ウォフ13歳⑤


オーパーツ。

前世だとその時代にあるはずがない技術の産物の総称だった。

有名なのは水晶の髑髏とか黄金のシャトルの置物とか恐竜の土偶とかだ。


でもこの世界では少し違う。

オーパーツはレリックの力を増幅させる。

主に武器や防具やアクセサリー等で、多くはダンジョンの宝として見つかる。


オーパーツは分からないことだらけだ。

相性がありどんなレリックの力も増幅するわけではない。


その相性はレリックの所持者が感じ取れるらしい。

なんというか導かれたり選ばれたりする。


運命だな。


オーパーツは希少だ。

高値で取引をされることもある。


それとは別でレガシーがある。

アイテム版のオーパーツみたいなものだ。

前世の記憶風に言うと魔法アイテムが一番近いか。


アイテムなので消費型や永続型がある。

そしてこちらも貴重なので高い。


「オーパーツですか」

「間違いないね。あたいのレリック【鑑定】で視た」


レリック【鑑定】は一般的に知られているレリックだ。

その武器屋や防具の質やオーパーツかどうか見抜くことが出来る。


「買い取れないとは……」

「ウォフ。こいつは探索者ギルドに持っていくよ」

「探索者ギルドに?」


僕は怪訝に眉を寄せた。

アリファさんは神妙な表情で続ける。


「捜索依頼で、これとよく似た指輪のイラストを見たんだよ。これがそうなのか確かめる為に持っていく」

「それでどうなるんですか」

「もしこれが依頼品なら依頼料を仲介抜いてウォフに渡す」

「そうじゃなかったら?」

「その場合は、そうだね。オーパーツを欲しがっているのが何人か居る。そいつらに売って仲介抜いて、ウォフに渡すでどう?」

「わかりました。お願いします」


売れるならなんでもいい。

指輪を預けて僕は骨董屋を出た。




4日後。

ダンジョンのゴミ場に入る。

いつものようにレリック【危機判別】と【フォーチューンの輪】を使う。


「……うーん」


緑の光はひとつ。ふたつ。

黄色の光はなし。青の光も当然なし。


ただギリギリ白に近い赤のポイントに黄色の光がひとつ……いや諦めよう。

怪我する可能性はなるべく除去したい。


僕は緑の光のひとつめに向かう。

ゴミ山を登って目的地点に着く。


「なあ知っているか」

「なにがだよ」

「例の森。また挑戦した馬鹿が出たぞ」

「またかよ。第Ⅱ級探索者でもダメだったんだぞ」

「無謀にもほどがあるよなぁ。死ぬだけなのに……」

「まったくだ。凄い宝があるって言われてもよ。もうどんだけの探索者が犠牲になっているんだか。しかし、あれってなんで分かるんだ?」

「俺もよく知らねえけど、ギルドに保管されている笛が鳴るんだってよ」

「笛?」

「それで分かるんだってさ」

「なんだそれ」


声が聞こえた。

近くで誰かが雑談している。


「それより、なあ見たか」

「なにが見たって?」


探しながらの雑談。

男の子ふたりだ。


「ほらあの第Ⅲ級探索者のパーティー……すっげえ綺麗な」

「ああ、『トルクエタム』か」

「トルク……なんだ?」

「彼女たちのパーティーの名だよ。トルクエタム」

「へえーよく知ってるな」

「オヤジがギルドに行ったときに知ったらしい」


トルクエタムっていうのか。


「オヤジさん。探索者だったよな」

「しがない第Ⅴ級な」

「昇級しねえのか?」

「前はそう燃えていたけどな。今は諦めてるよ」

「そうか。才能の壁。難しいってきくもんな。おっ、エンブレムだ」

「珍しい。どこのパーティー?」

「烏の……レイヴンサーガ……知ってるか?」

「さあな」

「だよな」

「もう行こうぜ」

「収穫は鏃6個と無傷のポーチと、このエンブレムか」

「俺の方は折れた青銅の剣。鋼鉄のプレート。ウサギの尻尾」

「それ幸運のお守りじゃん。よかったな」

「そうか? だったらこんなところに落ちてねえと思うぞ」

「……だよな」


そうして彼等は立ち去った。

まあまあの収穫だなあ。


「あっ!」


よそ見をしていたらナイフがバギンっと折れた。

取り除きに苦戦している革鎧の一部に金属が使われていた。


それに変な感じに引っ掛かってナイフがポギっと、終わった。

終わってしまった。はああぁ。


「…………はぁ」


ため息が漏れる。ショックだ。むなしいほどショック。


仕方ないので最小限の【バニッシュ】で消して取り除く。

あまり表立ったところで使いたくないが、しょうがない。


「ついてない……」


安物だけど自己流で研いで包丁代わりにもしていたナイフ。

愛着が強い。僕なりに大切に使っていた。


真ん中から真っ二つに折れた。

ナイフの耐久の限界が近かったようにも思える。


「……ナイフ……はぁぁ」


また溜めた息が出る。痛い出費だ。

ナイフは必要不可欠なので無いままなのは考えられない。


この鎧の下の緑の光がせめて短剣ならと願ったが、出て来たのは煙草入れだ。

青銅製。簡易で模様や装飾は無いから平民用だろう。

中身の煙草は乾燥しきってボロボロだ。


崩れたタバコを捨てる。

次の緑の光は砂時計だった。


この世界にも時間の概念はあり時計もある。

ただしこの世界は1日26時間。前世より2時間ほど多い。


まぁだからなんだと。

王都には時計塔はある。

だが通常は教会の鐘の音で時刻を知る。


教会の音は朝6時から夕方まで1時間に1回。

夜は26時の零時に1回だけ鳴る。

分かり辛いがこの世界の時間感覚は正確じゃなく大雑把だからこれでいい。


そして腕時計は無いが懐中時計はある。

ただし技術の粋を込められて造られており貴族用品だ。


値段は詳しくはないが高い。

たぶん現代の高級時計と同じぐらい。

1000万とか1億とか。


砂時計は現代と用途は同じだ。

ストップウォッチというよりキッチンタイマーみたいな扱いをされている。


他にも水時計や火時計などがある。

それとレリックで時間を正確に知るみたいなのが存在するとか。

地味だけど便利といえば便利だな。


あとはレガシーの時計がある。

値段? 天文学的というか国宝だ。


「煙草入れと砂時計か」


緑の光はレアだ。しかしそれが売れるモノかは分からない。

レアだから売れるとは限らない。スーパーウルトラレアが売れないのが良い例だ。


それにしてもだ。

さっき話をしていたふたりの収穫より高く買い取られる気がしない。

それでも売れるときは妙に高値になるのだからわからない。


さて発掘作業に行きますか。


今日はちょっといつもより長めにしよう。

ナイフを買う金が必要だ。

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