貿易都市ハイゼン⑩・ハイゼン散歩道。


3日が経った。

フルムーンバザーまで残り3日だ。


朝起きると着替えて1階のリビングルームに降りる。

ホッスさんの作った朝食を食べると地下へ。


ゴミ場に着くと魔女から貰った薬を飲む。

【フォーチュンの輪】を使ってゴミ場で選別をする。


最初は沢山の緑の光。合間に黄色が光っていた。

そうだな。『槍』をイメージする。


すると黄色い光が消え、緑の光もまばらになる。


「うーん」


見て回ると確かに『槍』だ。使えそうではある。いらないけど。

だがこれは順調なのかどうか……判断が難しい。


ちなみに昨日、『スピアー』でやってみた。

なんと緑の光が7つもあった。


ミネハさんに確認してもらったが、『妖星現槍』に並ぶモノじゃなかった。

そして黄色の光は……ひとつだけ後から出て来た。

それも、まあ並ぶモノじゃなかった。


「効果はあるんだよなぁ……」


だけど、あっ、きた。緑が消えて黄色の光がふたつ輝く。

時間差で緑の光が消えて黄色の光が出るようになった。


黄色の光の槍は、銀の槍と変なカタチをした槍だった。

そしてフッと光が消える。


薬の効果が切れた。

そうすると【フォーチューンの輪】がしばらく使えなくなってしまう。

クールタイムが大体2時間ぐらい発生する。


それを伝えると魔女は良い傾向と言っていた。なのでまあ信じる。

僕は魔女の弟子だ。師匠を信じるのが弟子だ。


さて1階に戻る。

シャルディナが掃除をしていた。


「ウォフくん」


ビッドさんが声を掛ける。


「どこか出掛けるんですか?」


軽装ではなく武装していたので外に出ると思った。


「ちょっと散歩っス」

「ひとりですか」

「そうっスね。暇だからちょっとこの辺の地理を覚えようと思うっス。あと魔女とミネハは鎧がどうとかでどっか行ったっス」

「ああ、ミネハさんの……ホッスさんは?」

「買い物デス」


シャルディナが答える。


「なるほど」


アンナクロイツェンさんも同行したのかな。


「それとアンナクロイツェンは風呂デス」

「ああ、なるほど」


アンナクロイツェンさんはお風呂好きだ。

1日に3回は必ず入る。そして長風呂でもある。


「ホント好きっスよね」


ビッドさんは微苦笑する。

散歩か。


「ビッドさん。散歩。僕も一緒についていっていいですか」

「いいっスけど」

「僕も暇なんですよ。じゃあちょっと用意してきます」


2階へ上がり部屋からナイフベルトを手にして巻いて、青いジャケットを羽織る。

このジャケットは昨日、古着屋で一目惚れして購入した。

デザインも着心地もいい。ポーチも着けて、よし。完了。


「行ってらっしゃいデス」

「いってきます」

「いってくるっス」


挨拶して外に出る。


「まずはどこに行きます」

「そうっスね。東の市場のほうへ行ってみるっス」

「それなら帰るとき、ベルク食堂に寄ってみますか」

「それもいいっスね」


東の市場なら昨日も行ったから分かる。

その通り道にベルク食堂がある。


色々な話をしながら迷路のような道を歩く。


「ウォフくん。フルムーンバザーが終わったらどうするっスか」

「ひょっとしてフォレストウェーブですか」

「参加するっスか?」

「そうですね。どうするか。ビッドさんは参加したいんですか」

「興味はあるっスね」


うーん。フォレストウェーブか。

正直、今のところはそんなに興味がない。


フルムーンバザーが近いから、そっちに集中しているというのもある。

儲かるというけど、あんまり魔物を倒すというのに魅かれない。


「ビッドさん。フルムーンバザーはどうするんです」

「見て回る予定っスね。実はウチ、欲しいのがあるっスよ」


ビッドさんは意味深に言う。

欲しいモノ。


「何か聞いてもいいですか」

「新しい武器っていうかオーパーツがあればって思っているっス。今のままでも充分って思えるっスけど、もうひとつ何か欲しいって……ミネハを見て感じたっス」

「……それは弓ですか。それとも『瞬足剣』みたいな剣?」

