アークラボ②
スラム街。僕が住んでいる地区でもある。
ただ僕の方は住宅街なので治安はそんなに悪くない。
スラムで特に治安が悪いのは歓楽街だろう。
ワザと複雑にした違法建築群に違法娼館や違法商店や違法賭博場が雑にある。
それらをシノギとした悪党どもが小競り合いを繰り返している場所だ。
その一角が突然、爆発した。黒い煙をあげる。
「あわわわわっっっ、お、おいウォフ!」
「顔に張り付かないでください。ウサギくさい。だから悪い予感がしたんだ」
ハイヤーンを取り除いて僕は呆れた。
その一角の建物は『ドラゴン牙ロウ』の本拠地だったようだ。
リヴさんたちは真っ先にここに向かっていった。
迷いなく来たので、どうも前から知っていたのかな。
問答無用で集まってきた男たちを蹴散らし、突入して、爆発が起きた。
なんで爆発が? とにかく僕たちも急ぐ。
破壊跡が凄まじい建物のエントランス。
リヴさんとビッドさんは6人の男たちと戦っていた。その他は倒されている。
ざっと数えても十人以上は確実だ。こんなに居たのか。
「襲撃だと、ふざけやがって!」
上半身裸で狼の入れ墨をした独特なドレッドヘアの男が石を拾って彼女たちに放る。
それが爆発した。
「うわぁっ、なんだ?」
土煙と衝撃で建物が震撼する。
「あれはっレリック【爆発】だ」
「知っているのか。ハイヤーン」
「触れたモノを爆発物に変えることができる。触れたモノが大きければ大きいほど爆発力があがる」
「……触れるだけって、なんだそれ最悪じゃないか」
しかも触れたモノが大きければ爆発が凄いってなんだそれ。
最強じゃないか。
「ただし爆発のダメージは自分も負う。それと大きいモノほどすぐ爆発する」
「んん?」
なんだ。強いのか強くないのか分からんレリックだな。レアなのは確かだけど。
というか爆発のダメージを自分も喰らうっていうのはなあ。
しかもすぐ爆発って、あれ、それ自爆しかない気がする。
おやおや、あんまり強くないのでは?
そして小石程度の爆発では、リヴさんの張った緑の障壁は破壊できないみたいだ。
障壁が消えるとビッドさんの姿が掻き消えた。斜めに退避した男を斬る。
おお、レリック【瞬足】。ごく短い距離を瞬時に移動する歩法。
そしてそのレリックを現わした『瞬足剣』―――使いこなしているなぁ。
「くそっ、ちょこまかと!」
「ボスっ、このままだと俺らも!」
「黙れ!」
「ぐはああぁっっっ!!」
ボスと呼ばれたドレッドヘアの男は【爆発】で部下を倒す。
酷いなあ。というかあれがボスか。
長身で狼の入れ墨が彫られた身体が際立っていた。
強いという印象を受けるがやっていることは小物の集団の王だ。
そして本人も小物だった。部下を平気で切り捨てる典型的な小悪党。
「くっ、クズが」
ボスは小瓶を取り出した。血だらけの手にかけると傷が癒える。
ポーションか。しかし本当にダメージがあるんだな。使い辛いだろう。
「ぼ、ボスっあんたなにを」
「うるせえ。アレ持ってこい。てめえも爆破するぞ」
「へ、へいっ」
アレ? するとそいつは急いで近場の壁に掛かっている真っ黒い棒を持ってくる。
先端に太いトゲが何個も付けられていた。金棒か? 金属製なのは分かる。
それをボスは手にすると振り回し、リヴさんに襲い掛かった。
鈍器だからかそんなに速くない。リヴさんがブレードで受け止める。
爆発した。
「リヴさんっ!」
「なんっスか!」
ビッドさんは金棒を持ってきた男を斬り捨てて振り向く。
真っ白い煙が晴れると彼女の姿がない。
「ん……あっぶね」
リヴさんは咄嗟に後ろに下がっていた。
ホッ、良かった。
「そうか。あれはオーパーツだ!」
いきなりハイヤーンは叫んだ。
あの耳元で叫ばないでほしい。
「オーパーツ?」
「うむ。レリック【爆発】に対応するオーパーツだ。あれならば爆発してもダメージを負うことはない。更に振る力などで威力が増すだろう」
「振る力ですか」
「そうだが」
「なるほど。脅威といえば、別にそうでも無いな。その程度なら、リヴさんの相手じゃない」
「ほう」
彼女も気付いたのだろう。
避けて避け、ボスが攻勢だと笑う。何も対処できないと思っているんだろう。
だがリヴさんは前に出た。両手で持ってブレードを振り上げる。
「ん……
ブレードが白く光ると、その黒い金棒を焼き切った。
「なあぁっ!?」
ブゥンっと音がする。
「なっ!?」
「なんだと!」
嘘だろ。あれは、あれは……レーザーブレード!?
