第26話 悪役令嬢にざまぁされたくないので、変装道具を買いましょう③
叫んだと同時に、レフィトへと伸ばした手。
私を見るレフィトの瞳は、まん丸だ。銀のスクエア型の眼鏡に、驚いた表情。眼福だわ……。
……じゃなくて! こういうところだよ。私の悪いところは!
「ドレスを着てないと、今日のデートが終わっちゃうことに気付いてなかった。汚したら、どうしよう……って気持ちでいっぱいになって、その他のことを考えられてなかった。ごめん」
私のレフィトへと伸ばした手は、未だに宙に浮いたままだ。横になったまま伸ばしているから、腕がプルプルしてきた。
驚くほどダサいけど、それが今の私だ。
「わがままなのは、分かってる。それでも、デートを続けたい。……駄目かな?」
自分勝手過ぎるかな。今更だったりする? それでも、自分の気持ちは伝えないと。
私を見つめたままレフィトは動かない。これは、どういう反応なんだろう。困ってる? 迷惑だった? それとも、驚きすぎて思考が停止してるの?
「うはぁー! 羨ましい。俺も可愛い婚約者から、こんなこと言われたいわ!! 何? レフィトはお嬢さんの申し出を受けないんか? だったら、俺が──」
言葉を言い切る前にカガチさんは地面へと沈められた。
そして、がしりと私の手をレフィトは掴んだ。
「愛してる!!!!」
ふぁーーー!! あ、愛してる!!??
えっ? 愛してる? どこにそこに繋がる部分があったっけ?
デートか? デート続行を願い出た部分なのか?
「ドレスは、本当に気にしないで。オレの趣味だからぁ。カミレはオレが眼鏡をかけると嬉しいでしょ? オレもカミレがドレスを着てくれると嬉しいんだよ。だって、それはオレのために着てくれた、オレのための姿だからねぇ。カミレの姿を見た野郎の目を本当は全員潰してやりたいくらいだよ。オレのためにオシャレをしたカミレを見た罪、重いと思うんだよねぇ。カミレが嫌がるから、しないけどさぁ」
スゴい勢いでまくし立てられ、脳の情報処理速度が追いつかない。
何かよく分からないけど、後半は物騒だった。潰すとか、罪とか言ってたし。何で急に犯罪者の話になってるの?
「レフィト、お嬢さんが追いつけてないじゃん。思考を全部口にするなよ」
「カガチさん、全部分かったんですか!?」
「付き合いだけは長いからね!」
レフィトに潰されたまま、親指を立ててカガチさんは笑う。何ともシュールな絵面に、出たのは愛想笑いだった。
「それで? デートは続行すんのか?」
レフィトの下から這い出しながら、カガチさんは言う。立ち上がると、パタパタと踏み潰されていた箇所をはたいている。
「本当に体調は大丈夫? 無理してない?」
「うん。大丈夫だよ。やっと、ドレスを着る覚悟も決まったし」
そう言った私の瞳を覗き込み、レフィトは微笑んだ。琥珀色の瞳がハチミツのように甘い。
「お願いしたいのは、オレの方だよぉ。オレとデート、続けてくれるぅ?」
甘い声が鼓膜を揺すり、甘い瞳で視線を絡み取る。眼鏡の相乗効果で、トキメキがすごい。
顔は熱いし、心臓は壊れるんじゃないかってくらい暴れ回っている。
眼鏡は凶器だ。私の思考を壊す。今、レフィトにお願いをされたら、何でも叶えてしまいそうだ。好きな人と眼鏡の相乗効果を舐めていた。
デートを続けたい。続けて欲しい。そう言いたかったのに、トキメキに押しつぶされ、声は出なかった。
代わりに一つ頷けば、レフィトはへにゃりと笑う。
「可愛い……」
あ、声に出ちゃった。トキメキに押しつぶされてたはずなのに、言わなくてもいいことだけは、口に出るとか……。
「ふふー。オレ、可愛いもんねぇ」
くすくすと笑いながらレフィトは言う。外してしまった銀縁眼鏡を目で追いながら頷けば、レフィトの顔が目の前に迫ってきた。
「眼鏡とオレ、どっちが好きなのぉ?」
……えっ? オレと眼鏡?
何でそんな、私と仕事、どっちが大事なの? 的なことを聞くの?
「比べるものじゃないでしょ」
うん。比べるものじゃない。
「だよねぇ」
なら、何で聞いたの?
ちょっと近すぎるんじゃないかって思うくらいに近くにある琥珀色の瞳を見る。真意は何なのだろうか。
「言ってみただけぇ。眼鏡をした時と、してない時だと、あまりにも反応が違うからさぁ」
「……そう?」
「そうだよぉ。眼鏡に負けたみたいで悔しいんだよねぇ」
そういうものだろうか。眼鏡をしていても、していなくても、レフィトはレフィトだ。
確かに、トキメキ度合いは違うけど……。
何て考えていたら、レフィトの顔が更に近付いた。
ん? んんん? 近すぎない? 近すぎて、顔がよく見えないんだけど。
「ちょっと、レフィト……」
近いと言う前に、鼻の先にちょんと何かが触れた。
「…………え?」
「真っ赤だぁ。かーわいい」
今、鼻にチューしたよね? どうして? いや、婚約者だから当然……なわけあるか!
学園でしている人、見たことないからね! 指先にチュッみたいな感じはあるけど。あと、ほっぺもあるなぁ。その時の令嬢たちの羨ましそうな視線と、取り巻きたちの嫉妬の視線を気にもしないマリアンと王子にある意味感心したんだよね。
ここがふたりきりなら、百歩譲ってありとしよう。でも、カガチさんいるからね!
「今のは、
睨みつけて言ったが、レフィトはにこにこしている。可愛い……じゃなくて、反省しなさい!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます