[第4話:Rose]



BOX・FORCE本部にある会議室に、樫間は呼ばれた。

中に入ると、そこにはクリスティーナ・パンダ(以下パンダ)と第3部隊"ローズ"隊長の獅蘭がいた。


「お疲れ様です。お待たせしてすみません。」


樫間は、そう言うと席に着いた。


「樫間、1週間お疲れ様。君たちの頑張りと活躍は聡悟からよく聞いてるよ。」


樫間が着席するなり、パンダは賞賛の意を示した。


「ありがとうございます。」


樫間は、パンダに頭を下げた。


「聡悟から、改めて"箱装ボックス・アーマー"と"自然エネルギー"について説明があったと思う。そして、エネルギー解放のための特訓を経て、実践活用もできたみたいだね。優秀、優秀!」


パンダは感心したように肯いた。


「さて、早速で申し訳ないのだが、次は獅蘭率いる第3部隊"ローズ"で特訓してもらう。」


パンダがそう言うと、樫間の向かいに座る獅蘭は、顔を少し背けて返事をした。


「…宜しく。樫間。」


獅蘭は、人見知りなのか少し聞こえにくい声で言った。


「宜しくお願いします。」


樫間は握手を求めて手を出したが、獅蘭は反応を見せない。


「確か、獅蘭と樫間は同い年だったよな?獅蘭の方がBOX・FORCEでの経験は少し上なのかな?まあ、いずれにせよ"ローズ"は"リリィ"に負けず劣らず強い。学べる事があるはずだ。頑張れよ樫間。よろしく頼むよ獅蘭。」


パンダは言った。

樫間と獅蘭は同い年。先代の殉職後、第1部隊の人員選出に手間取っていた関係で、同期だが隊員歴は獅蘭の方が少し先輩である。


「かしこまりました。」


樫間はハッキリと言った。


「…了解しました…。」


獅蘭は弱気な口調でそう言った。

そして、2人は会議室を後にした。





その2時間後、樫間は獅蘭に指定された待ち合わせ場所へ向かった。


とある高架下。そこが獅蘭が指定したポイントである。


樫間が辿り着くと、そこにはパーカーのフードを被った青年が1人ポツンと立っていた。


「…定刻通り。さすがだ。樫間。」


獅蘭はそう言うと、吸っていた煙草を踏み消した。


「ついてこい。」


そう言うと、獅蘭は樫間を別の場所に連れて行った。



獅蘭に連れられ訪れた場所は、古い廃墟ビルの一室。

そこには、雰囲気に沿わない妙に新しいソファーがあり、獅蘭はそこに腰掛けた。


「座れよ。」


獅蘭に言われ、樫間もそこへ腰掛ける。


「…こんなこと、最初に言うもんでもないかもしれないが、俺が樫間たちに教えてやれるような事はない。」


そう言うと獅蘭は、足を組み直して話を続けた。


「俺たちもお前らと同じで、先代との代替えのタイミングで集められた。いわば第2に比べたら素人集団だ。だから、俺らが結成された時も今のお前らみたいに第2と第4の先輩連中からレクチャーされた。

そのレクチャーを経て、俺ら素人3人衆にはある共通点があった。」


「共通点…?」


樫間が問いかけると、獅蘭は淡々と話し続けた。


「それはな、3人とも自己中って事。そして3人とも、この組織が好きじゃねぇって事だ。」


思いがけない獅蘭の回答に、樫間は驚きを隠せなかった。


「それは一体…。」


「まあ焦るな。」


獅蘭は続けた。


「俺ら3人は、協調性がねぇ。

まず、そもそも俺に隊長としての自覚は微塵もねぇ。隊長?知るかよ。そんなもんは上が勝手に決めた事だ。だから、側から見たら俺は、隊長としての業務を怠る奴だったろうな。

けどな、俺は別にそれでいいと思ってる。俺はお国の犬になる気はないし、他の2人もそうだ。俺たちのスタイルは、自分らに与えられた任務を、自分たちなりに対処する。上から言われたから"NAMELESS"倒すんじゃねぇ。俺らが倒すべき相手だから倒すんだ。そこを勘違いしちゃいけない。」


