第1章・Smile 5ー②

ベアトリスから紹介された職人達は、総勢二十人にもなり、腕前も超一級の専門家ばかりだった。

実家から連れて来たベンジーも、舌を巻く程の仕事ぶりで、ヴィンスのデザイン画も、あれよあれよという間に仕上がっていく。

ヴィンスの店である『ブティック・ヴィンセント』が開店する時には、とても急ごしらえとは思えない程に、店内にはドレスやフォーマルウェアが飾られ、小物や雑貨までも並べられていた。


そして、まるでその開店を見計らったかのように、ラリーから祝いの花が届く。

それは目を瞠るような大きな花束で、騎士団の事務方を通じて贈られた。

共にあったカードには、『おめでとう』という言葉の後に、『戦争はもうじき終わるから、待っていて欲しい』と書かれてあった。


出陣してから十年、こんな花を贈れる程には、ラリーもそれなりの地位になっているのだろう。

攻め込んで来た隣国のケンドーン国は、ここ最近で一気に勢力が衰え、結果的にはこの戦争で、より国内情勢を悪化させてしまった。

正に『無駄な戦い』でしかなかった。


ウルスラ王国は、それなりの数の騎士を失いはしたが、最終的にはケンドーン国を倒し、属国として存続させるに至る。

何の資源もなく、痩せ細った土地と飢えた人々しか残されてはいない国では、勝利したにしても、ウルスラ王国も手放しでは喜べなかった。

これからケンドーン国へ有識者を派遣し、農業を活性化させ、隅々にまで物資が行き渡るように流通を復活させ、人々に平常なる生活を戻すべく導かねばならない。

この戦争は、誰得にもならない不毛な戦いでしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る