第10話 聡美の本心を知るには?
翌日の木曜日を迎え、俺と鍵染さんは昼前から浅岡さんの家にお邪魔している。前回と違って彼女のお母さんが在宅中なので、紗矢さんを含む4人が浅岡さんの部屋に集まっている状況だ。
「お兄さん、昨日聡美ちゃんから連絡がありました。ちゃんと話し合ったみたいですね」
「ああ」
「結局、仲が悪くなった理由は何だったの?」
浅岡さんが訊いてくる。
「どうやら、俺の部屋の音漏れが原因らしい」
詳細を言うと恥をかきそうなので、最低限にとどめる。
「音漏れぐらいで仲たがいするかな? 余程の爆音か、エロ動画でも見てた?」
「何にせよ、理由は深谷君だったのは間違いないみたいね」
俺の予想通り、鍵染さんの表情が険しい。
「待ってくれ。聡美にそう言われてから考えてみたんだが、そんな大きい音を出した記憶はないんだ」
「音を出してる本人はそう言うでしょうね。でも聡美さんは、実際に音漏れで困ってたのよ?」
「それはそうだが、何か引っかかるんだ。偶然聞こえたんじゃなくて、意図的に聞いたとしか…」
「つまり聡美ちゃんは盗聴したって事? やっぱ兄妹は似るね~」
おいおい、余計な事言わないでくれ。もし鍵染さんが気にしたら…。
「浅岡さん、今のはどういう意味? まるで深谷君が盗聴した事あるみたいじゃない」
「あっ…」
今更失言に気付いても遅いぞ! どうするんだこの空気。
「深谷君、白状なさい! もし言わなかったら…」
「沙織ちゃん、ここはあたしが言うよ。……昨日、あたし達が入った試着室には盗聴器が仕込まれてるんだよ。深谷くんはそれを聞いたの」
「昨日の…あれが…全部聞かれてた?」
鍵染さんの顔が一瞬で赤くなる。
「あれは店長の方針でね。スタッフは全員知ってるの。ね? 紗矢?」
「うん。わたしも“マコール”でバイトしてるので、よく知ってますよ」
「……」
放心状態の鍵染さん。
「本当に盗聴器だけなのよね!? 盗撮はしてないわよね!?」
「してないしてない! あれはお客さんの本心をこっそり聞くためにあるんだから」
「深谷君、昨日聞いた事はすぐ忘れるのよ! 良いわね!」
「はい…」
そう言わないと何されるかわからないな。
「浅岡さんにあんな事された後に選んだ時は気にならなかったのに、家に帰って冷静になると失敗したと思ったわ。やっぱり露出し過ぎよ、あの水着」
「一応言っとくけど、返品は無理だからね。買った当日じゃないから」
「そんな…」
“マコール”が怪しい店に思えてきた…。
「あの、どんな水着を買ったんですか?」
紗矢さんが興味を示す。
「紗矢さんが着てたビキニより露出してるの。…そうだ、紗矢さんにあげるわ」
そのままどこかに封印よりはマシか…。
「何言ってるんですか? 気持ちが揺らいでいても、選んだ事は間違いないでしょう? 着ないと水着はもちろん、作った人にも失礼です」
「……」
紗矢さんの正論に、鍵染さんはぐうの音も出ない。
「そもそも深谷くんは露出してる水着を着て欲しいんだから、潔く着ようよ。ね? 沙織ちゃん」
「1回は何とか見せないと…」
あの水着姿は1度しか見られないのか? 撮れるとは思えないし、目に焼き付けなければ!
「話が脱線した気がしますが、聡美ちゃんの違和感は残りますね」
「紗矢さんもそう思うか」
どうすればあいつの本心を知る事ができる?
「私は単に、深谷君が大きい音を出しただけだと思うけど…」
「その線も捨てきれないね。だとしても、聡美ちゃんがいないとわからないな~」
各自、現状打破するアイディアを考える。そんな中…。
「そうだ。紗矢、聡美ちゃんを気持ち良くするのはどう?」
「気持ち良くって、私にやった事を聡美さんにもするの!?」
「それは紗矢次第だよ。でも気持ち良くなると本心が出やすいから、“マコール”の試着室に盗聴器がある訳で…」
「深谷君、あの時私が言ったのは本心じゃないからね!!」
「ああ…」
ムキになり過ぎだぞ、鍵染さん。
「姉さん、聡美ちゃんを“マコール”に呼ぶの?」
「それでも良いし、あんたの部屋でも良いんじゃない? 任せるよ」
「わたし的には“マコール”のほうが良いかな。部屋でヤったら誤解されそうだし」
姉妹共にそっちの気はないらしいが、ないのにあれだけの事ができるのは仕事だからか?
「他に思い付かないし、これで良いかな? 深谷くん?」
「構わないが、紗矢さんに迷惑をかけてしまうな…」
「気にしないで下さい。佐下の件でお礼をしてませんから」
こうして、紗矢さんのテクニックで聡美を気持ち良くさせて本心を知る流れになった。
あいつの本心はもちろん知りたい。だがそれ以上に、2人が嫌らしい事をする事実に興奮を覚えてしまう。
俺はダメな兄だ…。そんな風に自虐してしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます