第10話 初めての一人旅
村を出てから2時間弱が経った。魔物はまだ出てこない。実に暇。遊び道具なんて持ってきてもないし、話し相手もいない。そろそろ、精神が崩壊しそうだ。
俺の初期装備は、金ともしもの剣だけ。テルラや、ミルラには大丈夫だからと言ってしまったが、今をとても後悔している。
それでも、ここで立ち止まっていても仕方がない。まずは拠点を作らなければ。
俺は素手一本で、木々が密集するしっかりとした木を探し始めた。いくつかの木を選び、マナショットで倒していく。数本の木が地面に倒れると、リフトで木々を浮かせ、綺麗に並べる。俺は枝を払い、丸太を適当な長さに切り揃えた。
「さて、ここからが本番だ」
丸太を組み立て、簡易的な小屋を作り始める。壁を立て、屋根をかけ、風雨を凌げる程度のシェルターが完成した。
「これで一安心だな」
と思ったのも束の間。木々は一瞬で崩れていき、俺の家が壊れていく。
「かなり難しいな」
何度も家作りに挑戦するが、作って壊れて、作って壊れての繰り返し。これじゃあ永遠に家を作れない。
「これじゃキリがないな…」
そんな思いに駆られた俺は、辺りを見回し、別の場所を探すことにした。少し歩くと、小さな洞窟が見えてきた。
「ここなら…」
俺は、洞窟を見つけた。中を覗き込むと、暗いが広さは十分だ。とりあえず、一時的なシェルターにはもってこいの場所だ。俺は洞窟の内部に寝袋を置き、いつでも寝れるように準備をした。
「これで一安心だな」
周りを見に行ったり、所持品を整理したりしている間に、夜になっていた。俺は焚火を起こし、周りが見えるようにした。
初めての異世界での夜を迎え、俺はしばらく焚き火のそばで考え事をしていた。
「食料はどうする?」
いくら金を持っているとはいえ、ここから隣の町は3時間掛かる。どうにかしてこの森で食料を調達しなければならない。
夜が更けていく中、焚き火の暖かさに包まれながら、俺は食料をどうやって調達するかを考えていた。しかし、その思索は突然破られた。洞窟の入り口から低く、恐ろしい唸り声が聞こえてきたのだ。
「まさか…」
息を飲んで身を潜めながら、洞窟の入り口を見つめる。影が揺らぎ、巨大なシルエットが現れた。魔物だ。
恐らく、この洞窟はこの魔物の住処だったのだろう。逃げ道は一つだけ。しかも、逃げ道が一つ封鎖されている。つまり、逃げ道は無いということだ。俺は剣を手に取り、魔物へ近寄る。
「おぉぉぉ!!」
俺は勢いよく、魔物の首へ目掛けて剣を振るう。が、簡単に弾き飛ばされてしまった。
「やっぱり、俺に剣なんて合わないよな...」
俺は剣を投げ、魔法を唱える準備をする。全身の感覚を集中させ、目の前の魔物に全神経を注ぎ込む。
「マナショット!」
手のひらから青白い光が放たれ、一直線に魔物へ向かって突き進む。その光が魔物に直撃し、魔物は後退していく。
久しぶりにマナショットを使ったから、発動できるか心配だったが、使えたから問題はなさそうだ。
魔物は、苦しそうにもがいている。
「そろそろ俺の本気を見せてやるよ」
この5年間、何もしてなかったわけじゃない。
「エナジーバースト!!」
指を銃のポーズにして、全身から湧き上がる魔力を一気に集中させる。まるで雷が指先に集まるかのようにエネルギーがみなぎり、その輝きが辺りを眩しく照らす。そして、その指先から青白い閃光が放たれ、空気を切り裂きながら一直線に魔物へと突き進む。
「これで終わりだ!」
目の前の指定位置に向けて、エネルギーは一点に集約され、まばゆい光が洞窟全体を包み込む。瞬間的に爆発が起こり、強烈な衝撃波が魔物を襲う。耳をつんざく音と共に、魔物はその場に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
爆発の余韻が消えると、洞窟内は静寂に包まれた。ゆっくりと煙が晴れ、そこには動かなくなった魔物の姿があった。
「やったか...」
エナジーバースト。魔力を指先に溜め、指定位置で爆発させる魔法だ。この技を使いこなすために、俺は5年間の訓練を積んできた。その効果は絶大だ。
洞窟内は、魔物との激しい戦闘で荒れ果てていたが、幸運なことに洞窟自体は崩れることなく、そのままの形を保っていた。爆発の余韻が消え、俺は肩で息をしながらその場に座り込んだ。冷たい汗が背中を伝うが、命拾いした安堵感がそれを吹き飛ばしてくれる。
「ふぅ…なんとか無事だな」
洞窟の壁には多少のひび割れができていたが、崩壊するほどの損傷ではなかった。これでしばらくは、この洞窟を拠点にできそうだ。俺は立ち上がり、辺りを見渡す。戦闘の痕跡を残したままでは安心できない。周囲を少し片付けて、寝床を整える必要がある。
まず、焚火を再び起こし、薄暗い洞窟内を暖かい光で照らした。焚火の揺らめく光が壁に映り込み、少しだけ心が落ち着いた。戦闘で疲労が溜まっていたが、今は安全を確保するのが優先だ。
寝袋を敷き直し、周りの洞窟の残骸を集め、少しでも快適な空間を作る。といっても、洞窟の中なので大したことはできないが、それでも寝るためには十分だ。所持品を整理し、剣を手元に置き、もし何かが起こった時にすぐ動けるようにした。
「よし、これで準備は万全だ」
焚火の温かさに包まれながら、俺はごろりと寝袋に横たわった。魔物との戦闘で全身が疲れ切っていたが、不思議と満足感があった。初めての異世界での夜は、思ったよりも波乱に満ちていたが、なんとか生き延びた。
「食料の問題も解決しないとな…」
そんなことをぼんやりと考えながら、俺は瞼が重くなるのを感じた。これから何が待っているのかはわからないが、とりあえず今日はもう十分だ。焚火のパチパチという音が、静かな洞窟内に心地よく響き渡る。
「明日からまた頑張るか…」
俺は深い眠りに落ちていった。
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