「その中間っスね」

「中間?」

「近距離と遠距離があるっスから、これで中距離があれば完璧っス」

「それってオールラウンダー目指しているんですか」


ビッドさんは鼻の頭を掻いて照れくさそうにする。


「あればっスけどね」


中距離か。そうなると槍かな。


「そういえばゴミ場で変なカタチの槍を見つけたんですよ」

「槍っスか」

「中距離ならそれかなって思って」

「確かにそうっスね」

「帰ったら見せますよ。興味あります?」

「あるっス。じゃあよろしくっス!」


ニッと笑うビッドさん。僕も思わず笑った。

こういう雑談しながらの散歩はいいな。天気も青々としている。


さてと。


「ビッドさん」

「———分かっているっス」


ビッドさんは真剣な表情で頷く。【危機判別】を使わなくても分かる。

さっきから前後の道に複数人の気配を感じていた。

最初は気のせいかと思ったけど、一定距離を保っていて、視線を感じる。


「……どうします」

「とりあえずこのままっスね。相手の出方を伺ってみるっス」


敵か味方か分からないから様子見か。

僕は試しに【危機判別】を使った。うん。全部、真っ赤だ。


人数は……9人か。前に4人で後ろに5人。

僕はこそっとビッドさんに伝える。


「いちおうですけど、【危機判別】では敵と出ました」

「———じゃあ敵っスね」


あっさりとビッドさんは静かに臨戦態勢をとる。


「相手は9人です。前に5人。後ろに4人です」

「便利っスね。そのレリック」

「ですね」


僕たちは苦笑し、さてどう誘き出すか。

そうだ。昨日、安かったから買ってみたのがある。


僕はポーチからそれを取り出した。

【ビブラシオン】を発動させた震える手で握り、【レーヴムーヴ】で前方に投げる。

隠れている赤い点の近くに落ちると衝撃を放った。


「ぐああぁっっ!?」


野太い悲鳴が聞こえた。

僕が投げたのは衝撃石だ。割れると衝撃を放つレガシー。

雷撃石と疾風石と共に属性石セットで売っていたので買ってみた。


振動で徐々にヒビを入れて、ちょうど落ちるときに割れるようにしていた。

タイミングがバッチリなのは【レーヴムーヴ】のおかげだ。


「てめえっなにしやがる!」

「おうおう」

「なんだなんだぁっ」

「俺らに逆らおうってんのかぁ」


ぞろぞろと前と後ろから挟むカタチで男たちが現れる。

どいつもこいつも人相が悪い。


「余所者があっ!」

「やんのかガキィ」

「俺らを誰だと思ってやがんだ」

「あのゴウロ討伐隊だごらぁっ!」

「ようよう。兄ちゃんよ。有り金と装備と、そこのウサギの姉ちゃんと、それとてめえが連れている女を全部と家もだな。それで手を打ってやる」


手前に出て来た一番大柄な男がニヤニヤと醜い笑みを浮かべ、そうほざく。

うーん。女を全部と家か。つまり突発的でも偶然でもないわけだ。


「なに言っているっスかあいつ」

「あの、すみません。ゴウロって三大家のゴウロですか」

「そうだ」

「それしかねえだろ」

「なに言ってんだガキ」

「天下のゴウロ家だぞ」

「ようよう。分かっただろう。俺らに逆らうってことはゴウロに逆らうってことだ。いくら余所者でもそれぐらいは理解できるよな」

「もっとも逆らっても俺たちには勝てねえけどな」

「ほらほら、さっさと装備と有り金と女と家と全部置いていけ」


僕は今にも切り掛かりそうなビッドさんを少し抑え、言った。


「嫌です。お断りします」


ハッキリ拒絶すると男たちの態度が一変する。

手前に出て来た一番大柄な男がため息をついて、言った。


「そこのガキだけやれ」


男たちが一斉に抜刀する。

それはビッドさんも同じだった。後ろの5人に突撃していく。


「喰らえっ、燃えろ! ファイア!」


前の男のひとりが火球を飛ばす。僕は『青聖の籠手』を掲げた。

なかなかの勢いの火球は反射され、手前に出て来た一番大柄な男に命中する。

服などの布に引火して燃え上がった。


「ぐああああああっっつっっ」

「兄貴いぃっ!」

「てめえっよくもアニキを!」

「いや、それやったのは僕じゃないですよ」

