10. 侍女の本当の立場
翌日、私達は無事に王都に着くことが出来た。
ここはまだ王城から離れているけれど、もう城壁は超えていて、あと一時間もしないで着くらしい。
王都に入ると人通りも増えて、馬車はゆっくりと進んでいく。
道行く人々が馬車のために道を空けてくれているとは言っても、早く走らせていたら危険だから、時間がかかってしまうのは仕方ないよね。
それに、ゆっくり走っているお陰で王都の街並みを楽しめるから、私にとっては嬉しいこと。
けれどライアス様は慣れた光景みたいで、景色は見ずに居眠りをしていた。
「そういえば、イリヤさんはどうしてあの家に一人で侍女をされていたのですか?」
「王宮に勤める侍従の中で、料理から護衛まで務まるのが私しか居なかったから、国王陛下から指名されたというのが一番の理由ですが……第三王子殿下を避ける意味もございます。
あのお方は年増の女性が好みのようで、私に含みのある視線を送ってくることが多々あったのです」
「それは大変でしたね……」
初めて聞く衝撃的な内容に、つい表情が引き攣ってしまう。
私は男性から好意を向けられたことが無いからよく分からないけれど、一方的に想いを寄せられるのは辛いことに違いない。
ライアス様も婚約者様が居てもおかしくないはずなのに気配が全く無いから、きっと彼も何か複雑な事情を抱えているのだと思う。
何が出てくるか分からないから、直接聞いたりはしないけれど、気になってしまう。
「エリー様は大変可愛らしいので、第二王子殿下には十分にお気を付けくださいませ。
ライアス様の近くに居れば心配する必要はございませんが、第二王子殿下は可愛らしいご令嬢を狙っておりますので」
「分かりました……」
王城での生活は楽しみだけれど、イリヤ様の言葉を聞いていると不安に塗り替わってしまいそうだ。
ライアス様の近くに居れば大丈夫みたいだけど、それでも何か別の問題が起こりそうで怖い。
もしもライアス様を好んでいるご令嬢が居たら……きっと私は妬まれる。
「ちなみにですが、ライアス様はご令嬢方から『釣などという貧乏くさい王子とは結婚したくない』とよく言われているので、妬みを買う心配はございません。
ライアス様もお相手を探そうとしていないので、このまま二年経つと王太子の座が第二王子殿下に渡ると陛下が決断されています」
「あの、もしかして私の心の声、聞こえていました?」
「いいえ、聞こえておりません。
不安そうにされていましたので、予想しただけでございます」
「それだけで当てるなんて、イリヤさんは本当にすごいです!」
イリヤさんの言葉のお陰で不安も晴れ、すぐそばに見えている王城に入るのが楽しみになってきた。
するとライアス様が目を覚まして、こんなことを口にする。
「もうすぐか?」
「あと十分ほどだと思います」
景色を楽しんでいたから実感が無かったけれど、もう王都に入ってから一時間近くたっていたらしい。
屋敷に居た頃、時間が経つのは永遠に感じられていたのに、ライアス様の家で暮らすようになってからは時間があっという間に過ぎている気がする。
「分かった。
エリシア……エリーは疲れていないか?」
「私は大丈夫です!」
「それなら良かった。
多分だが、着いたらすぐに父上に会うことになる。
そこでエリーと行動している理由を説明することになるが、どこまで話して良いだろうか?」
「こんなことを聞くのは失礼だと思いますけれど、陛下のことはどこまで信頼していいのでしょうか?」
私は陛下と会ったことが無いから、どんな人か分からないうちは出来るだけ隠したい。
けれど隠し事は不信感を募らせてしまうから、陛下が信頼できる人なら全てを明かした方が良いと思う。
ライアス様とイリヤさんが信頼していれば、きっと私も信頼できるようなお方だと思うから、まずはライアス様に問いかけてみた。
「俺は父上のことを全面的に信頼している。
社交界の令嬢と違って趣味も認めてくれているからね。あの家も父上からの贈り物だ」
「そうだったのですね。
私、ずっとライアス様が居場所を無くしたと思っていました……」
「そう思われても無理は無い。
王都の近くの川は水が汚れていて、釣りには適さないから、あの場所で暮らしながら趣味を楽しんでいるだけなのだ。
今日はエリーが一緒だから王家の馬車で移動しているけど、普段は馬二頭連れてきて騎乗で移動している。イリヤも乗馬が出来るからね」
「イリヤさんも乗馬が出来るのですね……!
知れば知るほど頭が上がらなくなってしまいます!」
乗馬は襲撃に遭って逃げる時に必要だからと、私もお父様とお母様からまだ幼い頃に教わった。
おかげで馬車の馬を移動させるときに困らなかったけれど、侍女達の会話を聞いていると普通の令嬢は乗馬なんて出来ないという話だったのよね……。
私の暮らしていた屋敷では、馬の管理は御者さん達が行っていたから、侍女なのに乗馬が出来るイリヤさんが凄い人に見えてしまう。
「頭を下げるのは私の方でございます。エリー様は伯爵家のご令嬢ですが、私は元子爵令嬢ですので」
「元、ということは……今はご結婚されているのですか?」
「ええ。夫は男爵位を賜っているので、男爵夫人という立場でもあります」
「ベルディッシュ男爵は俺の側近だが、とても頼りになる人だ。
正直、あの才能は伯爵でも良いと思っている」
「夫婦でお仕えしているのですね!
イリヤさんは陛下の事、信頼していますか?」
「ええ、当然でございます」
「分かりました。
ライアス様、私の事はすべてお話して大丈夫です」
「分かった。助かるよ」
私が伝えると、ライアス様はいつもの笑顔を浮かべてくれた。
だから私もお礼にと笑顔を作ってみたけれど、上手く出来ているかは分からない。
そんな時、王城に到着したみたいで、馬車が止まった。
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