Shambles_LIT ケチャップ・イン・ダ・シャンブルス
いろは
ケチャップ・イン・ダ・シャンブルス 1
ノイズ混じりの静寂。
石畳を踏み締めると、ブーツに小石が噛んでじゃりと音が鳴った。確かこの石造りの空間は、過去の趣を再現しているんだっけ。勿論石材はフェイクだが、重々しく、それでいていさぎのいい力強さを感じる。
お父さん譲りの金髪は、今日のためにオシャレに整えてきた。この動きやすい服も、今日のために買った一張羅だ。
気持ちが昂り、その場で軽くステップを踏んでみる。同時に、手に持つ金属質のソレをくるくるともて遊ぶ。……うん、調子も完璧だ。
持ち手をぐっぱと握り直す。この扉の先で、どんな出逢いが待っているだろうか。前のめりになって期待に胸を躍らせる。
ごう音と共に扉の隙間が拡がり、光が網膜に飛び込んできた。向こう側から、歓喜の声が漏れて届く。あっちは既に最高潮だ。
口角が引き攣り、瞳孔が開いてしまう。
もう抑えられない。
これが僕の―――――
『 『
観客が声を揃えて叫ぶ。ビリビリと喧騒が押し寄せ、全身が張り詰めた。
扉の隙間が人一人分になった瞬間、脚のスプリングを解き放つ。ビュンと風を切り、むさ苦しい熱気と血の匂いを全身に浴びた。
砂埃の舞うだだっ広いステージに飛び出し、周囲を素早く見渡す。
今回の舞台はコロッセウム・フィールド。最もシンプルで、苛烈な勝負になりやすいステージ。円形の床と壁のみの構造のため、短期決戦の実力勝負になりやすいのが特徴だ。
今回の相手は遠くに見える大男。ピカピカのレザーで襟の高い服を着ているが……まあ僕に服のセンスはないし、得られる情報はないと思う。
……いや、そんなことよりあの武器だ!
男の人が担ぐ巨大な武器は強烈な圧を放っており、思わず見惚れてしまいそうだ。
一見すると両面が円錐状に尖ったハンマーに見えるが、あの人は重そうにする素振りもないし、重心もブレていない。つまり、あの巨体の中に軽い“何か”が仕込まれているということだ。
そして見た目も芸術的と言う他ない。ハンマーは持ち手の人より更に大きく、ヘッドには大人でもスッポリ隠れてしまいそうだ。かつ使い手と武器の比率が美しく、斜めに構えたなら使い手をアシンメトリーに引き立たせる。
表面に焼け付いた虹色は、神秘的な魅力を醸している。対照的に、真っ赤なマスキングのペイントからは、不器用な力強さが感じられた。
「あの、立派な武器ですね!!」
「テメェ真剣にやれよ!」
男の人の方も活きが良く、ハンマーを向けると唾を飛ばして叫んだ。
「アんなぁ!俺ァこの“
わぁーと歓声が降り注ぐ。
開いた天井から差す日が、表面の赤黒い模様を照らした。あの武器は過去にもう何人も殺しているらしい。
ここでの賞金は、倒した相手の等級と闘いの過激さによって量られる。つまり、相手の体を壊すほど勝ち得になっていくため、理論上は破壊的な兵器であればあるほど利益率が高い。この男の人も、より凄惨な殺し方を狙っているのだろうか。
そう思うとまた、口角が上がってしまう。
「……あ?」
男の人の顔は凍り付いた。
「お……いおいおい見逃せねえぜ、俺の焰樽を一目見たら誰もが笑いを止め赤子は泣き止むんだ……が、お前はコイツを見てニヤついたな上等じゃねぇか……」
男の人は息継ぎもなしにペラペラと喋りながら、ゆっくりと武器を構えた。ハンマーが床を摺り、コロコロと独特な金属音が武器の内部に反響する。
さあ何が来る。この遠距離で構えるハンマー、流石に異常と言う他ない。
近距離武器を持つ上での最初の課題は、遠距離武器にどう対抗するかだ。仮にあの人が銃を持っているなら、あの行動はセオリー外。であるなら、焰樽が持つギミックがここで顕になるはず。
腰に備えた愛器を静かに抜き取る。しかし、まだ身体の影からは出さない。僕もあの人と同じく、その瞬間まで隠し通すのが滾るんだ。
「このボタン様の血肉となって死ね!骨まで殺ぉスッッ!!!」
名前はボタンというのか。気が合いそうだし、ちゃんと覚えておこう。
「オ"オオオオオオオオオオオッッ!!!!」
ボタンは姿勢を低くすると、雄叫びとともにハンマーも大音量で唸り始めた。
「そうか、あれは……!」
この音でピンと来たぞ!あの中にはジェットエンジンが仕込まれているんだ。エンジンの推進力で破壊力を割り増しするつもりなんだ!
地響きが起こり、砂の粒が踊りだす。唸りは徐々にピッチを上げ、10秒足らずでピークに達する。それは人間の可聴域を振り切り、奇妙な静寂が会場を襲った。
そして、次の瞬間
バン!と巨大な破裂音が響く。巨大な黒煙が立ち上がると、ボタンの巨体は見えなくなった。
いや違う。音が聞こえるよりも“速く”、勢いよくこちらに飛び込んできていた。
観察していては間に合わない。反射的に身体が動き、ギリギリで側方に回避した。
ボタンは猛スピードで壁に激突する。かと思った瞬間、ほぼ直角に向きを変え、もう目の前で迫撃の槌を振りかざしていた。
とてつもなく速い。スピードもさながら、機動力も抜群だ。
……だが、今度は僅かに速度が落ちている。恐らくこの機動力は、最初の爆発で生まれたものだったのだろう。
焦らず上体を反らし、背面跳びの要領で回避した。
空中で逆さになり、焰樽を振り下ろすボタンを見下ろす。幾らなんでも、この鋭い角度を急旋回はできないはず。つまり、この瞬間がチャンスだ!
「出番だよ、ピューリット!!」
小銃を構えると、ジャキンと澄んだ金属音が鳴る。すぐさま引き金を引き、銃弾をバラ撒いた。
「
「ちっ……!」
反撃に気付いたボタンは、焰樽の重心を軸に回転し身体を隠す。
鋼鉄の装甲を小銃で貫けるはずもなく、弾は小気味よい音で四方に散っていく。
「そうかァ……テメェも小銃使いかァ!」
ハエを
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