第44話 エルフの嫁入りその6 略奪婚

 少年がロックドラゴンを倒した後、ロックリザードは逃げてしまった。少年は去る者は追わない主義なのか、興味が失せたのかどうでも良さそうだ。

 あのモンスターは普通の人間や亜人種にとっては強敵だ。倒せるなら倒しておいた方が良いはずだ。

 けど彼は…


「お料理してる…」 

 しかし今の彼は、ドラゴン肉に夢中だった。

 彼が実は火と水の魔法が使える事にも驚いたが、彼の発想の豊かさには舌を巻くと言うか、流石に呆れ果ててしまった。

 なんと彼はロックドラゴンの鱗を一枚引っ剥がすと、素手で叩いて加工していったのだ。

 そうして出来上がったのが鉄板プレートならぬロックドラゴンのスケイルプレートだ。


 そして何をするのかと思ったら、丁度良い大きさに切り分けたドラゴン肉のステーキを焼き始めたのだ。

 スケイルプレートを乗せている石竈はロックリザードの鱗を重ねた物だ。石竈の中の火は、燃料も無しで無詠唱で燃やし続けている。繊細な魔力操作で火加減をコントロールしており、周囲には肉の焼ける美味しそうな匂いが漂い………て、いやなにこれ?


「ふんふ〜ん」

 いや、よく見たらまだステーキすら焼いていない。今プレートの上にあるのはドラゴンの脂身だ。肉を焼く前に脂身を塗ってコーティングしている。うん。これで肉がプレートにくっつかないね。いや、ええー?

「こ、細かい…」

(に、肉なんて、直接焼けばいいじゃない…)

 謎の手間暇のかけ方は、うちの里の肉料理好きエルフに通ずるものがある。もしかしたら話が合うかも知れない。


ジュワァッ………


 少年が遂にドラゴン肉を焼き始めた。

「…ごくり…」

 肉の焼き方なんてどうでもいい。そう思っていても香ばしい匂いを嗅がされた私は生唾を飲み込んでしまう。お腹は鳴らなかった。よし、エルフの尊厳は保たれ―――


きゅるるるる〜ん…


(ああああああああああ〜っ!)

 無情にも私のお腹の虫が鳴ってしまう。

 幸いにも少年は今、私に関心が無かった。くすん。

(散々犯した女より肉のが大事ってどうなの?)

 やや不貞腐れてしまう私を余所に、少年はドラゴン肉のステーキをじっくりと弱火で焼き上げる。レアだ。私もレア派だけど…ドラゴンだし一応モンスターだし…火は、もう少し通して欲しいかも。

 

「■■■固いな。喰える■■…」

 少年がステーキを一切れ口に放り込んでいる。

 調理は繊細なのに食べ方は豪快だ。なんで?

 少年はしばらくもちゅもちゅやってからゴクリと飲み込んだ。噛み切り難かった様だ。


「固い…■、悪くない■。魔力■回復する■」

 …そんなに悪くないっ…ぽい?

 モンスター肉は私でも食べた事が無い。

 例の肉料理好きエルフは、人間の行商人からモンスター肉を高価で買い取り焼いて食べて、腹痛で死にかけていた。

 それを知ってる里の皆はモンスター肉にだけは手を出さないと誓っている。勿論私もだ。


「喰える■?」

 少年が私を抱きかかえて口の中にドラゴン肉のステーキを突っ込んで来た?え?いや、訊いて?やる前に訊いて?

(これも、彼の優しさ…なの?)


