第8話 生活の質

 



 うぅっ……無理。スラムの匂いが想像を絶する程に臭い。生ゴミとドブの混ざりあった匂いがする。しかも、ホームレスの方達が道端で寝ていたり、お年寄りの方が尿を漏らしたまま放置してるせいかアンモニアの臭いもかなりする。想像していたスラムと現実のスラムは似て非なるものだ。



「ソフィア姉、大丈夫?」

「うん、ルシアちゃんありがとう。ルシアちゃんはここの臭いとか平気なの?」

「まあ、慣れたと言えば良いのかな……鼻の感覚が麻痺ってるのかもしれない」



 ルシアちゃんもニーナちゃんも良くこんな場所で生活出来るものだな。私にはこの匂いは耐え切れないよ……しかも、治安や衛生環境も凄く悪そうだし……



「レティは平気なの?」

「私は任務でもっと過酷な場所にも赴いたりするので、全然問題ありません」

「まじか」



 ここより酷い所かぁ……うん。想像したくない。うっ……やばい、吐きそう。



「ソフィア姉、もう直ぐだよ! ほら、あそこ!」

「え、何処?」

「ほら、あそこ!」



 まあ、予想はしていた。築100年くらいの家かボロい倉庫の様な家を想像していたのだが、実際はそれよりも凄かった。今思えば、私は日本での生活に恵まれて居たのだな。暖かいご飯にお風呂、屋根のある暖かい空間と清潔なお布団の中で寝る事がどれだけ幸せな事か……私の悩み何て、この子達に比べたらちっぽけなものなのかもしれないな。



「着いた! ここだよ!」

「お、おお……素敵な家だね」



 これは果たして家と呼べるのだろうか? 確かに壁や天井は存在するけど、所々壁が剥がれ落ちていたり、床や天井に沢山の穴が開いている。かろうじて建物と呼べるような木製の建造物? 柱も腐っているし、これは何時崩れてもおかしくないぞ……非常に危険だ。



「ソフィア様……こちらで宿屋を手配致しましょうか?」

「ううん、レティ。せっかくルシアちゃんが案内してくれたのだから、今日はここに泊まりましょう」

「了解致しました……私は外で見張りをしております」

「う、うん。レティのしたいようにして」



 それにしても凄いな。はっきり言って人が住める様な場所じゃない。布団もそこら辺に落ちて居そうな汚れた布を何層にも重ねて敷いているだけだし。こんだけ環境が悪いと何かの病気を患いそうだな。



「何も無い所だけど、ゆっくりして行ってくれ」

「うん♪ ありがとね♪」



 ニーナちゃんは私の腕の中でスヤスヤとお昼寝中だ。まさに天使の寝顔だな♪



「ソフィア姉は、もしかして何処かのお偉いさんなのか?」

「え? 違うよ〜ごく普通のありふれた一般人だよ」

「だって、そんな高そうな服にお付のレティさん……だっけ? ソフィア姉の事をソフィア様とか言うし……」

「あぁ、レティはそういうプレイがきっと大好き何だよ♪ 私の事を様付けして呼んで楽しんでるだけだよ〜」

「そ、そうなのか……?」

「うんうん♪」



 少し踏み込んだ話しとかしても大丈夫だろうか? ルシアちゃん達のご両親はいるのかな?



「ルシアちゃん、差し支えなかったらで良いけど、ルシアちゃんのご両親とかは?」

「うん、パパやママは2年前に魔物に襲われて死んだよ……丁度この街にやって来る道中にね……」

「そ、そっか。酷な事を聞いてごめんね。ルシアちゃん、こっちにおいで」

「お、おう……」



 私はルシアちゃんの頭を優しく撫でた。肩を抱き寄せて震える身体を優しく抱きしめる。もし、両親がご存命だったら、きっとルシアちゃんもニーナちゃんもこんな酷い生活を送る事は無かっただろうに……



「ソフィア姉、暖かい……良い匂いもする」

「そうかな? そうえば、ルシアちゃんは女の子なのにどうして、俺とか男の子みたいな口調で話すの?」

「それはまあ……舐められないようにと言うのが理由かな。このスラム街では、相手に弱みを見せたら付け込まれるからな。俺がニーナのお姉ちゃんだからな。俺かしっかりしないと行けないんだ」



 そんな過酷な環境で過ごして来たのか……ルシアちゃんだって、まだまだ子供だし親が必要なお年頃だと言うのに……私の目にはルシアちゃんが、ニーナちゃんの為に強がって、自分を押し殺して我慢しているようにしか見えなくて見ていて辛い。何とかしてあげれないかな? お節介かもしれないけど、出来る範囲で色々と協力してあげたい……あ、そうだ!