「ひ、光の剣っス!」
ビッドさんが最後のひとりを始末してから言う。
や、やはりあったかスペースな武器! 宇宙なウェポン!
ボスは大きく狼狽えて後ずさりしたが、もう終わりだ。
「……セイバイ……」
リヴさんは彼の首を焼き刎ねた。なんかそれ違う。
「恐ろしい……」
「……」
僕の出番は無かったな。
こうしてクラン『ドラゴン牙ロウ』は壊滅した。
実にあっけなかった。
生き残った者はいなかった。ビッドさんがしっかりトドメを刺す。
それを情けも容赦もないというのは、この世界では違う。
往来ではさすがに出来ないがこういう場所だと殺すのは当たり前なところがある。
それと連中はふたりを女だと舐めていたところがあった。
特にターゲットが居たからだろうか、殺す気より捕えようとしていた。
実力なんて関係ないと思ったんだろう。
捕えた彼女たちをどうするのか。それを少しでも想像できれば皆殺しも仕方がない。
ビッドさんがぼやく。
「なんか拍子抜けっスね」
「ん……ビッド……めちゃ強くなった……特に【瞬足】は……ヤバイ」
「そうっスか? もしそうだとしたら、ウォフくんのおかげっス!」
ニッコリと僕に微笑んでピースする。活発美少女の満面の笑みに僕は照れた。
「ぐっ、うらやましいっっ」
僕の頭の上で悔しがらないで欲しいなあ。
殺伐としているのに妙に和やかな空気になった。
「さて、後は建物の中っスね」
「ん……書類とか……押収……」
「ついでに宝とかもあったらいいっスね」
「盗むんですか」
「ふっ……拾得……」
まぁいいけど、大したもの無さそうだな。
一応、レリック【フォーチューンの輪】を使うか。
そのときだった。
「おっ、こいつはまぁようやったなぁ」
「実に無様です」
僕たちは振り返った。
メイドがいた。そうメイドだ。
ショートヘアの整った金色の髪。
切れ長の眉に鋭く射貫くような青の瞳。凛々しく美麗な顔立ち。
白と黒を基調としたメイド服を皴ひとつなく着こなしている。
背丈は高く、ゆったりとしたメイド服からでも胸の膨らみがハッキリと分かった。
見えなくても女としてこれ以上ないほど魅力的な肉体をしているのは分かる。
その冷えるような美貌と佇まいはまるで精巧に造られた人形のようだ。
しかし死屍累々のこの場では場違いすぎて明らかに浮いている。
更にその隣に……酔っぱらった男がいた。そう酔っ払いだ。
しかも猫背でボサボサの髪。無精髭だらけのオッサンだ。
銀色のスキットルを手にしていた。なんだかもう色々諦めてそうな雰囲気がある。
服装は実に平凡でシャツとズボン。丸っこい獣の耳と独特な尻尾はリスだ。
身長は190近くもあった。メイドと並ぶと人生の明暗みたいに感じる。
このひとは、この男は―――知っている。
「おおっ、素晴らしきクールビューティーしかもメイド。うむ。満点だ」
僕の頭の上でどこ目線だか分からない賞賛をするハイヤーン。
降りてくれないかなぁこのウサギ。
「ん……だれ……めっちゃ……強そう」
「……た、ただ者じゃないっス」
それは僕も感じている。このクールメイド。
ついさっきリヴさんが戦ったボスより遥かに強い。
そしてその隣になんであんたがいるんだ。
「レオルドさん」
「よう。こんなところで会うとはな」
彼は苦笑する。
クーンハント所属の探索者レオルドだ。
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