異世界ってこう、もうちょっと――あるじゃん?
「だから何度言ったらわかるんだ。ここはアインマラハで城がある街がフラー。で、この国がある大陸の名前がクータオだ」
「あいんまらは、ふらー、くーたお……うーん」
やっぱ何度聞いてもナットクできない。
(ここ異世界だよね? そしたらもっとヨーロッパヨーロッパしてるはずじゃない? でもヨーロッパっぽい名前じゃないし、ってかクータオってなんかチューゴクっぽい響きじゃん)
ってことはここチューゴク? なんて考えても、周囲には森と草原と人が作った道しかないのでなーんにもわからない。地面はきめ細やかな土でできてて、そこには何かが転がってったような二本の筋がある。たぶん馬車というヤツなのでは?
(さすがに車はないよねぇイメージぶち壊しだもん)
「これから行くとこはどんな名前なの?」
「ああいや、そこには名前はない」
「なんで? 村なのに?」
「村とは言ったが――まあ便宜的な言いまわしだ。このヘンの商人たちが中継地点として集まってるうちに、いつの間にかできた集落みたいな場所だ」
「しゅーらく?」
「なんて言えばいーかなぁ……ほら、たとえば離れた場所にこう、町や村があるとするだろ?」
オジサンは立ち止まって、木の棒を使い地面になにか書き始めた。点がみっつ、そしてその間を線で結んでいく。
「こことここ、んでここにも町があったとする。で、この間には道があるよな。途中は森や山なんかがあるから直線ってワケにもいかねーんで、場合によっちゃ日をまたぐこともある。だから頻繁に行き来する商人はキケンの少ない場所を覚えといて、そこでひと休みすることもあるわけだ」
「ふむふむ」
オジサンの言ってることはんぶんくらい理解してないけど、まあはんぶんくらい理解してるからだいじょーぶでしょ。
「そうやって休んでる商人が増えていくと、同じようにひと休みする人も増えていくから自然に人が集まっていく。そうやって自然にできたから集落のような形になるわけだ」
「へーそうなんだ」
「だから村ってよか商人たちが情報収集する場だったり商人同士の売買、もしくはそういう場を狙ってモノや金を持ち込んでくるヤツが集まる。おれたちは後者のほうだが、おまえさんは一文無しなんだよなぁ」
「えへへ」
「ったく。冒険者が路銀も武器もナシでどうやって生きてくんだよ……ヘンテコな服着てるし」
言って、オジサンはわたしの服装をまじまじと見つめた。べつにフツーのスラックスとスウェットなんだけどね。
「え、なにかへん?」
「ヘンっていうか見ない服装だな。町の連中が着てるそれと似つかわくもないが、異国のモノか?」
「うん。やわらかくてけっこー動きやすいんだよ!」
でも服着るとあついんだよねー……ん?
(服着なきゃダメだけど着ると暑くなるし、どうすればいいの?)
「そろそろ見えてきたぞ」
オジサンの視線の先、道をずーっと歩いた先にちょこっとだけ馬車の屋根っぽいものが見えた。
「馬車がある」
「なに当たり前のこと言ってるんだ? まあいい。今回はいいエモノを持ってきたからいい稼ぎになるだろうな。そのついでに買い物を済ませるが、なにかほしいものあるか?」
「ふぇ?」
「いやほら、おまえさんのおかげでアナグマを仕留められただろ。ほんのお礼だ」
「ありがと! じゃあねじゃあね――おいしいものたべたい!」
「おまえはそればっかだなぁ……町じゃねーから適当な干し肉しかないだろうが、まあ考えとくよ」
「やった! んじゃ急ごう!」
「って、おい!」
わたしはオジサンの手をとって走り出し、オジサンは赤面しつつ背中に背負った荷物を落とさないように走り出した。
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