閑話3 ナツメ様の最終兵器
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「やだやだやぁだぁー!!」
「こらこら、うら若き乙女がそんな声を出してはいけないよ。そんな子供の様に暴れては少しはしたないよ棗君?」
「それ、先輩が言うの!?」
店の前に生えた街路樹に捕まり駄々をこねる僕に、呆れたような表情を浮かべる先輩、この人僕の部屋でのあの醜態を無かった事にしてる!?
それに引っ張る力が超強い! なんというかいつもより容赦がない気がする。しかし、僕もこの手を離してしまう訳には行かないんだ、何故なら僕にとってあのお店に入る事は余りにもハードルが高過ぎるのだ。
「ぼ、僕はそんなお店に入らなくても大丈夫ですぅ! 今のままで十分なんです!!」
「何を言ってるんだね、私は知っているぞ? 君が綿の白いモコモコおこちゃまパンツとドロワーズしか持っていないという事を!」
「なんで知ってるんですか!?」
「もちろん見ていたからに決まっているだろう? ちなみにいくつかいただいて、私のナイトキャップとして使っているぞ?」
「堂々と変態行為をカミングアウトした!?」
「ましてや。いくら慎ましいとは言え、君のその形の良いお胸が型崩れしてしまったらどうするのかね?」
「余計なお世話です!」
変態のくせに何を偉そうに講釈をたれているのですかこの人は。ぼ、僕のは、その、ちょっと小さいからシミーズを着用してれば、別にブラジャー無くてもそんなに違和感ないから良いんです!! うぅ……。
「それは聞き捨てなりませんね!!」
「だ、誰!?」
僕と先輩がギャースカ言い争いをしていると、そこに声を上げながら乱入する謎の影。羽で出来た怪しいマスクを着用し、造りの良いドレスを着た女性が美しい紫紺の髪を振り乱しながら仁王立ちをしていた。その肩にはコルテーゼさんがぶら下がっており、余程必死に抵抗したのか、うなだれたまま動いていない。……ていうかセシルだよね、明らかに。
「な、謎の貴婦人
「まさか隠し通す気なの!?」
肩で息をしているのを見ると、こちらも随分全力でコルテーゼさんに抵抗をしたらしい。
「そんな事より! 聖女様には私……ではなく、王家より、最上級の下着が渡されていたはずでございます!! 何故その様な綿の下着などを!?そもそも、どこでそれを入手なさったのですか? ――さては孤児院でございますね。シスターリズ、ナツメ様になんて物を!」
「隠す気あるの? 無いの?」
「そんな事はどうでも良いのです、こうなっては私もナツメ様の下着選び、参加しないわけには行きませんね!」
「余計なお世話だよっ!?」
正体を隠したいのか隠したくないのか判らないけど、僕は
「嫌がっているようだがね、棗君。これは君にも悪い話じゃないんだよ?」
「……どういう事です?」
「解らないのかい?」
「?」
何を言っているのか判らないけど、先輩は含みのある笑みを浮かべるだけで、僕にその答えを教えてくれない。
「アオイ様は、その様な下着をお召になっていては、殿方に幻滅されてしまうと言いたいのですよ」
「ちょっと、ちょっと。殿方って言ったって、僕は人様に下着を見せつけるような趣味は持って無いよ?」
「何を言っておられるのですか! 幾らヒデヒコ様がお優く、ナツメ様の事を深く愛してらっしゃるからと言って、そこに胡座をかかれていては百年の恋も冷めると言うものでございます!」
「なぁっ!?」
なななな何を言い出すんですかこの王様は!? そそそそ、そんな場面があるわけはないし、そ、そそそそもそも、ヒデに下着を見せることなんて無いし!? あ、いや、お風呂一緒する時とかに確かに見られちゃうかもしれないけどね?
――そう言えば。秀彦ってこっち来てから更に体締まってきてたんだよね。何ていうか向こうに居た時より逞しくなってるのに靭やかさがあるというか、表情もなんか精悍になった気がするし……はうっ!? ちちちち、違う! 別に秀彦の体なんて見たからって、今更なんにも!!(ボッフン) あ、拙い、顔が熱い……。
「きゅぅ……」
「ナツメ様!?」
「どうやらオーバーヒートしたようだね! 好都合だよ。
「成る程。流石は勇者様、それは一石二鳥の妙案。しかし、ナツメ様のお姿を衆目に晒すわけには行きません、奥の個室を使って楽しみましょう!!」
「あ、あなた方は鬼ですか!?」
薄れ行く意識の中、唯一の味方であるコルテーゼさんの悲鳴を聞きながら、僕の意識は暗転した……。
――――……
「う、ぅぅっん……」
「目覚められましたか、ナツメ様」
「あ、コルテーゼさん。良かった。僕、何だか酷い夢を見てたみたいで……うぅ」
良かった、よく覚えてないけど、何か酷い目に合う夢を見てたみたい。でも、目が覚めたらいつものコルテーゼさんの顔が見えるって事は、ここは僕の部、屋……?