「やっちまえぇぇっっ」


残りの4人の男たちが一斉に襲い掛かった。

僕は両手にナイフを持つ。


右手に『ソードガードの付いた片刃のナイフ』。

左手に『先端が斧の刃みたいに弧を描いてエッジが効いた大振りのナイフ』だ。


そして【青ノ聖者】を使用して、スローモーを発動させる。

彼等の勢いある動きが―――嘘みたいに―――ノロく……なった。


僕はハゲAの首筋を斬り、ハゲBの腹を斬り、髭面Aを袈裟斬りにする。

髭面Bは金属製の鎧を着ていたので【バニッシュ】で鎧ごと腹部に穴を空ける。


最後に燃えて転がっているこの大柄の男をどうするかな。

油をかけるか火石をくべるか。


「いいや……確かめるか」


僕はその背中に水石を投げる。

大柄の男の火は消えた。火傷が酷いので小瓶の中身を掛けて全快にする。

驚く男の汚い顔面を【ビブラシオン】の拳で殴り、気絶させた。


急に世界が速くなる。スローモーが切れたようだ。

まだ時間は残っているが【青ノ聖者】を解く。


「…………」

「終わったみたいっスね」

「そちらも」


ビッドさんは血の付いた『瞬足剣』を振って仕舞う。

彼女は無傷で背後に男たちの死体が転がっていた。

気絶している大柄の男に気付く。


「あれ、そいつだけ生かしたっスか」

「はい。聞きたいことがあるので」


えっと、どうやって起こすか。

なんか前世の記憶だと、両腕を持って背中を膝で押していたような。

出来るかなと考えていると、パンっとビッドさんは大柄の男の頬を叩いた。


「うぅっ……あんだぁ……? ひいっ」


起きた男の首筋にビッドさんは剣をあてた。


「ウォフ君が聞きたいことがあるって言っているっス」

「……ウォフ?」

「僕です」

「てめえっ! あいつらは!?」

「見ればわかるっス」

「……全滅……だと……!?」


大柄の男は信じられないと目を疑う。


「それで聞きたいことがあるんですけど、いいですか」

「おまえら、これがどうっ、待て。待て!」


ビッドさんが彼の首筋で刃を返す。


「余計なことは言わず質問にだけ答えてくれますか」

「次に騒いだら殺すっス」


殺意を向けるビッドさん。

まだ殺されると困るけど、そのときはしょうがない。

その程度の命だ。


「分かった。分かった。何が聞きたい? なんでも喋る!」

「僕たちのことを知っているのはあなたたちだけですか」

「……そ、そうだ」

「じゃあゴウロ家もゴウロ討伐隊もこのことは知らないっスね」

「あ、ああ、だが俺たちがゴウロ討伐隊のメンバーなのは嘘じゃねえぞ。おまえら。こんなことしてタダで」

「そのゴウロ討伐隊は魔女と本気でやり合う覚悟があるんですか」

「は? 魔女?」


大柄の男はきょとんとする。


「ええ、第Ⅰ級探索者の『蓋世の魔女』です」

「……魔女……ウォフってまさか、いやだがあれは2メートルの……」

「やり合う覚悟はあるんですか?」

「ウォフ君。もう殺っちまっていいっスか」


ビッドさんが冷徹に尋ねる。


「そうですね。まあ別に」

「待て、待て待て、待てっ! 魔女だと、魔女……いや、ゴウロ討伐隊もゴウロ家もそこまでは、魔女と敵対するつもりは…………ない」


大柄の男の顔が青白くなっていく。

普通ならゴウロ討伐隊は、こんな雑魚でも面子の為に出張ってくるだろう。

だけど相手が魔女ならば―――面子と大事かなんて決まっている。


「これはいったい―――?」


声がした。通行人か。しまったと思った。

先に掃除をしておくんだったと思ったら、大柄の男が叫んだ。


「あ、アラヤさんっ!?」

「仲間っスか」

「ザゴオ? よく見れば死体はザゴオの隊の……君たちは?」

「あなたは誰です?」


通行人じゃなかったのか。

はぁ、とんだ散歩だ。






――――――――――――――――――――――――――――――――


今回で300話になりました。

皆様のおかげです。ありがとうございます。



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