美少女と間接キス

弁当を再び食べていると黒川青波(くろかわあおなみ)が隣にやってきた一体全体何か用でもあるのだろうか。たしか紫乃の友達だったはずだが。なんの用だろう。


「金彦君、なんで脱いでたの」

「いやあ、炭彦に言われて?」

「どう見ても、ノリノリで脱いでたよ。意外な趣味があったんだね。みんな見てたけど、私は好きだよ」


どうやら勘違いされてしまったらしい。

さすがに俺はそんなに筋トレしていないし、突然意味も分からず脱ぎだすほどおかしくないはずだ?はずである。


「紫乃から聞いたよ。「鏑木ミルク」が好きなんでしょ。私大ファンなの。知ってる?」

「いや、知らなかったけど。」


 知っていたらとっくの昔に仲良くなっているはずだが。


「そんな……こんなグッツつけてるのになんで?私のカバン見てみてよ、ほら缶バッチあんなにつけてるのに」


 青波(あおなみ)さんのバックにはたくさんの缶バッチがついていたが確かに『ミルク』のグッツである。思い返してみればちょくちょく視界に入っていたのかもしれない。

 缶バッチの中には最近出たランダム缶バッチの『ミルク』バージョンがつけられていた。


 しかも9個もあった。カバンの一部分だけ痛バックになっている。一体いくらかかったのか。


「もう金彦君が『ミルク』のファンなら私たちはもう同士?親友?少なくとも友達だからね。かねちーって呼んでいいかなぁ?」


「かねちーでいいぞ。ファン同士は友達だからな。なら俺は青波って呼ぼうかな。いいかな?」

「もちろんだよ、かねちー。」


 ほとんど初対面なはずだが『ミルク』ファンと聞くとそれはもう数多の戦争をともに勝ち抜いた仲間である。

 まるでほとんど話したことがない人とは思えないのであった


『鏑木ミルクのファンの鉄の掟』

 ①ファン同士で配信中はなれ合ってはいけない。

 ②配信が終わったら仲良くしましょう

 ③鳩行為は禁止です…


 などなどいくつかの鉄の掟があるがいくらなんでも距離感を縮めるのが早すぎやしないだろうか

 青波(さん)は人と距離を縮めるのかめちゃくちゃ得意なのだろう。


 そうでないといきなりあだ名で呼び合うのは難しい。


 まさか『ミルク』のファンがこんなにいるなんて思いもしていなかったが、さすがにもっと探せばいるのだろう。

 会えるものならあいたい。誰にも渡さないが。


「これ飲みたいの?私の一口あげよっか?」

「一口もらうよ」


青波(あおなみ)さんが飲んでいた紙パックのイチゴミルクを渡された。



これは美少女との間接キスになっちゃうんじゃないか。


もしかしたら全然気にしてないのかもしれない。

俺たちは仲間だから、当然間接キスなんて気にしない。…いいの?


「これあげる。はいどうぞ。」

「ありがとう。」


 なぜか青波さんが紙パックのいちごミルクを渡してきた。机の真ん中に置かれた。いきなり渡される事は何もしていないんだが、友好のあかしだろうかとりあえず手に取るがなぜ。

 温まってももったいないのでストローを指して飲む、なんだか急に静かになってしまったので困惑していると。


「かねちー受け取ったな。私のいちごミルク、あのね。お願いがあるの。」

 一体何を頼まれるのだろうか、もう飲み始めてしまった以上断ることはできない。簡単な内容ならいいが。


「昨日の夜に『ミルクの新衣装予想ファンアート募集』って書き込んでたでしょ。

 私と一緒にアイデアをだしてほしいの。私うまくかけないから。どうしても採用されたいの。」


 なかなか難しい提案が来た、そもそも人気企画だし採用されるとは限らないんだが。


 ファンアートは誰が書いてもいいし、好きに書くのがいいところなのに。やはり自分で書くべきではないか。


「青波さん、手伝うからさ。ファンアートを何枚も上げれば一個くらい採用されるって」


「それ、紫乃にも言われたよ。自分で考えて描いたほうがいいって。

 二人して私言うこと聞いてくれないんだね。私より絵がうまいのに、ずるい~。」


 足をばたばたさせながら言われても手伝うしかない。手伝いなら喜んで引き受けられるが、いちごみるくの恩もあるのだから。


「とりあえず、近いうちにアイデアをもってくるからそれをみてよ」

「わかった、約束だよ。」


 体を乗り出して目を合わせて約束してしまった。なんだかウキウキで走りさっていったが果たして紫乃になんて紹介されたのか。


 絵も多少かけるが紫乃ほどではないのだが、青波(さん)が横にさっきまでいたから熱量に押し切られたのであった。


「墨田と炭彦はやる?何人でも人手が欲しいんだけど。」

「俺は今回はいいかな部活がいそがしいし、僕もいいや、その子って腹筋が書けないですよね。」


「わかった、一人でやるよ。」






 描く内容が決まれば割と流れ作業のようにいけるが、何を書くかを考えるのが今回は一番大切である。

ネタが多ければ厳選できるのに、あっけなく断られてしまった。


 しかし生まれてこの方金彦は約束は必ず守る者である。冷たいこいつらとは違ってやるのだ。


 数学の授業を受けながらノートのはじっこに絵を描く。最初から本気のイラストはまだ描けないから、デフォルメされた絵をかいて案を練る。


 今回は『ミルク』に似合う服を着させればいいのだからかなり自由度は高いのだ。それすなわち自由であるから力量が試される。


 今回の募集は春の恰好を書かなくてはいけないが何をかけば良いのだろうか。

 やはり春らしい薄手の服にしようか。


「はい、この問題を解いてください、二時半ぐらいになったら答え合わせをはじまるからな」

 時間もできたので服を書いてみる。今回のコンセプトは『ミルク』は白っぽいのでちょっとさわやかな

 雰囲気でいこう。


 十分後。


 とりあえず描いてみたがなんか違う。まずこれは服になっているのか。肩とかおかしい。

初期衣装しかいつも描いていないからか普通のシンプルすぎてなんの面白味のない服装になってしまった。


「はい、ワークの九から十一を解いて、簡単だからな、すぐ答え合わせ行くぞ」


 さらに十分後


 もう一回書いてみたがこれもまた違う、これではただの線である。全然キャラが息をしていない。


 さらに十分後完全に手は止まっている。

 もちろん数学の授業中だからと自分に言い訳をしてみるが、問題自体はとうに解けている。問題を解いてる雰囲気を出せばいいだけである。


 もう何もアイデアが出てこない。野球のユニフォームか?ワンピースか?制服っぽいのを書けばいいのか。そもそも何を書けばいいのかわからなくなっていた。


 気づくと授業は終わっていた。なんなら放課後になっている。夕日が示して知るのは本日はもうおしまいということだけである。

掃除をして帰宅するのだ。今日も部活をサボってしまった。


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