 倒したモンスターの素材を加工したアクセサリーを贈ってプロポーズしたエルフの話も聞いた事があるが…これはそういう事なの?解らない。そして噛み切れない。岩でしょこれ?最早岩だよ。歯が欠けちゃうよ。


「仕方無■■」

 私が口の中で肉の塊をしゃぶってるだけになっていたら、少年が私の口からその肉を取り出してくれた。そしてそれを齧り取って咀嚼し始める。うん、いいよ別に。凄く美味しそうな匂いしてるけど食べられないんじゃ意味無いもん。いいよいいよ。こういう拷問もあるって知ってるよ?貴方はまだ私の心を折り足りないんだね?いいよ、いいもん。お腹なんて空いてないもん。エルフは本来肉食じゃないし別に全然気にならないもん――――


「んむぐぅっ!?」

 私が肉の代わりに悔しさを噛み締め涙を飲み込んでいたら、少年が口移しで肉を食べさせて来た。

(んんん〜〜〜〜〜〜な、なんて事を〜〜〜〜あ、美味しい)

「美味しいっ!」

 びっくりした。美味しい美味しい、凄い美味しい。空腹で疲れていた事を差し引いてもとても美味しい。150年生きてきて今までこんなに美味しい肉を食べた事は無い。美味しい。

「………もぐもぎゅ、ごくん…」

 飲み込む。毒があるかもと警戒してしまうが、特に腹痛とかの気配は無い。もしかすると魔力耐性が上がってるのかも知れない。モンスターの肉による腹痛等は毒と言うより、その内包する魔力による過剰魔力症の一種だ。

 魔力耐性が弱い者がもしもこのドラゴン肉を食べたら、過剰に摂取した魔力が体内で暴れ回り、藻掻き苦しんで死ぬかも知れない。何故なら―――


(ち、力が、みなぎるぅぅぅ〜〜〜)

 物凄い勢いで魔力が回復していく。風の精霊魔法を何の準備も無しで、無茶苦茶な儀式を通して使ったせいで魔力回路がやや焼き切れかけていた。それすら回復した気がする。

「それ■今更■」

 少年も満足そうだ。ああ、料理上手な旦那様も良いかも知れな―――いやいやいや別に彼の事は好きじゃないから。別に餌付けされてる訳じゃないから。今のも別にそこまで美味しかった訳じゃないもん。そうだもん。でも…


(…またモンスターが襲って来るかも知れないし、魔力は回復させておいた方が良いよね?)


 少年は手に持った肉を私に見せびらかす。意地悪だ。私はそのままじゃ食べられないのに。匂いだけ嗅がせるなんて…


(ああ、ほっぺが落ちそう…)

 私は物欲しそうに下品に口を開いてしまう。なんてはしたないのか。誇り高いエルフのする事ではないわ。ああ、でも―――


「もっと欲しいのか?美味しかったか?」

 ああ、貴方がなんて言ってるか解るわ。そうなの。


「…………欲しぃの」


 私がコクリと頷くと、彼がまたお肉を口移しで食べさせてくれる。うーなんか動物になったみたい。でも嬉しい。今、私と彼は通じ合っている。

 そうして彼は私が満足するまでお肉を食べさせてくれた。美味しい。


 ―――ああ、美味しぃ〜〜〜…


 お肉を食べ終わった後は、水魔法で生み出した水を飲ませてくれるらしい。うん、丁度喉が渇いてたんだ。優しい。

 人間の魔法って便利ね。精霊魔法程の威力は出せないし万能でもないけど、生まれ持った属性に縛られずに魔法が使えるんだもの。


「ごくん、ごくん…」

 彼が水を飲ませてくれる。当然口移しだ。だって腕は彼が切り落としてしまったんですもの。一人じゃ何も出来ないわ。

(ああ、彼がなんて思ってるかが解る…)


 私の身体の中は、彼が注いだ液体でチャプチャプだ。色んな穴から注がれた色んなものでお腹がいっぱいになっている。そんな私を彼が満足そうに見下ろしている。そうよ、もう私は貴方のモノなの。


「■、可愛い■」

 うん。私も…

 なんだか凄く、無性に貴方が愛おしい。

「……………」

 彼を見上げる私の頬が熱くなる。おかしいわ。彼は今邪眼を使っていないのに。見つめられるだけで、魅了されてしまいそう。


 私の記憶の片隅に、ドラゴン肉はとっても元気になるお肉だと言う逸話がある事を思い出した。確か…妖精郷のハイエルフの王とお妃様がドラゴンのお肉を食べて、元気になって、何百年も出来なかった御子様を授かったとか………