獅蘭の言葉の一つ一つには、確かな思いの強さを感じた。


「樫間、お前はこの組織をどう思う?決して、望まれて出来た組織でない事はお前にも分かるはずだ。」


獅蘭の問いに、樫間は少し考え答えた。


「…確かに、俺たちが存在する意味がなければ、それは"NAMELESS"のいない平和な世界である。って事になるのかもしれないな…。」


「俺も詳しい事までは知らないが、先代が壊滅的にやられた大戦の事はお前も聞いたことあるはずだ。その大戦は突如発生した。無数の"NAMELESS"が一斉に東京に出現し、殺戮行動を行った。それもその直前まで、先代たちはかなりハードなミッションを行なっていたそうだ。そのタイミングでの"NAMELESS"大量出現。俺は何か、この組織は裏で大きな力が働いているんじゃないか、と考えている。」


獅蘭は考察を語り終えると、徐に煙草を取り出し、火をつけた。


「ふぅーっ…。これはまだ考察に過ぎないが、何事も信じ過ぎると隙が生まれる。信用には加減が必要だ。」


獅蘭が語り終えると、樫間は少し考え話し始めた。


「確かに、俺にその発想はなかった。なぜそれを俺に?」


「俺はあまり人を信じない。だが、不思議とお前の事はそこまで疑うべき人物だと思っていない。お前は素直だ。それはお前の短所でもあり長所でもある。お前となら、この疑いを晴らす事ができるはず。そう思ったからだ。」


獅蘭は、それまで全く見せてこなかった笑みを、初めて樫間に見せた。


「俺はメンバーの2人に、第1の連中には自分の好きなように教えてやれと伝えてある。あの2人がお前のメンバーに何を教えるか俺にはどうでもいい。だが少なくとも、無駄なことは教えてないはずだ。

俺が今、お前に話した事が俺がお前に伝えようと思った全てだ。無駄な戦闘訓練など今は必要ない。後は、今言ったことを知った上で、俺たちの戦い方を見るといい。」


獅蘭はそう言い終わると、まだ半分残る煙草の火を消して立ち上がった。


「さぁ、この後どう考え、どう動くかはお前ら次第だ。俺の僅かな期待を、裏切るんじゃねぇぞ。。」


そう言うと、1枚のメモを渡し、獅蘭は立ち去った。


「俺の個人的な連絡先だ。何かあれば連絡よこせ。」


メモを受け取り、樫間は呟いた。


「…任せろ。お前の期待を越えてみせるよ。


夜明けの風と共に、一筋の光が差し込んだ。




次の日、そこは都心から少し離れた森の中。

指定された場所へ迅雷寺が辿り着くと、1人の少女が刀を持って待っていた。


「ようこそ、迅雷寺 椎菜。私は第3部隊"ローズ"所属、菊野流剣士、菊野 里海きくの さとみよ。」


迅雷寺は驚いた表情で菊野を見た。


「え、もしかして…菊野さんってあの菊野さん?聖堂女学院せいどうじょがくいんの無敗大将と言われた…。」


「無敗?まだあなた、私の事見下してるのね!?あなたに全日本選手権で負けなければ、私は正真正銘の無敗女王になれたのよっ!!」


菊野は険しい顔で、迅雷寺を睨んだ。


「…面白い。今ここで、私が最強女王を証明してあげる!」


そう言うと、突然菊野は刀を構え、迅雷寺へ向かって走り始めた。


「え、ちょ、菊野さん!?」


「覚悟っ!!」


菊野は迅雷寺目掛けて、刀を振る。

間一髪のところで、迅雷寺は"雷虎徹らいこてつ"でそれを防いだ。


「ふっ…こんな攻撃、大した事ないって?やってやろうじゃないのっ!」


そう言うと、菊野は止まる事なく攻撃を続けた。


「ちょ、待って菊野さん!私はあなたと戦いに来たわけじゃ…。」


攻撃を防ぎながら、迅雷寺は言った。


「知ってるわ。私のところに来たのは、BOX・FORCEとしての戦い方を学びに来たんでしょ?だから、教えてあげるわ。私が最強剣士と言うことをっ!」


(話が全く噛み合ってないぃぃ!)


