【伝説級】★★★六つ星★★★レアスキル『ダウジング』

いぬがみとうま

魔法剣士大会編

第一話 え? 僕が六つ星のユニークスキルを授かる?

「剣技だ! 一〇歳になるまでは、とにかく剣技を磨け!」


 これが、父上の口癖だ。

 西の領地を統治する、四大公爵家のホワイトス家には、二人の息子がいる。

 長男は、僕ライカ。そして、一つ年下の弟フィン。


 今日も、屋敷の中庭で父上との剣の修練に励む僕とフィンがいる。

 父上の振り上げた木剣は、フィンの頭上に振り下ろされる。


 防御しようと木剣を構えるが、九歳のフィンの腕力では耐えきれず父上の剣圧で、潰れたカエルのように地面に転がる。


「フィン、立て! この程度、防げぬようでどうする。次だ! 来いライカ!」

「はい! 父上」


 僕が両手に木剣を持ち父上と対峙すると、先程フィンを潰した剣圧が襲いかかる。

 僕は両の剣を水平に構えると、振り下ろされる剣撃を受け流し地面を叩いた父上の剣を踏みつける。


 剣を引き抜こうとする前に、僕は身体を回転させて父上の頭部に水平斬りを繰り出した。


「取ったぁぁ!」


 しかし、僕の剣は空を切る。

 父上は僕に踏みつけられた剣を引き抜くのではなく、手を離しいとも簡単にかわしてみせた。


「はぁ、今日もダメだ。父上には敵いません……」

「いや、すごいぞライカ! 私は剣を手放さなければやられていたし、剣を失ってしまった。お前の勝ちだ。天才だよ、それでこそホワイトス家の跡取りだ!」


 父上にひどくやられて砂まみれで座り込み泣いているフィンに、僕は手を差し伸べる。


「フィン。大丈夫だよ。お前ならすぐ強くなるさ」

「兄様、……グスン」


 ◇◇◇


 長いテーブルの先には父上が座り、母上とフィンの正面には僕が座る。

 これがホワイトス家のいつもの席順だ。


 テーブルに運ばれる料理はこの屋敷の料理長が腕によりをかけたものばかりで、僕は料理長の料理が好きだった。

 

「ライカ。来月はいよいよ神託だな」

「はい。父上」

「レアスキルの四つ星。いや、お前ならば五つ星も夢ではないな」

「五つ星なんて、先々代の国王様ではないですか。僕などが……」

 

 ――三つ星でも、凄いといわれているのに。


 「お前の剣の腕は、既に私を越えているのだ。きっと当代一の魔法剣士になるはずだ」

 

 一〇歳になる歳の子は六月、王都にある聖堂へ集まり、神託を受けるのだ。

 軍事国家であるこの国の者は皆、魔法剣を操る。


 神託で授けられた魔法を剣に付与することで絶大な力を発揮し、他国を圧倒してきた歴史がある。


 火、水、土、風などの属性である通常スキル。

 癒やしや聖、闇と言った属性のレアスキル。

 かつて、この国を建国した大王様は、未知のスキルであるユニークスキルを授かったそうだ。


 ちなみに、父上は水属性の上位、氷の神託を授かった、ランクは四つ星だ。

 果たして、僕は神託で何を授かるのか……。期待と不安が入り交じる。


 ◇◇◇

 

「いよいよ神託ね、母はライカの良い結果を待っていますよ」

「はい。母上、行ってまいります」

「ライカ、行くぞ、早く馬車に乗りなさい」

「兄様、良い結果をお祈りしております」

「ああ、頑張ってくるよ。母上の言う事を良く聞いて、いい子に待っているんだぞ」


 僕と父上は王都の神殿へと向かう。途中、北の領地からの道と合流する旅路だったが、そこで普段ではあり得ないことが起こった。


 この国には、四聖獣の加護があり、東西南北、それらの四聖獣が土地を守っているという言い伝えがある。僕の住む屋敷の入口に、でかでかと飾られている、『白虎』の絵画もその一柱である。


 その加護のお陰で、国は安寧であり、魔獣も寄ってこないのであった。いるはずもない魔物が僕の乗る馬車の前を走る馬車に襲いかかっている。

 

「きゃぁぁぁぁぁ」


 少女の叫び声が聞こえ、馬車の窓から顔を出すと、魔物によって、馬を殺された馬車の周りに、大きな狼の形をした魔獣が取り囲んでいる。

 

「父上! 魔獣です。前の馬車が……」

「なぜ魔獣が……ありえん」


 僕は、馬車を飛び降りると、襲われている馬車から年老いた執事らしき人が、剣を構えながら出てくるのが見えた。


 老執事は剣を構えると、柄を握る手が赤く光りだす。

 その光は刀身へと移っていき、炎を纏い始めた。


 ――魔法剣……火の属性か!


