敗したアンデッドの群れが次々にうごめきながらこちらに向かってきているのが見えた。


「まだ…終わりじゃないのか…」


 背中に冷たい汗が流れ、息を飲む。この洞窟にはまだ数えきれないほどのアンデッドが潜んでいるのだ。洞窟内に響き渡る自分の荒い呼吸音が、追い詰められた状況を改めて実感させる。絶望的な状況だが、引き返す道もない。深く息を整え、覚悟を決める。奥からこちらに迫ってくるアンデッドたちが、鈍い腐敗臭をまといながら次々と這い出してくる様子が、目の前に広がっている。


 次々とマナショットを放ち、数体のアンデッドを撃破する。魔法が放たれるたびに青白い光が洞窟を一瞬照らし、薄暗い中での戦闘の様子が垣間見える。腐敗した肉が散り、骨が粉々に砕けて地面に崩れ落ち、洞窟の地面は腐臭と腐肉で満たされていく。しかし、目の前で倒れても、新たなアンデッドが奥から湧き出すかのように現れ、無限に続く悪夢のような戦闘が続く。時間が経つにつれ、少しずつ疲労が蓄積されていき、魔力を放つ腕の動きも重くなってきた。


 指先に集中していた魔力が徐々に薄れていくのを感じるたび、焦りがこみ上げてくる。狭い洞窟に閉じ込められ、次々に現れるアンデッドに囲まれた。四方八方から腐敗した手や骨が突き出され、反射的に次々とマナショットを放つも、疲労は増すばかりだ。砕け散った骨と腐肉が地面を覆い尽くす中、新たなアンデッドが這い出してくる姿が視界に入り、心が折れそうになる。


「くそ…どれだけいるんだよ!」


 思わず叫びながら、マナショットを連続して放つ。手応えのある一撃で、アンデッドたちの体が次々と砕け散るのを確認するが、撃破するたびに新たな敵が現れる絶望的な状況に心がすり減る。腐敗した手がこちらを掴もうと伸びてくるが、何とか身をかわしながらマナショットを放ち続ける。だが、魔力が尽きかけ、次第に攻撃の精度も落ち、命中させるのが難しくなっていく。魔法の光も薄れ、手の震えが次第に大きくなり、まるで全身から力が抜け落ちていくような感覚が襲ってくる。


 指先に残っていた魔力がついに底をつき、動かそうとするたびに手がわずかに震え始める。ついに力が尽きかけたのだと理解した瞬間、迫り来るアンデッドの群れが一層近くに感じられ、背後から冷たい汗が流れ落ちる。


「もう…これ以上は…!」


 限界が近づく中、瞳の前で再びアンデッドの群れが迫り、まるで全てが暗転するように視界が歪む。身体は鉛のように重く、指先も動かない。ここまでか…そう悟りかけたその時、洞窟の暗闇を裂くように、強烈な光が一瞬にして視界を埋め尽くした。


「大丈夫!? 私が来たからもう大丈夫だよ!」


 信じられない光景に、息を呑む。


「な…なんで、ここに…?」


 そこには、決してここにいるはずのないリリアが立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る