迅雷寺は菊野の狙いに疑問を持ちながら、その攻撃を防いだ。

まずは、彼女と向き合うしかない。と。


「…"菊野流壱の咲きくのりゅういちのさき菊一扇きくいっせん"っ!」


菊野が刀を一線に振ると、突如周囲から花弁が集まり、1本の線状になって迅雷寺へ襲い掛かった。


「…こうなれば…"雷鳴獅子"っ!」


迅雷寺は雷を纏った刀で、その攻撃を打ち消した。


「桂流…そんなもの、菊野の血筋にかかれば!」


空かさず、菊野は迅雷寺に攻撃を仕掛けた。


(彼女の剣術、強い…。)


迅雷寺は攻撃を防ぐ事ができても、攻撃を仕掛ける事ができない。


「"弐の咲、菊葉衝きくばしょう"っ!」


無数の花弁が、菊野の刀と共に迅雷寺へ襲いかかる。


「くっ…。」


迅雷寺は、刀を構えるも全身に傷を負っている。


「…終わりね。"参の咲、菊〆斬きくじめぎり"っ!」


菊野は、刀を地面に突き刺し縦に思いっきり振った。

一線の鋭い蔦が、迅雷寺目掛けて襲いかかる。


(っつ…防げないっ…。)


迅雷寺が攻撃を受けようとした瞬間、何者かが現れ、攻撃を加えた。


「…やれやれ、里ちゃん。落ち着きなって。」


(えっ…誰…?)


すると、菊野の攻撃と別の攻撃がぶつかり、爆発を起こした。


爆風の中から、1人の男が現れた。


「…渉ちゃんが場所教えてくれてよかったぜ。大丈夫?椎ちゃん。」


爆風の勢いで倒れた迅雷寺に、その男は手を差し伸べた。


「あ、ありがとうございます…。」


「なっ!ちょっと邪魔しないでよ!瑛介えいすけさん!」


菊野はその男を見ると、大声で叫んだ。


「…っるさいなぁ。相変わらず刀持つと性格変わるよね。里ちゃんは。」


呆れた顔でその男は菊野を見た。


「里ちゃんがいきなり襲ったみたいでごめんね。俺は第3のメンバー、蓮田 瑛介はすだ えいすけ。よろしくね。」


目が隠れるほど長い前髪と、体格の良い緑色のツナギ姿の男は言った。


「…椎菜、大丈夫?」


遅れて、白峰が現れた。


「渉!どうしてここに?」


「蓮田さんと合流して早々、椎菜と菊野さんの特訓場所を聞かれてさ。そしたら蓮田さんがここに行くって言って…。」


白峰が話すと、蓮田は言った。


「全く、継斗は超能力でも持ってるのかね。里ちゃん、継斗から伝言。これから1週間、俺と椎ちゃん、里ちゃんと渉のペアでミッションを行うよ。この1週間でもし"NAMELESS"が発生したら、この組み合わせで戦うよ。いい?」


菊野は驚いた表情を見せた。


「ええ!?聞いてないよ!私はこの人を倒さないと戦えないっ!!」


迅雷寺を指差しながら、菊野は言った。


「はいはい。わかったからとりあえず刀しまって。」


そう言うと、蓮田は菊野に小さな飛翔体を飛ばした。

それは、菊野の目の前で小爆発した。


「わっ!ちょっと瑛介さん危なっ…。」


すると、その衝撃で菊野の刀は消えて元の箱状に戻った。


爆発の衝撃で、菊野はしゃがみ込んだ。

そこに白峰が駆け寄った。


「だ、大丈夫?菊野さん…。」


そう言い、白峰は菊野に手を差し伸べた。


「…だ、大丈夫…。」


菊野はそう言い顔をあげ、白峰の顔を見るなり、目を丸くした。


「なっ…かっ…かっこい…。」


菊野は急に赤面した。


(何この人!かっこよすぎるんですけど!!)


菊野は顔を両手で隠しながら、興奮を隠せずにいた。


「やれやれ。渉!すまんな。そいつはちょっと厄介だが、可愛がってやってくれ。」


蓮田は続けて迅雷寺に言った。


「とりあえず、椎ちゃんは手当てをしてもらおう。」


そう言うと、蓮田は迅雷寺を連れその場を後にした。


「…よく分かんないけど、俺たちも行くか。」


白峰は菊野に言うも、菊野はそれどころではない様子。


(大丈夫かなぁ…。)


白峰の心に不安が募る…。

が、白峰と菊野もその場を後にした。



こうして、"リコリス"と"ローズ"の1週間が、幕を開けた。



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