 老執事の魔法剣がゴォォっと音を立てて、狼型の魔獣に振り下ろされる。しかし、魔獣は軽く跳躍し、炎の魔法剣は空気を焼いただけであった。


 隙だらけの老執事に数匹の魔獣が襲いかかり、腕や肩に咬み付く。

 咬み付いたまま首を左右に振る魔獣の牙は、老執事の腕の肉を引き裂いていくのだった。


「ぐあぁぁ」


 苦悶の表情を浮かべる老執事の手から離れた剣は、その赤い光を失いただの剣となり地面に転がっている。


 ――このままでは、あの人が死んでしまう。


 僕は双剣を鞘から抜き、老執事に咬み付く二匹の魔獣に斬りかかる。斬撃を受けた魔獣は吹き飛ぶ。


 ――き、斬れない……魔獣というのはこんなに硬いものなのか。


 もう一匹に、二本の剣で突きを食らわす。刃は魔獣の毛皮を少しだけ貫き、肉に刺さり込む。

 致命傷を与えることができなかったが、二匹の魔獣を老執事から引き剥がすことだけはできた。


 僕に警戒する魔獣が、距離を取り牙を向きながら威嚇している。

 魔獣相手に僕の剣技は通用しなそうだ。膝が震える。吸う息も、吐く息も震えている。

 僕は恐怖しているのだ。


 その瞬間、僕の背後から冷たい風が吹き抜ける。

 僕の横をすり抜ける氷の刃が、八匹いた魔獣に刺さり、すべてが一瞬で絶命する。


 後ろを振り向くと、氷の魔法剣を放った父上が立っていた。


 ――す、すごい……これが四つ星の魔法剣か。


「大丈夫か、ライカ」

「はい!」

「お前は、本当に凄いな。魔法剣なしで魔獣相手に……末恐ろしい子だ」

「それより、父上! けが人を」


 父上が、怪我をした老執事の手当をしていると、馬車から少女が降りてきた。

 綺麗な、深い緑色の髪をした少女が、震えながら口を開く。


「あ、ありがとうございます。助かりました。当家の執事の容態は……」

「ああ、命に別状はないが、この腕は……もう剣を握ることはできないだろうな」

「そうですか、でも、命だけでも助かって良かったです。本当になんとお礼を言えばよいか」


 僕と同じくらいの年頃かな。とても上品な振る舞いだ。きっと良いところの令嬢なんだろうな。


「ふむ。馬も潰れてしまっているな。我らの馬車にお乗りになるがよいだろう」


 父上の提案で、僕らの乗る馬車に一緒に乗って行くことになった。

 

「北の領地、タートリア家のルシアと申します。この度はありがとうございました」

「おお、タートリア公爵家のご令嬢か。私は西のロイド・ホワイトス公爵である。これは長男のライカだ」


 ルシア・タートリア。北の領地を治める公爵家の令嬢も、僕と同じく神託を授けるために王都に向かう途中とのことだった。


 ◇◇◇


 王都の神殿では、神託の準備が進んでいる。

 二日に渡って行われる神託の儀は、初日は平民の子供とたちの神託が行われた。


 各自の名前が呼ばれ、司祭より、神託が言い渡される。

 神台の天井から降りてくる光の強さによってスキルの種別がされ、次に司祭より、星の数が言い渡されるのであった。


 平民が、レアスキル三つ星以上がでることは滅多にない。

 注目の集まる本番は貴族たち神託である。


「ルシア・タートリア。こちらへ」


 司祭に呼ばれ、ルシアが神台の前に立つ。

 天井から光が降り注ぐ。今までの者とは明らかに違う光。


「おお! レアスキルだぞ」

「おおお! さすが公爵令嬢だ」


 観客がどよめき出す。なにより、ルシア本人が驚いている。彼女狼狽うろたえているが、光は降り注ぎ、ルシアの身体を包んでいく。


「レアスキル、『癒やし』……五つ星」

「おおおおおお!」

「先々代の国王以来の五つ星だ!」

 

 神殿の熱気は絶頂に達する。実に一〇〇年ぶりの五つ星の出現だ。しかも、レアスキルである。特に、『癒やし』が出現することは稀であった。


 しばし、神殿は興奮に包まれ、「静粛に」という、司祭の制止も意味をなさなかった。

 暫くして、やっと静寂を取り戻した神殿に、僕の名前が響いた。


「ライカ・ホワイトス。こちらへ」


 僕は、何の神託を授けるのか。膝が笑い、自分の心臓の音が聞こえるようだ。

 僕に降りかかる光は、先程のルシアのものより、まばゆく光り、目を開けていることもままならないほどだ。


「なんだ! この光の眩しさは!」

「く、目も開けていられない……が、美しい」


 光は、僕の身体を包み、司祭が神託を伝える。


「こ、これは……ユニークスキル『ダウジング』星が……」

 

 暫しの間、司祭が言葉を失い生唾を飲み込む。


「……六つ星」

「なに? 星いくつだって?」


 困惑していた司祭が再度、星の数を高らかに叫ぶ。


「六つ星だ!!」

「なんだって!? そんな、星の数聞いたこと無いぞ。間違いじゃないのか?」

「ま、間違いない。六つ星だ!」


 神殿は、歓声と混乱が入り混じるような声が湧き、鼓膜が破れそうなほどの騒ぎ様だ。

 

 かつて、この国を建国した大王以来、出現しなかったユニークスキル。しかも、五つ星までしか現れなかった星の数を上回る史上初の六つ星を、僕が授かってしまったのだ。


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