「よし、ニーナちゃんが起きたら一緒にお風呂に入ろう! お風呂とかはあったりする?」

「お風呂? 何だそれは?」

「え、お風呂知らない? 身体や頭を洗ってから湯船には浸からないの?」

「身体を洗う時は、近くの綺麗な川で洗ってるけど……それにお湯をそんな贅沢に使えるのは金持ちか貴族だけだぞ。火の魔石は高価な物だからな」



 まじか……こっちではお風呂も贅沢何だな。毎日入ってたから、そこまでありがたみを感じなかったけど、こうして色々と気付く事もあるんだな。日本人の自殺や幸福度は、先進国の中でも最下位に近い値にいると聞いた事があるが、人間恵まれ過ぎると己の欲望が、どんどんと肥大化して行き更に上の物を欲するようになるから幸福度は低いのかもしれないな。


 もし、私が異世界のスラムに来ていなかったら、こう言った事を考える機会に巡り会えなかったのかもしれない。私もまだまだ学ぶ事が多そうだな。



「でも、お湯で身体を洗ったり、ちゃんとした家に住むのは憧れるよ。俺達何て、明日食べる飯すら確保するのも一苦労だからな……妹のニーナにはひもじい思いをさせたくは無いのだが、現実は厳しいんだ……」

「よし、私がその夢……全部叶えてあげるよ! この街に銭湯みたいな場所はあるかな?」

「え? 戦闘? 誰かと戦うのか!?」

「あぁ、違うよ。銭湯と言うのは、お金を払ってお風呂に入れる場所だよ〜」



 私もお風呂に入って汚れを落としたいからな。暑くて汗もかいてしまったしさっぱりとしたいぞ。私には幸いまだお金が残っている。このお金で生活の基盤を立て直して、この街で仕事を探すのだ!



「あるにはあるけど……俺達みたいなスラムの人間には無縁な場所だぞ? 俺達お金も無いし……」

「良いよ。私が全部出すから♪」

「で、でも……流石にそれは悪いと言うか……」

「拒否権は認めません! 良し、レティも連れて4人で行こう!」



 子供は素直にならなくちゃな! 私が2人を綺麗にしてあげるんだ!



「んにゅ……ふぇ?」

「あ、ニーナちゃんおはよ〜これから皆んなでお風呂に行こうね♪」

「んん……おふろ? ソフィアお姉ちゃん、私お金持ってないの……」

「お金の事は気にしなくて大丈夫だから♪ ね?」



 どうやら遠慮してるみたいだ。ここはやはり強引に連れて行かないと付いて来てくれないかもしれない。それにルシアちゃんとニーナちゃんの服も買ってあげたい。もし、自分に子供が居たらこんな気持ちを抱いていたのかな。私は案外子供が好きなのかもしれない。今まで独身だったから気づかなかったけど、ルシアちゃんとニーナちゃんを見ていると何だかお世話をしたくなってしまうのだ。



「ソフィアお姉ちゃんありがとなの!」

「よしよし〜ニーナちゃんは可愛いね♡」

「ふぇ? 私、可愛い?」

「うんうん♪」

「…………」



 な……!? 何とあざといのだ!? 顔を赤くして私の胸に顔を埋めてしまった。うふふ……可愛いなぁ。



「むぅ……」

「おやおや? ルシアちゃんも私の膝の上に座る?」

「お、俺はやめとくぞ! 全然、これっぽちも嬉しく何か無いし! だって、それは……ごにょごにょ」



 ルシアちゃんは少しツンデレ属性が混じっているかもしれないね。これはこれで良さみが深いぞ……ぐふふ。おっと、いかん。私とした事が大人気ないな。でも、何故か無意識に顔がニヤけてしまうのだ……



「ソフィア様」

「どうした変態……あっ」



 反射的に反応してしまった。これはまずい、レティに謝らなければ……変態と呼ぶのは心の中だけにしてたつもりだったけど。



「…………」

「あ、あのね。レティ? これは違うの……言葉のあやというか……思わずポロリと」



 あ、レティの肩がプルプルと震えている。怒らせちゃったかな? 



「はい! 私は変態で御座います!」

「え、えと……レティ、何か嬉しそうだね」

「だって、姫様が初めて私を罵倒して下さったのですよ!? 私、実はMも行ける口なのです!」

「えぇ……」

「そして、この後私はソフィア様に調教される流れ何ですよね?……首輪を繋がれて、ソフィア様に【レティ、お前の穴は私がマーキングしてやるから尻を出せ】と強引に私に迫って、服やパンツを脱がされて……激しいプレイを強要させられて、孕まされるヤツですね!?」

「もう良いから! レティは少し黙ろうね? ルシアちゃんやニーナちゃんが居る前で……本当に貴方と言う人は……」



 レティと一緒にお風呂に入るとろくな事にならなさそうだから、私とニーナちゃん、ルシアちゃんの達3人だけで入るとしましょう。100歩譲って、もし一緒に入るとするならば、縄でぐるぐる巻きにして猿轡でも噛ませておこう。純粋なニーナちゃんやルシアちゃんの心が汚れない為にもね。2人の教育的観点から見てもレティの存在は危険だ。



「ソフィア様、冗談ですよ。私はこう見えてもまともですよ? 私にはソフィア様を守る責務があります」

「怪しいな……」

「だから、私もお風呂に一緒に入ります。何かあっては遅いのです! 半径10cmくらいの位置に常に私はおりますので!」

「それ近すぎないか!?」



 仕方無い……確かにレティだけ仲間外れにするのは可哀想だよね。とりあえずみんなを連れてお風呂へとレッツゴーなのだ!

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