第13話「誕生日」と「次は…」
8月7日。私の誕生日――。
今日は純玲ちゃんが丸一日空けてくれて、お祝いしてくれることになっている。
押しが強すぎてお願いしちゃったけれど、誕生日プレゼントまで買ってもらって少しだけ申し訳ない。
誰かと一緒に誕生日を過ごすなんて一年ぶりだし、良い一日になるといいな――。
「………あぁ」
「……なっ」
純玲ちゃんと2人でのんびり楽しい誕生日……と思っていたのに、まさか大雨になるなんて欠片も予想もしてなかった。
「あ、あはは…せっかくお出かけも考えてたのにね?」
「仕方ないですよ。これもありますし、今日はここでまったりしましょう」
肩を落とす私に、純玲ちゃんが元気づけようと大きな紙袋を指差す。彼女なりにお祝いしようとしてくれていて心が温かくなる。
「それじゃあ気を取り直してご飯作ろっか」
「はい、今日はなにを作りますか?」
そう言う純玲ちゃんの姿を見ていると、無いはずの耳と尻尾があるような気がしてくる。動物は飼ったことがないからわからないけど、撫でたりするの気持ちいいのかな?
「ふふ、今日はパスタを作ります!」
あんまりパーティー感はないけれど、付け合わせにあと何品か作るしケーキもあるからそんなに多くなりすぎないように――。
今日のメインは魚介をたっぷり使ったトマトパスタ。あとは付け合わせでスープとサラダを添えればいい感じ🎶
とりあえず、パスタを茹でて…その間にみじん切りにしたにんにくをオリーブオイルで炒めて…。
「うん、良い匂い」
エビを加えて軽く火を通して、トマトの水煮を入れて潰しながら煮詰める。
小気味よく調理を進めていると、純玲ちゃんがすぐ横まで近寄ってくる。待ちきれなくなっちゃったかな?可愛い。
「いつも思ってましたけど小日向さんって楽しそうに料理作りますよね」
「ん〜?そうかな?全然意識したことないや…でも楽しいよ」
「ふうん…」
ふつふつするフライパンを覗き込みながら、興味津々な純玲ちゃん。なんか私、お母さんになったみたい。
「今度何か作り方教えよっか?」
「いいんですか!?」
「もちろん、最初は簡単なのからだけど…」
あ……でも料理を教えたら純玲ちゃんと夜ご飯を一緒にする理由が無くなっちゃうかも…。
それはちょっぴり寂しいな――。なんて言ったら困らせちゃうかな?
「小日向さん!凄いぐつぐつ言ってますよ!?」
「え?あっ、ほんとだ!?火を弱めなきゃ…」
ふぅ…何とか焦げずに済んだ。変なこと考えてちゃダメだよ私。えと…次は――。
「ホタテの貝柱と生クリームを加えて、煮詰まったらコンソメ、塩、黒胡椒で味を整えて…」
「………」
「茹で上がったパスタを絡めたら…完成!」
「おぉ…!」
誕生日のスペシャルメニューが完成したところで2人分のお皿に盛って机に並べる。さすがにこの量だと狭く感じるな。
「今度もっとおっきいサイズの机買わなくっちゃ」
「えっ?」
「ん〜?これからも純玲ちゃんとご飯することあるだろうし、純玲ちゃんの誕生日の時も豪華にできるし」
「私の…誕生日…」
せっかく私のお祝いもしてくれるんだから、私も純玲ちゃんの誕生日も祝ってあげなくちゃね。
「あぁ、でも誕生日は親御さんのとこに帰ったりするのかな?」
「それは…大丈夫です。まさか私のまで祝ってもらえるとは思わなかったです」
「……?もちろん、私の誕生日を祝ってくれるんだもん。お返ししなきゃね」
今日は私の食べたいもの作ったから、今度は純玲ちゃんの食べたいもの作って盛大に祝ってそれからプレゼントも――。
「それじゃあ、早く食べよう」
「はい、いただきます」
「いただきます」
改めて思い返すと、誕生日を一緒に過ごしてこれからも何かしらのイベント事の時にもこうやってご飯食べてまったり出来たら楽しいだろうな。
…って言っても純玲ちゃんには家族がいるし、こんな独り身の相手はいつまでもしてくれないか。
「ん…!このパスタ凄く美味しいです!」
「そう?そう言ってもらえて嬉しいよ」
