16 地下室
地下室は、内側から鍵どころかドアさえ開けられない特殊な構造になっている。実質は牢屋だ。
「とりあえず、しばらくはここで生活してくれ。何か欲しいものがあればできる限り用意する」
地下室に入ると、ミッシュは自室を用意されたことを歓迎の意だと捉えたのか、大はしゃぎで狭い部屋の中を駆けずり回った。折原室長の説明を聞いている様子はない。それを幼い子どもに向けるような目で見ている穂浪の隣で、久我は難しい顔をしながらミッシュを睨んでいた。
AMLのラボを出た後、廊下を歩きながら、逢坂は、
「これからどうするの?」
と、隣の久我に尋ねた。
「どうするも何も、俺らは飛行経路専門研究室の研究員だ。ブループロテクトの管制と防衛計画の立案が仕事だ」
「つまりどういうこと?」
「俺たちにできることは何もない。あの地球外生命体のことはAMLとCILに任せる」
らしくない返答だった。久我は腑に落ちないことがあれば、どんなに細かいことでも自分で調べないと気が済まない性分のはずだ。
「それって本心?」
真夜中の薄暗い廊下。冷たい空気。逢坂の声がポツンと響く。
「いつもだったら、納得できてないことを納得できないまま人に預けないのに」
「仕事を押し付けるなってよく怒るくせに」
「それは、ゴールもゴールに向かう道筋も分かった上で私に押し付けるからよ」
「コケそうになったら助けてやってるだろ」
「答えが分かってるのに教えてくれないなんて、ホントに意地が悪い」
「人が成長するのは成功したまさにそのときではなく、成功に至るまでの過程なんだよ」
久我と言い合いをしながらも、逢坂の頭の中は冷静だった。いつもだったら久我を黙らせる一言を考えることに必死だけど、今の逢坂には、静かな廊下に響く自分の声も久我の声もよく聞こえていた。久我の本心が知りたい。
「私の知ってる久我は、得体の知れない地球外生命体を他部署に預けていられなくて、気になったことを自分で調べる奴だけど……あぁそう、今回は違うのね」
嫌味っぽく言えば反論してくると思った。だけど、久我は何も言わなかった。それが肯定を示すものなのか否定を示すものなのか、自分の本心を隠すために敢えて返事をしないのか、逢坂には分からなかった。
「あのぉ~……俺、もしかしてお邪魔ですか?」
背後から申し訳なさそうな声が聞こえ、逢坂は後ろを振り返った。高身長を縮こませた穂浪が、逢坂と久我の後ろを付いてきていた。いつもうるさいのに全く喋らないから、つい存在を忘れていた。久我は前を向いたまま、「邪魔じゃないですよ」と短く答えた。
その後、深夜にも拘わらず各部署の室長が招集され、臨時の室長会議が開かれた。そこで話し合われた内容は、もちろん地球外生命体・ミッシュについてだ。会議で決まったのは、今後、ミッシュの調査をCILが中心となって進めること、ミッシュの監視はAMLが担当すること、FPLと機体操縦室は、他の地球外生命体がいつ出現しても対処できるよう夜勤制を導入し、夜間も交替で待機することだった。
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