「ひぇっ!?」
目を開くと、僕の目には信じがたい光景が飛び込んできた。
「申し訳ありません、ナツメ様、私の力ではお二人をお止めする事は出来ませんでした……」
僕の体には白くヒラヒラとした薄衣の布、所謂ベビードールが着せられていた。下品ではない程度に薄い桃色を基調とした可愛らしいデザイン。至る所にあしらわれた黒いレースがとても可愛らしい。そして、その薄衣の下、僕の股間に物凄い違和感がある……これは、この、ぴっちりとした感触はまさか。
「よぉく似合っているよぉ? ナツメきゅぅん? デュフフ、コポォ」
「ひっ!?」
変態だ! 変態が現れた!!
「そんなに激しく動かれては捲れてしまいますわよ、ナツメ様?」
「ひぁぁぁぁっ!?」
もう一人増えた!? こっちは羽マスクの変態だ!?
「申し訳ありません、申し訳ありません、ナツメ様!!」
変態だ。いや、悪魔が二人現れた。僕が寝ている間に衣服はすべて剥ぎ取られ、いつの間にかえ、エッチな下着を……いや、別にえっちな下着では無いのかな? こう言う物もあるのかな?? 随分
「ん、服を探しているのかい? それならここにあるよ?」
「ひ、ひぃ、ひぃぃ……」
「そんな泣きながら服を着ないでくれ給えよ、まるで私達が暴行したみたいで興奮するじゃないか?」
「ひえぇ……」
よかった、服は変なことされてないみたい、あとは、僕が履いてきたドロワーズとシュミーズを……。
「あ、ナツメ様のお召になっていたあの野暮ったい綿のドロワーズと、綿のシュミーズは私共で
「ひ、酷いよ!?」
「さて、ナツメ様、そのベビードールはヒデヒコ様用最終兵器で御座いますので、帰りはこちらの下着をお使いくださいませ」
「ひ、ヒデ用!? 見せないよ? 僕こんなの見せないよ!?」
そりゃ、良くお風呂で裸の付き合いとかはしたけどさ、これは何ていうか、裸より恥ずかしいよ!?
で、でも……。
「あ、あの……」
「なんだい、棗君?」
「その、もしもだよ? もしも僕がこれを着たら、本当に秀彦は喜ぶのかな?」
恥ずかしくて後半はしどろもどろになっちゃったけど、どうやら皆には聞こえていたようで、その瞳が爛々と輝き始める。しまった、今のは失言だったかもしれない!? ヤバイヤバイ! 僕の頭の中で警報が最大音量で鳴り響く!
「うひひひ、ヤッパリその気があるんじゃぁないか、ナツメくぅん」
「ち、違うよ!?そう言うのと違うからね? 今のはあれだよ、ちょっとした興味本位だよ!?」
「照れないでくださいませ、そう言うことでしたら私共が全力でコーディネイトいたしますとも」
「コルテーゼさん!? 貴方はこっち側の人じゃなかったんですか?」
さっきまで僕をかばってくれていたコルテーゼさん、ここに来てまさかの裏切り!
「げへへへ、覚悟なさいませ、ナツメ様」
「セシルもやめて、本当に、ねえやめてよぉ」
怖い。先輩も怖いけど、変なマスクつけてるセシルが一番怖い!!
「セシルなどという女はここには居りません、私の名前は太陽の貴婦人
「名前変わってるじゃん!?」
この後は、裏切りのメイドと葵変態とRXに着せ替え人形にされ続け、もう何が何やらよく覚えていない、気がついたら僕等は馬車の中にいて、大量の荷物を積み込んでいた、あの荷物の中身は一体何だろう ――思い出そうとすると、う、頭が。
結局、先輩とのお出かけは怒涛の展開についていけず、ラーメンを食べた記憶しかなかったけど多分楽しかった。うん、楽しかったよね……う、頭が……
「ちょっとセシル、流石にやりすぎてしまったのではないかね? 棗君さっきから虚ろな目で馬車に揺られたまま、一言も喋らないんだが」
「うぅ……た、多分お疲れになってるだけかと? ねぇ、コルテーゼ?」
「あぁぁ……私としたことが、ナツメ様の余りの可愛らしさについ……何ということでしょうかぁぁぁ、申し訳ございませんナツメ様ぁ」
「あんたら一体コイツに何したんだ?」
あ、ゴリラだ、ゴリラがいる、森から迎えに来てくれたんだね、優しい動物だなあ、えへへ。
「おい、今度は何かヘラヘラ笑いだしたぞ!? 本当に大丈夫なのかこれ?」
「「「本当にすいませんでした!!」」」
うふふふふ~、今日はたのしかったなあ、えへへへ~。
―― 結局次の日、僕が目を覚ました時、なんだか前日の記憶が朧気になっていたんだけど、皆が妙に優しかった。あと、何となく秀彦の顔見ると恥ずかしくて顔が熱くなってしまった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上で第一章閑話も終了。
次回から第二章でございます。
よろしければ引き続きお楽しみくださいませ。
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