北へ
神戸から北を目指すツーリングに使うルートだけど、今回の目的地なら六甲山トンネルから六甲北有料道路で三田を目指すのを良くつかう。通行料も三田まで走って四十円だし、六甲山トンネルを越えるのもモンキーでは手強いところもあるけど、時間を稼ぐには有用なルートではある。
「それはわかるのですが、あのルートは不満があります」
まあな。六甲山トンネル越えもネックだけど六甲北有料道路もなかなかなんだよな。たしかに快走は出来るけど、あそこもクルマの流れが速いところでモンキーには辛いところが正直ある。
「軽トラにも勝てないのがモンキーです」
どうしたって非力なんだよな。走行車線の流れに乗るだけで能力的には限界になる。
「そこもありますが、六甲北有料道路が終わってからの方が問題です」
そっちもあるか。ウッディタウンにそのまま入って国道一七六号に入れるのだけど、
「あれは快走ルートではありません」
時間帯にもよるのだけど三田市内とか、篠山口駅付近とか、丹波市を抜けるのにウンザリさせられることはある。
「バイク乗りが楽しいルートを探すべきです」
美玖の言う通りだよ。クルマでファミリードライブに行くのなら一択みたいなルートだけど、こっちはツーリングだ。工夫が足りなかったのはたしかだ。美玖と二人で、マップで新たなルートを検討した。
机上で見つけたルートに今日はトライだ。そのために六甲山トンネルではなく新神戸トンネル使う。新神戸トンネルもモンキーには流れが速すぎる道だけど、とにかく六甲山を越えないと始まらないのが神戸に住むバイク乗りのツーリングだ。やっと抜けたか、
「ここからはバイク乗りの道です」
岩谷峠から淡河に抜け、さらに直進する。この道は吉川ICに通じてるのだけど、その手前の信号を右に進む。そのまま進めば市之瀬から三田だけど、途中で左に入り吉川病院の裏手を抜けて行く。
「流花と立杭を目指したルートです」
あの時は突き当りを右に曲がったけど今日は直進だ。突き当りを直進とは妙な言い方だけど、道路案内は左右しかない交差点なんだ。
「目指せ大川瀬ダムです」
バイク乗りにはダムマニアも多い気がする。ダムマニアまで行かなくてもツーリングの目的地をダムとかダム湖にしているのは少なくない。ダム湖ならレークサイドロードを楽しめるのあるし、
「ダムもピンキリですが、それなりの施設があったり、なにより空いてるところが多いです」
美玖の言うそれなりの施設とは公園とか、展望台の意味もあるけど、現実的にはトイレと自販機ぐらいかな。それさえないところもいくらでもあるものな。空いているのと施設整備は常に相反するのは世の定めだ。
美玖とプライベートで初めて会った平荘湖の駐車場もなんにもなかったものな。あの時だけど美玖も湖畔に行ったよな。
「ええ、見せられたのはエロDVDのゴミの山」
やっぱり見たのか。
「あんなものを見せられたら興ざめなので、すぐに古墳の方に行きました」
そんなものが駐車場の西側にあるとは知らなかった。だからボクと駐車場まで出会わなかったのか。
「古墳と言っても小さいですから、もう出ようと思ったらあのエンジントラブルです。なんて厄日だと思ったものです」
そう思うよな。そこで出会ったのだよな。
「あの瞬間から美玖の運命は変わりました。見るからに気が乗らない剛紀をランチに引きずり込むのに熱中したのが懐かしいです」
今から思えばそうだった。あの出会いってドラマチックとは言いにくいかな。
「今に至る日が始まる最高にロマンチックな記念日です」
ボクもそうなった。ただ道は一車線半の田舎道。バイク乗りならなんてことはない道だけど、この手の道はどこかで行き止まりになることも多いのがネックかな。マップの上では走れても、
「行ってみたら通行止めもしばしばあります」
幹線道路ならそういう情報はすぐに広まるし、迂回路とかも確保されるのだけど、マイナー道路なら通行止めされてるだけもいくらでもある。
「道も荒れてる時があります」
あるあるだ。落ち葉どころか石とかが転がっていたり、路面もガタガタなんてのもある。
「木が倒れて通れないもありました」
道は田んぼ間の道から林道ぽい感じに変わってきた。今日は大川瀬ダムを目指してるからダムの高さまで登るのはわかるけど、うん、あの建物は、
「ダムの管理事務所です」
そう書いてあるな。ならばこの辺が大川瀬ダムのはずだけど見えないな。
「林の間にダム湖が見えます」
あれ池じゃないのか。完全に山の中だけど家が建っているのに感心するな。距離で言えば三田市街だって遠いとは言えないけど、住むには不便そうなんだよな。
「まだ新しそうですからアウトドアが好きな人かもしれません。さすがに別荘には見えません」
どう見ても住んでそうだものな。
「この辺なんか住宅地として開発された感じがします」
土地は安いだろうけど、そこまでして一軒家に住みたいのかな。
「人の好みですが美玖には無理です」
ボクもだ。住宅地みたいなところを過ぎると、あれって梅か。
「感じとして梅園です。フェンスで囲ってあります」
咲いていたら綺麗だろうけど、梅見はバイクじゃ辛いな。
「見に行くには寒すぎます」
梅園を過ぎてしばらく行くと、ここは右に曲がって橋を渡るのが正解みたいだな。橋の途中でバイクを停めて、
「ここが大川瀬ダムのビュースポットで良さそうです」
ここまで展望スポットどころか、ダム湖すら林の間にチラチラとしか見なかったものな。でもこれはこれで悪くない。そうだな烏が原の貯水池ぐらい、
「それマイナー過ぎますよ、せめて布引の貯水池にして下さい」
橋を渡ると三叉路だけどなんにも道路案内がないな。
「左にします」
賛成。すぐに突き当たったけど、
「右に曲がりましょう」
そんな感じがする。この辺は農村で農道っぽい道だけど、また突き当たるぞ。この道はちゃんとセンターラインもあって二車線あるけど、
「橋を渡ったところにあった三叉路をどちらに曲がってもこの道に出た気がします」
ボクもそんな気がする。だったら左だな。この道を選んだのは今のところ正解で良さそうだ。狭くてワインディングもそれなりにあったけど、あれぐらいならバイク乗りならむしろ好きな方の道になる。とにかく空いてるのが良かった。
「一台もクルマに出会いませんでした」
曲がって入った道は二車線だ。こっちもガラガラだな。谷間の農村って感じだけど、それなりに左右の視界が開けていて走っていて気持ちが良いな。だいたいだけど北に向かっているはずだけど、
「国道一七六号の西側になるはずです」
三田の西側ぐらいかな。北に、北に伸びてる道をひた走りだ。
「最初の難関は突破しました」
今日のスケジュールは余裕をもって組んであるから、ダメだったら引き返せばなんとかなるけど、すんなり行けた方が気持ちも良いもの。
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