第7話

「ちょっと言い過ぎじゃない? マスターが好意で商品置いてあげてるのに。この店の良さが分からない人は、来なきゃ良いのに」




ガチャンと音を立てて、突然、テーブルに置かれた四角い平皿。


長方形のベビーチーズに枝豆と生ハムを突き立てたナニかは、一体何のつもりだろうか。





「マキさん、好意で置いて貰っているのは僕だから」



「だからって、黙ってたら言いたい放題。うちの店の一体何が悪いって言うわけ」



振り返ると背後に、白いシャツに黒のパンツスーツ姿の金髪の女性が立っていた。


あからさまに私と妹を睨んでいる。




「うちにはうちの看板メニューありますから。ポテサラとか地味でダサいし。居酒屋のテーブルの隅で干からびてそうだし」




そう言いきると彼女は、あからさまに鼻で笑った。


私のポテトサラダはこの目の前の…自称当店の看板メニュー以下か…。


なら差し詰めマキさんとやらが出すこのプレートは、荒野で獰猛な猛禽類に串刺しにされた死肉を彷彿するのだが…。




今さら、何処から突っ込もうか、私は呆れて腹が立たなかった。






やれやれとため息をつきながっら冬野さんに視線を写すと、彼も顔をしかめてこっちを見ている。





さすがに妹が言い過ぎだった。


にしても、妹の表情を横目で確認すると。



綺麗に上がる妹の口角。


不吉な予感しかしなかった。






「お酒と食事が不味い店の良さなんて分かりたくもないわ。笑っちゃう」





そう言い切って、お通しのポテトサラダを食べきる妹には。



正に、『天に唾吐く』って言葉がお前に良く似合うと思った。



私の会社で最恐の存在になんて口をきくんだ。


いっそ羨ましい。


お前は、怖いものがないのか?





妹の『雰囲気が良くてもお酒と食事の悪い店の良さなんて~』てのは正論だとしても、だ。


だがそれを……。


私みたいに、地味で、根暗で、残念ななお前が。



直視できないくらいイケメンで、リア充で、パリピ属性の冬野さんに言うのは、涙物レベルに片腹が痛い。。




何で、本当の事、言っちゃうかな?



惜しげなく。




妹は普段むやみに、喧嘩とかしないし売らないのに、どうしたと言うんだ。


妹を睨みながら、絶妙な重低音で女性スタッフは妹に言った。





「だまれ、デブ」





と。




間違いない、この暴言のセンス、私の会社で最恐の女子社員 マキさんだ。




確かに、私の妹は性格悪いし割とぽちゃで、デブかヤセの二択に置いて、デブだろう。



たまに妹見ていてハムが食べたくなる事もあるし。



だけど、人を、ましてや暴言吐いたにせよ客にデブとはドSな。




マキさん……こと荒巻 美月は、私の同期。



私は短大卒、彼女は大卒採用なので年はマキさんが2つ上。


同期と言っても、学歴と年齢が上の彼女に、当初からマウンティング激しくて、短大の同期の半分が彼女が原因で退職したっけ。



社交的な性格で、会社の飲み会の半分は彼女が仕切っている。



合コンとか、頻繁にやっていて、男性受けも悪くない。



ちょっと意地悪なのが玉に傷で、敵やアンチも多いが、人の事言えないにしても。



彼女は今や、営業一課のチーフをしている。



私は営業二課のサブチーフ。



パワーバランスめっさ悪いんですけど。

私、この人と揉めて、良い事なんて万が一にも一つもないのに。



やめてよ、波風たてたくない……。




頼む、妹よ。


ここは穏便にと、念を込めながらすがる様な目で首を小刻みに左右に振りながら、懇願の目で妹を見つめた。


すると。


それに気づくと、妹はまるで聖母の様に私にほほえんだ。



見ず知らずの人に豚呼ばわりされた後のこの表情。


ちょっと見ない間にこんなにこの子成長したの?




分かってくれたのね、嬉しいぞ。


妹よ。



ありがとう。そう思ったのも束の間。





「お姉ちゃん、この豚しゃべったよ。爆笑!!」






(*_*) ソレ、イチバン アカンヤツナ…







バカーッ 妹のバカー ブハッ。






私はしたたかマキさんの白いブラウスの胸元に、口に含んでいた飲み物で綺麗に放物線の絵を描いた。



彼女の胸に染み込む飲み物の様に私は消えてなくなりたかった。



「ちょっ汚っ!!」


「すっすみません」




私は、思わずバッグからハンカチを差し出したが、要らないわよって突き返されてしまった。

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