それからご飯を食べ終えた私たちはトランプをしたり、映画鑑賞したり、充実した時間を二人で過ごした。
「美味しいもの食べて、遊んで、映画観て…本当に楽しい誕生日だったよ。ありがとうね」
「私は別に何も…ただ一緒にご飯食べただけです」
そう言いつつも、柔らかい顔を私に向ける純玲ちゃん。こんなに優しい子に出逢わせてもらえて親御さんには足を向けて寝られないな。
純玲ちゃんの誕生日の時も今の私くらい喜んでもらえるようにしてあげたい。
「そういえば、純玲ちゃんの誕生日っていつ頃なの?」
「……9月13日、らしいです」
「……?そっか。何か欲しいものとかある?」
私の問い掛けに純玲ちゃんの応えはしばらく返ってこなかった。多分悩んでるのかな?もしかして私からのプレゼントが嫌だったりしたかな?
「ごめんなさい。今は欲しいもの浮かばないのでまた決まったら教えますね」
「う、うん」
「そうだ。ケーキ食べましょう?」
堰を切ったように立ち上がって冷蔵庫の方へ行ってしまった。
顔は笑っていたけれど、最初に会った時…いや、それよりももっと暗い顔をしていた気がする。
「……あ、足元気をつけてね」
私、何か気を悪くすること言っちゃったのかな?せっかく私のために色々してくれてたのに、私のせいで嫌な思いで終わってほしくない。
「……小日向さん?どうかしましたか?ケーキ食べないんですか?」
「あっ…そ、そうだね。食べよ食べよ」
純玲ちゃんの誕生日プレゼントの話をしてから様子が変わったから多分それが原因のはず……。
「んん…!このケーキ美味し…」
「奮発して美味しいとこのお店で買ったもんね。そうだ。私のも一口食べる?」
「え?いいんですか?」
「うん。だから…純玲ちゃんのも一口ちょうだい?」
まだ口の中にさっき食べたケーキの甘みが残ってる。だけどそれだけじゃない感覚もあって、それは多分純玲ちゃんが傍にいてくれるおかげだ。
「星、綺麗ですね。現実でも見れたらいいのに」
いま私たちは床に寝そべって、純玲ちゃんがプレゼントで買ってくれたスタープロジェクターで星空を観ている。
「夜空に星が見えることなんて滅多にないからね」
「何かの本で見たことがあります。街灯とか雲とかの影響で私たちの目が捉えられないって…」
「そうなんだ。現実でも見てみたい気持ちはあるけど…今はこの星たちで満足かな?」
本物も観られたらそれはそれで感動的だろうけれど、今は純玲ちゃんと観られるこの景色が何よりも綺麗で私の心を満たしてくれる。
ただの思いつきで貰ったプレゼントだけど、映り方だったりを調べて買ってくれたことは私のパソコンの履歴を見てすぐわかった。
純玲ちゃんはそういう子だ。こんな私のために、好きでやっていることに“ありがとう”の気持ちを込めてこんな素敵な贈り物をくれる。
私にはもったいないくらい優しい子だ。だからこそちゃんと謝ろう。
「純玲ちゃん、さっきはごめんね?」
「……何がですか?」
そう呟く声色はとても柔らかいものだった。
「その、さっき純玲ちゃんの欲しいプレゼント聞いて…それで」
「……」
「ちょっとだけ…悲しそうな顔してて、私からのプレゼント嫌だったかなって…」
「そんなことないです!」
私が言い終わる前に、遮るように叫び体を起こして見つめてくる。星を背にした純玲ちゃんはどうしようもなく綺麗だった。
「私、両親から誕生日プレゼントとか…貰ったことなくって」
「えっ……ほんとに!?」
「多分私の出来が悪いから…しょうがないんですけど。ははっ」
物凄く乾いた笑い方。さっきと同じだ――。
「だから、最近仲良くなった小日向さんから貰うのは、ちょっと申し訳なくって…」
「……そんなことない!」
「えっ…」
「純玲ちゃんの家庭のことは…分からないけれど、私は純玲ちゃんはとっても優しい子だって思ってるから」
「………」
「私のご飯を美味しそうに食べてくれて…気にしなくてもいいのにこうやってプレゼントをくれて…」
そんな子が…出来が悪いわけなんてないよ!