(あう…嘘。私、彼の子供が、欲しい…欲しぃ…)

 私は何かに取り憑かれた様に、違う存在になってしまったみたいに、彼を自ら求めた。

 手や足が無いのがもどかしく、風の精霊の力を借りて身体を動かす。


 腰も唇も舌も、何でも使って彼から一滴残さずに搾り取る。

「あはははっ!すっごぉぉぉいっ!」

 彼も凄く元気だった。何度もしても全然へこたれない。むしろどんだん硬く太くなっていく。ああ、美味しい。自らしゃぶりついて延々と吸い続け、出された物を喉を鳴らして飲み干していく。

 二の腕までしかない腕で彼を抱き締め、貪る様に舌を絡めてキスをする。

 何回出されたかなぁ?赤ちゃん…出来たかなぁ?


「シ…シルク…」

 彼が私を優しく抱き締めて髪を撫でてくれていた時。なんとなく口をついて出た。名前…名前なんて知りたくないし知られたくもなかったのに。今は彼に呼んで欲しい。シルクって呼んで欲しい。貴方の名前も教えて、私に呼ばせて。

 

「シルク■。良い名前■。■■■■」

 彼は私の名前を呼んでくれた。髪の毛を撫でてくれる。嬉しい。そうよ。その髪の毛も貴方のものよ。私は夢心地で彼に身を任せる。

「俺■エスペル。エスペル■」

「エスペル…」

 彼がそう名乗る。不思議で可愛らしい響きね。エスペルね、ふふ。

 私は彼の名前を呟くと目を閉じ、キスをする。

 たっぷりと愛情を込めて。

 だって気持ち良いんですもの。仕方無いじゃない。


「■シルク。■■お前を孕ませ■やる」

「エスペル…うん…」

 私の顔が熱くなるのが解った。ハーフエルフはエルフにも人間にも受け入れられずに悲惨な人生を歩む者も多いが、彼との子供なら大丈夫だろう。きっと凄く強い子供に育つだろう。エルフを救う救世主になるかも知れない。

 欲しい。彼との子供が欲しい。

 

 私は妄執にも似たそんな想いに駆られ、彼と肌を重ねる。

 そうしてふと気付くと、朝日が昇っていた。

「エスペル、愛してる…」

 私は彼に抱き締められ、愛されている幸福感の中で眠りに堕ちたのだった。



☆☆☆☆☆



 …ドラゴンの肉はもう二度と食べない…。

 目覚めた私はそう誓った。何あれ?あ、あんな淫乱ではしたない姿…私じゃないもんっ!

 ドラゴンの肉を食べた私は完全に発情していた。エルフによっては何十年、何百年に一度あるかないかの、子供が欲しくて欲しくて堪らなくなるヤツだ。

 

 そしてもう一つ。ドラゴン肉は美味しくてお腹がいっぱいになるまで食べてしまった。喉も渇いたのでたくさん水も飲んでしまった。そうするとどうなる?

 そう、当たり前だがおトイレに行きたくなる。

「シルク。■■■。■■、■〜〜〜」

「エスペルっ!や、やめて〜〜〜!?」


 私は涙を流しながら訴える。風魔法を使えば一人でなんとか出来るから、そっとしといて欲しい。自分で出来るもん。だから―――あ、やめてやめて刺激しないでっ!

 

「■■、我慢■身体■良くない■〜?」

 彼は私を背後からガッシリ抑えつけて抱きかかえ、私の股を優しく刺激し続けていた。

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 顔が熱くなる。あ、無理無理無理無理。そんな、そんな風に擦らないでっ!優しくしないでっ!駄目駄目駄目駄目駄目駄目ぇぇぇっ!