「……そんなこと言われたら、貰わないわけにはいきませんね」
「やった!」
「あ、でも欲しいものが浮かばないのはホントなので考えさせてくださいね」
「もちろん!」
やっと笑顔になってくれて良かった。ちょっと前までそんな歳だった私が言うのもなんだけれどまだまだ楽しいことがしたい歳だし。
それに辛そうな顔してるより明るい顔してた方が幸せもいっぱい感じられていいよね。
「「あ、流れ星!」」
部屋の天井に流れた輝きに私たちは顔を見合わせ笑い合う。 これからも純玲ちゃんとこうやって楽しい時間を共有出来たらいいな。
「そうだ。今日泊まって行かない?」
「え、いいんですか?布団……」
「ふふん、そう言うかなって思って布団買っておいたんだ」
「おぉ、そうなんですか」
「だからさ、お風呂一緒に入らない?」
カポーン…
入ってみて思ったけれど、20歳も行かない子とお風呂って何かしらの罪に問われそうな気がしてきた。
純玲ちゃんは何食わぬ顔でOKしてくれたけど、良かったのかな?
「やっぱりさすがに2人で入ると狭いですね」
「だね〜。でもこうしてるとなんか家族で一緒にお風呂に入ってるみたいでちょっぴり楽しいかも」
家族か。お父さんとお母さんとお風呂に入ったことがないから少しだけ憧れる。
私の中の2人の記憶は2人が遺したビデオの中だけだから、時々生きてたらこうだったのかな?なんて感傷に浸ることがよくある。
「それじゃあ私は今、小日向さんの妹ですね?」
「え?」
「本当の家族ではないですけど、1ヶ月近く過ごして楽しい思い出も作りましたし…」
純玲ちゃんの方からそんなこと言われるなんて思わなくて少し驚いてしまった。本当にどこまで優しい子なんだろう。
「あ…や、なんか恥ずかしいこと言ってるな私。忘れてください」
「やだ。忘れない」
「えっ!?なんでですか!?」
「だって嬉しかったんだもん。天涯孤独の私に良くしてくれて、頭が上がらないよ」
「……じゃあ、もう少しだけ妹しますか?」
「……いいの?」
コクンと頷くと、背を向けて私の身体にすっぽりと収まる。細くて白い肌が私の肌に触れ合うとなんだか不思議な気持ちが芽生えてきた。
「重くないですか?」
「重くないよ。むしろ、嬉しい」
「……?嬉しい、ですか?」
「うん、こうやって誰かの温もりを感じるの久しぶりだから。傍にいてくれてありがとう」
10分くらいそうして体を寄せ合い、お風呂から上がって布団に入り天井を見上げる。
いつもはしない私のとは違うモゾモゾという音が純玲ちゃんの存在を感じさせて心が満たされる感覚がする。
「なんだかあっという間な1日だった気がする。こういう時くらい時間伸びてくれたらいいのになぁ」
「楽しんでもらえましたかね?できる限りの事はしたんですけど…」
「うん。これ以上ないってくらい…今日はありがとうね」
今日という日が終わってしまうのが凄くもどかしいけれど、明日からも純玲ちゃんとご飯を食べられることを思うとこのもどかしさも悪くないと思える。
お父さん、お母さん…松木さん。私は幸せだよ。
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