「見、見ないでぇぇぇ〜〜〜っ!」


 私の懇願も虚しく、彼の前で私の小も大も盛大に解き放たれる。

(死にたい)

 …なんだろう?犯されたり孕まされたりするのとはまたちょっと違う尊厳が破壊された気がした。

 情けなくて泣きたくなってきた。


「うう…ぐずっ、ぐずっ、うぇぇぇん…」

 実際に私は子供の様に泣き出してしまった。恥ずかしくて死にそう。

 すると彼は私ので汚れた手をくんくん嗅いでいる。な、なにしてんのぉ!?

「エスペルの変態っ!信じらんないっ!」

 私は涙を流しながら猛抗議する。

「悪い悪い。■綺麗にして■■」

 彼は私の言葉をどう解釈したのか、手を水で覆い、そして―――

 

「ひゃぁぁぁーーーんっ!」

 私の股を洗い清め始めた。な、なにこれなにこれぇっ!ひんやりしてて気持ち良―――いやっ!気持ち良くないっ!わたひ、こ、こんなので感じる変態じゃないからっ!わたひ違うからっ!


 だが私の意思とは別に、身体はビクビクと痙攣し、彼が与えてくれる快楽を貪ってしまう。彼はあまり前戯と言うものをしてくれない。でもそれで良かったのかも。こ、こんな指使いをされたら、頭がおかしくなる。お腹の奥がジンジンしてきた。だめぇ、欲しくなっちゃう―――


「■■、綺麗にしてやった■?」

 酷い。私のスイッチを入れておいて、彼は私に下着を履かせてきた。思わずポカリと殴ってしまう。顔もまともに見られない。


「■■■■■。責任は取る■」

 ―――――――え?今なんて?責任?ま、まさか結婚?人間の蛮族の中には、気に入った女を拐って無理矢理強姦して妻にする部族も居るらしい。もしかして彼は、私を気に入ったから拐ったの?略奪したの?私が欲しくて、妻にしたくて求めたの?


 私が上目遣いで見つめていると、彼が溜め息混じりに私の下着をずらしてきた。

「■■■。■■■■?」

「!!!???エスペルっ!そ、そう言う事じゃない〜!」

 そんな私の訴えは無視され、私は彼に抱かれる。昨晩も数え切れない程出された気がするのに、また三回くらい出された。

(ほ、本当に妊娠しちゃう…かも…)

 

 私の里において、人間との婚姻は忌避はされていないが、推奨もされていない。ハーフエルフをみだりに生み出してしまう事もあるからだろう。だが一番の理由は………


「だめぇっ!おかしくなるぅっ!」

 人間の味を覚えたら、もうエルフに戻れなくなるからだ。人間は男も女も性欲が強く。信じられないが毎日でも交われるらしい。実際今の私がそうだ。エスペルは一日に何回でも出してくる。

 エルフは性に淡白で、夫婦となってもそんなに毎晩営みをしない。それは子供も出来ないよね。


「はぁ、はぁ、はぁ…」

 私はエスペルの胸に頭を乗せる。どんだけ私を犯せば気が済むの?そんなに…


「そんなに、私に子供、産ませたい、の?」


 彼に訊いてみたが、答えて貰えずにキスをされてしまった。彼は私と違って、別にエルフ語を覚える気が無い。

 むぅ…私が人間語を早く覚えないと。

 彼は私を気持ち良くさせた事に満足そうだ。

 違う、そうじゃない。

 そうじゃないのに―――


「好き…」

 私が決死の覚悟でそう囁いても、彼は笑うだけだった。

 ああ、本当に、酷い人。

 なんで私はこんな人を―――

「んんんっ」


 またキスをされて口を塞がれる。息が出来なくなるくらい、深く舌で繋がる。ああ、これ好き。だめ…幸せな、気持ちになっちゃう。

 私は匂い付けする様に彼の首筋に頬擦りしておねだりする。彼は私の気持ちなんて知ろうともしないくせに、そういうのだけは解るみたい。

 また私を抱き締めて、好き勝手に犯し始める。

 ふふ、いいよ。好きにして。

 私も、好きにするからさ。

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